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車から読み解くモバイルとクラウドがもたらすICTの変化

2012.10.05

Updated by Asako Itagaki on October 5, 2012, 07:51 am JST

intel-nobe-20120927.jpg9月27日、デロイト トーマツ コンサルティングにおいて、モバイル業界向けにセミナー「新興国と日本の最新モバイル動向2012」が開催された。本稿ではインテル株式会社 オートモーティブ・ソリューション・グループ チーフ・アドバンスト・サービス・アーキテクト(兼)ダイレクター 野辺 継男氏(左写真)による基調講演「今後モバイルソリューションはどの様に世界を変えるのか」を紹介する。

基調講演のポイントは「なぜモバイル端末が日常生活の中で家電や車とクラウドを結びつける情報ハブとなるのか」「モバイル端末自体がセンサーネットワークを構築し、新たな使い方やソリューションを提供し得る」「これらの現象は新興国にも同時に拡大浸透する可能性がある」という3点である。

車載ナビの技術は「古くなる」宿命

まず最初の話題として野辺氏は、「スマートフォンが車をクラウド端末化する」ことをとりあげた。車のICTといえばカーナビだが、現在日本の新車の7割に車載ナビが浸透しているのに対し、欧米では20%程度でしかない。2004年頃からはPND(Portable Navi Device)市場が急成長したが、これも2007年で頭打ちとなっている。車中でしか使わないナビデバイスは、車の台数を超える成長は望めない。

一方、2007年のiPhoneからはじまり急速に市場規模を拡大しているスマートフォンは、カーナビ・スマートフォン双方の機能拡大につれて、GPS、位置情報、カメラ、データ通信など、技術的にはほぼ同じものになりつつある。こうなると、技術革新は市場規模が大きいスマートフォンの方が圧倒的に早い。

また、車載ナビは車のライフサイクルにあわせて開発が進められるという根本的な問題がある。車の開発期間はコンセプト確定から平均3年で、2年めに機能が確定する。平均購入時点は新車として市場に出てから1年めでなので、つまり購入時点で2年前の技術を使っていることになるわけだ。国内登録者の平均使用年数は約13年でなので「車に内蔵する」技術はどうしても古くなる。

一方で、スマートフォンは、Google Mapのナビゲーション機能をはじめとして、どんどんナビ機能を充実させている。また、ローカルサーチや渋滞情報の取り込みなど、どんどん機能が高度化して、高機能ナビと遜色なくなってきた。

インテリジェントなディスプレイユニットとクラウドをつなぐスマートフォン

「では、車載ナビはスマートフォンに駆逐されるのかといえば、決してそんなことはありません。車にあるべき機能と、外から持ち込む機能の使い分けが重要」と野辺氏は解説した。大手自動車メーカーは、最新のIT機能はスマートフォンで持ち込み、車に最適化した形に表示するという考え方に変わってきているという。

車載ナビの長所としては、車のデザインと一体化していること、大容量の3G表示のデータをローカルで持ち対応できること、ハンドルなどの外部操作スイッチが使えること、高品位のGPSが使用できることなどがある。一方で、スマートフォンは可搬性がありアップデートが可能であること、クラウド端末として使えること、安いことがメリットだ。

両者のメリットを生かした次世代カーナビの形として、野辺氏は車のインテリアとデザインが一体化したインテリジェントな「ディスプレイユニット」とクラウドをのぞくための窓としてのスマートフォンの組み合わせを提示した。車にスマートフォンが持ち込まれたことをディスプレイユニットが検知し、Bluetoothでスマートフォンに接続する。クラウド上にあるコンテンツやサービスにはスマートフォンを通してアクセスし、ディスプレイニットは車に最適化された形で情報を表示する。このような形で車をクラウド端末化する次世代カーナビが2015年頃には登場するだろうとした。実現のための鍵となる重要技術がHTML5である。

車だけではなく、例えばスマートテレビでも同様のことが起る。テレビも車と同様、ライフサイクルが長く10年以上市場に存在する製品である。米国の調査では、テレビの番組を見ながら7割以上がPCやタブレットやスマートフォンを見ているという結果があり、テレビを見せるためのコンテンツを提供するスマートフォン、という役割はすでに顕在化している。

