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弁当男子の何が悪いのか

2012.12.25

Updated by Mayumi Tanimoto on December 25, 2012, 07:31 am JST

数日前から 「イクメン、弁当男子」は、なぜ出世できないかという記事がバンバン炎上しております。

はてなブックマークに生息しているはてぶ民も激怒、Togetterで日夜人様の独り言を読んでいる暇な人々も今回は激怒しております。

この記事は

• 今の若いものは草食
• 今の若いものはガッツが無い
• オレの時代はもっと大変だった

という「団塊テンプレ」に沿って若い者の怒りのボタンを高橋名人真っ青な連打で押しまくって盛大に自爆しているわけです。

日本の若い者は

• 非正規雇用とか貧乏リーマンで銭がないので弁当男が多く
• お金がないので昼に毎日外食なんて無理で
• 非正規雇用や派遣社員の人は正社員の輪の中になんて入れてもらえないし
• 非正規雇用や派遣社員の人はいつ首になるかわかんないし
• 非正規雇用や派遣社員の人は交通費自腹だったりするし
• 非正規雇用や派遣社員の人はメールアドレスが社員と違うとか差別されまくりのことがあるし
• 非正規雇用や派遣社員の人は駐車場が別だったりするし
• 非正規雇用や派遣社員の人は仲介会社になぜか凄まじい中抜きされてたりするし
• 非正規雇用や派遣社員の人は退職金なんて無かったりするし
• 非正規雇用や派遣社員の人は正社員が参加できる行事に参加させてもらえなかったりするし
• 就職は今の方が遥かに大変だし
• 就職できても給料は上がらないばかりかカットだし
• 安給料でサービス残業でブラック労働恒常化だし
• 貧乏すぎて結婚すらできないし
• 家なんて買えないからボロボロの実家に親と住んでいたりするし
• 鬱で休んでると辞めろとか言われるし
• しかも高齢で痴呆の親を抱えていたりする

ということをお分かりでない様です。

この記事が最初から炎上マーケ狙いなのか、それとも、単に高齢ホイホイを狙っただけなのかわかりませんが、若い者を怒らせてしまった、という以外に、とんでもないことを示唆しています。

それは、日本で良く名前が知られている会社のトップが、他の国では絶対に許されないことを、経済誌に堂々と掲載してしまっている、ということです。

まず、「男にはこういう仕事が向く、女にはこういう仕事が向く、従って何々は男には向かない」と会社のトップが言ってしまうのは、先進国的常識では、自殺行為です。

なぜかと言いますと、イギリスや大陸欧州や北米では性差別に対する「罰則」が大変厳しいからであります。企業の管理者が差別発言をしたり、差別行動をしたり、企業が「構造的に差別をしている」「組織的に差別意識がある」と証拠付きで「証明」されてしまいますと、会社に対して訴訟を起こされ、会社側は莫大な賠償金を払わねばなりません。トップの発言だって証拠にならないとは言えません。差別は性差だけではなく、宗教、障害、病気、年齢、性癖、趣味等々色々な物に対してでございます。

ですから、「それなりに常識と教育」がある企業の幹部や管理者は、この辺の発言に「もの凄く」慎重であります。訴訟を起こされたら会社が大変なことになるばかりか、自分のキャリアも終了です。そういうことをわかっていない人は、係長クラスにもなれません。

そもそも、「それなりの教育を受けている人」は、そういうことは言ったりやったりしてはいけない、公平ではない、卑怯なことであると理解しているのですが。

そして、そんな差別的なメッセージを発信するトップや幹部がいる会社には、そもそも良い人が来てくれません。消費者や取引先きだって「え、あの会社ってそんな人がトップなの?」と首をかしげます。公平であること、正しいことは、会社のブランディングに重要なのです。

次に、記事の中では「私生活を犠牲にするブラックな働き方が良い」と示唆されている点です。そんな働き方を企業のトップが「良い」と示唆してしまうのは、あってはならないことです。会社のブランドが落ちるばかりか、会社がちゃんと経営されているのかどうか、ガバナンス(会社の様々な活動をコントロールする仕組み)はまともなのかどうか疑われてしまいます。

