日本ではシリコンバレーについて読んだり語ったりすることが大好きな人が大勢います。そして、「なぜ日本にはスティーブ•ジョブス」がうまれないのか?と議論する人も大勢います。
実は欧州でも日本と同じ様に「なぜ欧州では起業が盛んにならないのか?」「なぜ我々の間からスティーブ•ジョブスがうまれないのか?」と議論している人々が大勢います。ここでも、「どのように起業家を増やすべきか」「イノベーターを増やすためにはどのように教育を改革するべきか?」という議論が盛んです。
欧州においてこの議論が一番好きなのは多分ドイツ人でしょう。ドイツは欧州で最も豊かな国であり、技術的にも経済の点でも欧州をリードする国であります。Startup Culture: Germany and America ComparedとHomework for a European startup ecosystemというサイトで、「アメリカとドイツにおける起業を取り巻く環境の違い」の比較が議論されています。この様な議論を読むと、アメリカと欧州の「文化の違い」が起業に対する態度の違いの下地なんだなということがわかります。以下は上記サイトによる比較の概要です。
シリコンバレー(アメリカ)
独自の技術やサービスを全世界展開するIT系企業が沢山ある
大学に資金が豊富
大学が国際的で多人種にオープン
大学のコースが柔軟で一般教養がある。幅広い分野を学べる
失敗を恐れない
完璧でなくても良い
新技術はガレージから産まれる
世の中をひっくり返す様な革命的な変革が好き
技術の商用化が上手
よそ者に寛容
助け合いの文化。見返りを求めない
行政がスタートアップを助ける仕組み
資金を得やすい
ネットワーキングが盛ん
様々な国の企業と協力
起業後のビジネス展開が容易。北米市場は巨大な上、英語で商売が可能
ドイツ
ソーシャルメディアなどIT系のビジネスはアメリカのコピーばかり
大学はドイツ人オンリーに近く国際的とはほど遠い
大学にお金がない
大学には一般教養がなく専門に特化する。コースは柔軟性がなく幅広い分野を学ぶ機会がない
エリートを養成する大学がない
失敗に寛容ではない
よそ者に寛容ではない
完璧主義。未完成の物をリリースしない
一回失敗したら終わり
新技術は大企業から産まれる
革命が嫌い。ある物を少し改良するのが好き
労働法は硬直的。人を雇うのも首にするのも大変。人件費が高い
起業に税の控除がない
コアな技術は生み出すが商用化がへたくそ
起業後のビジネス展開コストが高い。欧州各国言語も法律も異なる
他の欧州大陸諸国やイギリスはドイツとは文化が異なる所もありますが、よそ者に寛容ではない点(イギリスは除きます)や、革新的な変化を嫌う点などは共通していると思います。
日本でも、アメリカの様に起業は盛んではありません。ドイツの様に、IT系のスタートアップはアメリカの企業のサービスや技術をコピーした物が少なくありません。単なるコピーが「革新的なITビジネス」と呼ばれ、コピーしただけの人が「革新的な若手企業経営者」と呼ばれたりしています。中国や韓国のことを笑えないのです。
日本では社内の人、業界内の人、学校のお友達などのコミュニティ(村)内の人には親切にしますが、外からやってきたよそ者には冷淡な人が少なくありません。
日本では仕事も私生活も失敗は許されません。ちょっとした失敗、例えば誤植やほんの少々の遅刻など、本質には何の影響がない事柄を、重箱の隅をつつく様に責めます。責めるのは大好きだけども、自分で何もしない人、何も発言しない人が大勢います。まるで人の失敗を待っている様な意地の悪い人が少なくないのです。何の付加価値もうまない評論家ばかりなのです。(このブログに文句を言う人は大勢いますが、実名で何か書いて発表している人は多くはありません)
完璧さを追い求めるあまり、製品のリリースや、ビジネス立ち上げのスピードが追いつきません。延々と前例や成功例を探します。
知らない人を助けたり、見返りを求めずに何かする、ということも多くはありません。(東日本大震災で少しは良くなった様ですが)自分の知り合いがいない所では、マナー違反する人が大勢います。
大学も国際的とはほど遠いと言えるでしょう。留学生はアメリカなど英語圏に比べたらごく少数です。教員は日本人ばかりで、多様性に欠けています。日本の大学には沢山のお金はありません。
日本はあらゆる点で、アメリカよりも大陸欧州やイギリスに似ている部分が少なくないのです。大陸欧州やイギリスでは、起業を促進するためにあらゆることに取り組んでおり、徐々に状況は変化しています。日本も起業する人を増やしたいのなら、いきなりアメリカをお手本とするよりも、文化的に似ている点がある欧州の動向を観察してみると良いかもしれません。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。