日本だけではなく欧州でも新聞のオンライン版は苦戦中という所が少なくありませんが、イギリスのDaily Mailはオンライン版が好調です。
この新聞、イギリスでは「右翼で移民が大嫌いでケチでゴシップが大好きな中流階層向け」と悪口を言われる新聞でありまして、中流階層向けの「東スポ」的存在です。「隣の垣根を切ったために殺された」「スーパーで格安お惣菜をゲットする方法」「何議員がエロビデオを買っていました」「長生きする方法」などといった、微妙にせこい庶民感覚満載の記事が中心であります。
日本ではあまり知名度がないかもしれませんが、このせこい内容の新聞、なんと英語の新聞サイトとしてはアクセス世界一です。昨年12月一ヶ月間のユニークユーザーは4500万人を超え、4400万人であるNew York Timesのユニークユーザーを超えています。ユーザーのうち四分の一はモバイルデバイスからのアクセスで、iPhoneとAndroidのアプリからのアクセスは一日22万人ほどになります。Facebookからのアクセスは10%ほどになります。スタッフは全部で60名で、30名はイギリス、20名はニューヨーク、10名はロサンゼルスを拠点にしています。
現時点ではコンテンツは無償であり、オンライン広告の売り上げが収入になっています。オンライン広告モデルに依存するサイトは赤字の所が少なくありませんが、同紙は今年の7月には収支がとんとんになりました。今年の売り上げは3千万ポンド(約37億円)になる予測で、昨年比87%アップです。
さて、他社は苦戦しているのになぜ同紙は成功しているのか。紙バージョンとオンラインバージョンを読み比べると、何となくではありますが、成功している理由がわかります。
まず、同紙は、紙バージョンとオンラインバージョンでは微妙に内容を変えています。紙バージョンではイギリスの政治家のスキャンダル、王室や殺人、年金など「イギリスの中流階級が喜んで読みそうな『読ませる記事』」が中心です。紙の方は完全にローカル向けです。一方、オンライン版は「写真中心の芸能ゴシップ記事」が中心になっています。グローバルな読者向けに、世界的に有名な芸能人の不倫やファッションを積極的に取り上げています。オンライン版の読者と紙版の読者の求める物の違いを十分理解した上でコンテンツを変えているようです。
二点目に、オンライン版は極力文字を少なくし、センセーショナルで、お下品な感じな写真が中心になっています。紙バージョンの方は読ませる記事中心で、文字が多めなのと対照的です。膨大な情報が浮遊するネットの世界では「過激な物」「馬鹿げた物」「面白いもの」だけが読者の注目を浴びます。センセーショナルであればあるほどアクセスされやすい、というネットの特性を理解した上で、過激な見出しや写真を配信している様です。
第三点目として、オンライン版の記事はすべて無償で、広告収入で運営していることです。他のオンライン新聞には有償購読に移行している所もありますが、同紙は広告収入モデルにこだわっています。ネットで無償の情報に慣れている読者にとって、新聞の記事にお金を払うのは抵抗があるから、有償にするとアクセスされなくなることを良く理解しています。
同紙は「右翼な中流向けゴシップ新聞」というちょっと特殊な新聞なのですが、オンライン版が成功している理由には色々参考になることがあるかもしれません。日本の新聞サイトは、過激さや面白さが足りないかもしれませんね。
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