また、映像の伝送に関しても、現在でも既に4K2Kといったハイクオリティ映像については放送の映像伝送帯域では不足しており、通信を利用するしかなくなっている。今後は従来のセットトップボックスがまかなっていたような役割をスマートフォンが担う可能性がある。

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コネクテッドカーとビッグデータの結合による新たなビジネスチャンス

次に野辺氏は、スマートフォンがセンサーネットワークとして機能する可能性について、これも車を例として説明した。

現在の車には大量のセンサーが積まれており、センサーの情報を吸いあげたプローブデータを利用したさまざまなサービスが既に提供されている。最もよく知られた事例は東日本大震災の時に、ホンダ、パイオニア、トヨタ、日産のプローブ情報を集約してGoogle Map上で提供された通行実績情報だ。他にも車の位置情報と変化量を分析して渋滞を判定し、ダイナミックなルート案内を提供したり、位置情報とワイパーの動作情報を分析してゲリラ豪雨を検知するといったもの、あるいはABSの稼働状況から路面凍結状況を予測するといったサービスが既に提供されている。

2010年頃から取り組まれているのが、EV向けのエネルギーマネジメントシステムである。どんな走り方をした車が、どこでどれだけ充電したという情報を集約することで、電池でどれだけ走れるのかの予測を精緻化し、ドライバーに対していつどこで充電すべきかという情報を提供できるようになる。プローブデータから得られるビッグデータを利用することでさらに新たな事業機会が誕生する。

フラット化する市場で日本企業が生き残る道

ところで、これらのプローブデータを使ってできることは、スマートフォンでもある程度は実現可能である。GPSの精度やジャイロの精度など、個別データの正確さは車のセンサーには及ばないが、複数の車から集めたデータを統計処理することでおおよそ正確な状況は把握できる。さらに、Androidのセンサーには気圧計なども実装されており、データを集めることで天気の変化を予測するなど、車にもできないことが可能になる。

スマートフォンは新興国でも急速に普及しつつある。スマートフォンをセンサーネットワークとして活用するニーズは、インフラの整っていない新興国でこそ高まる可能性がある。BRICsをはじめとする新興国のiOS、Android端末は、およそ年率200から400%の増加率を示している。また、iOS、Android端末からのアプリの利用回数も、2011年は米国が半数を占めていたが、2012年には急速に新興国の割合が高くなっている。

市場はもはや世界にフラットに広がっており、Google、Amazon、Salesforce、Facebookなどのクラウド上でWebアプリケーション機能を相互補完的に利用することで、世界中でサービスを展開することが可能になる。サービス提供者は自社サービスのために開発した技術をAPIとして提供することにより、技術提供者とサービス提供者の区別はなくなっていく。

クラウド上のサービスがHTML5で提供されることにより、PCで制作したコンテンツやサービスをスマートフォン、テレビ、ナビなどのnon-PCデバイスでどこでも閲覧・利用できるという形で共存が進む。ハードウェア開発者は、要素技術の高度化に特化することができる。「下のレイヤーの要素義技術に特化するのが日本企業が活性化する道かもしれません」と野辺氏は指摘した。

新興国のグローバルモバイル調査のデータも紹介

基調講演の後、デロイト トーマツ コンサルティング TMTインダストリグループの大西俊介氏と水上晃氏による「グローバルモバイル消費者調査2012」より、新興国と日本の最新モバイル動向を紹介するプレゼンテーションと、野辺氏、大西氏、水上氏によるパネルディスカッションが行われた。

なお、調査の結果については、TMTインダストリグループのメンバーから寄稿をいただき、本サイトの「世界のモバイル事情」で詳しく紹介している。既に第1回「新興国モバイル市場を理解するための基礎データ」第2回「デバイス普及状況と機種」が公開されており、今後、新興国におけるオフロード活用(参考情報)、料金プラン、モバイルキャリアの使い分けなど掘り下げた分析が行われる予定なので、是非ご覧いただきたい。

【関連情報】
デロイト トーマツ コンサルティング、『グローバルモバイル消費者調査』の結果を発表

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。