イギリスでも大陸欧州でも、企業の業績を見るには「従業員満足度」や「残業時間」「育児休暇取得率」「退職率」「病欠率」「育児補助制度の充実度」「柔軟な働き方を用意しているかどうか」などを評価するのが当たり前です。

それらは会社の人事部などの業績指標になっており、日本の有名企業様の様に、従業員に恒常的に無償残業させているなどとなったら「管理の仕組みがなってない。お前は無能」と言われて散々しぼられてしまいます。酷い場合は首であります。

良い就労環境を用意できない会社は、授業員を不幸にすることが多く、不幸な従業員が多い会社というのは、パフォーマンスが下がったり、従業員が非倫理的なことをやる可能性があるので(会社や職場に恨みを持つ)ビジネスのリスクが高くなるのです。疲弊している従業員が多ければ、ミスや事故に繋がりますから、良い商品やサービスを提供できるわけありません。良い仕事は、良い環境と十分な休息が無ければ産まれないのです。

良い就労サポート制度を充実させつつ、従業員様の健康を守り、満足度も高めながら、良いパフォーマンスださなくちゃなりませんので、こっちの企業の経営者や管理職って要求されることが多いわけです。プロの経営者や管理者じゃないと、その辺をうまーくやるのが難しいんです。だから給料が高いのですが。

さらに、こういう「男と女で向き不向きが違う」という発言が公の場にでてしまうというのは、この会社の広報やコンプライアンスに何か問題があるのかもしれません。普通は、広報やコンプライアンスの方々が「これは言ってはいけない」「我が社としてはこういうメッセージを出していくべきだ」というのを十分理解しています。国際ビジネスをやっている会社なのに、そのような発言がでてしまうということは、広報やコンプライアンスの統治機能が機能していない、ということを示唆するのかもしれません。

また、「昼食を一緒に食べれれば仕事につながる」という発言も気になります。

「同じ場所にいて、食事や酒の付き合いをべったりしないと良い仕事はできないのではないか?」と示唆しておられる様でありますが、対面でねっとりとした関係を作らなければ良い仕事ができない、というのは随分時代遅れだなあ、という感じがします。

今は世の中の動きが速いですし、優秀な人は遠隔地にいたり、外部の専門家だったりするので、仮想チームを組んで、デジタル環境を生かしてバンバン仕事するのが当たり前なわけです。物理的に一緒にご飯に言ったり飲みに行くのが無理なんですから仕方ありません。それに、在宅勤務や週に2−3回しか会社に来ない人だって大勢います。

それで仕事に支障があるかというと、別に成果物がでれば良いのですから、特に問題があるという訳ではありません。

例えばワタクシの友人など本人はアメリカ東部で働いていますが、上司は香港、シンガポール、フロリダにいます。全員いる場所が違いますが同じチームで顧客への提案や営業をやっています。欧州では大変良く知られている大規模な技術系企業です。

カルフォリニアにいる別の友人は上司には月に一回しか会いません。普段はチャットで交流しています。そんな調子で仕事してもう10年以上になります。しかしここ、どっかのブラック企業ではなくって、日本でも一般の人が名前を知っているあるソフトウェアです。

こういう働き方はちっとも珍しくないわけです。日本ではびっくりされてしまうけど。多分日本が異常なんでしょう。先進国としては。

こういう「働き方の大変化」が起こっているにも関わらず「ねっとりつきあわないとダメだ」と企業のトップが言ってしまう、というのは、どうなのかな、という感じな訳です。

それから、弁当男子だからダメだって、一体何が根拠なんでしょうか。自分で料理ができて健康管理もできるなんて、素晴らしい人です。コンビニのお弁当よりも、手作りのお握りやサンドイッチの方がうんと健康に良いはずです。仕事しかできない人と一緒に住みたいなんていう女性や男性やゲイやレズビアンっているんですかね。

そもそも、自分でお弁当つくって昼は公園で食べたり、職場や社外の人と食べたりするぐらいの余裕がある量の仕事で会社がまわる様にするのが経営者の責任なんじゃないんでしょうか。

そういう会社じゃないと、様々な国から良い人は来ないんですよ。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。