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「セカ就」の無責任さ

2013.01.07

Updated by Mayumi Tanimoto on January 7, 2013, 01:03 am JST

日本で雑誌を眺めたりテレビでお正月に放映されているテレビを見ておりますと、やたらと「海外で頑張る若者」を取り上げる記事や番組が多いことに気がつきました。リクルート社によりますと、今年のトレンドワードは「海外を意識して就職活動する」という意味の「セカ就」(世界就職?)だそうであります。日本が景気が悪かったり先行き不安なので「いっそ海外に出てしまえ」というわけです。

しかし、雑誌でもテレビでも取り上げられる人は、現地語はおろか、英語さえ微妙で、いきなり外国に行ってしまった、という場合が少なくない様です。見ていてなんだかぞっとしました。

実際に外国に住んで働いた経験のある人間であれば、それがどれだけ無謀で恐ろしいことかよくわかります。

以下は「なんで無謀だと思うか?」の理由です。

まず、英語も現地語もできないのに、どうやって就労許可を取得しているのか?先進国ではどこも就労許可を取得するのは難しい場合が少なくありません。最近は移民国でさえ規制が厳しくなっています。言葉がわからないのにどうやって合法なビザを取得しているのか?業者を使えば済むのかもしれませんが、役所に出す書類すら作れないのでは、現地で仕事なんてできないでしょう。

次に、英語も現地語もできないのに、どうやって生活しているのか。先進国で日本人が多い場所であれば、日本人の不動産屋にぼったくられれば暮らせますが、発展途上国や僻地はそうはいきません。私が住んでいたイタリアには日系不動産屋なんてありませんでしたので、自分で様々な物件を回り大家さんと交渉です。しかし、外国人嫌いな大家さんが多いので物件探しに一苦労です。契約書はイタリア語です。英語しかわからなかったので、うんと苦労しました。

ついでに光熱費の支払い、ゴミ出し日の確認などどうやってるのか?言葉がわからないと現地の決まりを破って近所に白い目で見られたりするので大変なんですが。(日本だって外国人がゴミの出し方間違ったら怒られますよね)

さらに、現地で起業している方。英語も現地語もできないのに、どうやって売り掛け金回収や経理処理、従業員の管理、契約処理などやっているのか?言葉がわからなかったら細部の確認や、交渉なんて無理なわけです。いくら信用できる現地のパートナーなり友達なりいても、言葉がわからなかったり、地縁血縁ないのなら、ワタクシだったら恐ろしすぎて商売なんてやる気しません。従業員をどうやって監視するんでしょうか。先進国なら何とかなるかもしれませんが、発展途上国の場合は、法治国家ではなかったりしますし、コネで様々なことが何とでもなったりします。恐ろしいです。

また、英語も現地語もできないのに、危機管理をどうやってやるのか。これがワタクシの最大の疑問であります。言葉がわからないと現地事情わかりませんので、危険を事前に察知することができません。特に政情不安な国や発展途上国の場合、何があるかわかりませんから。

また、外国人はどこの国に行っても目立ちます(多国籍都市や移民の多い国は除きますが)商売できる程の大金を持った若い外国人が地元にいる、となったら、そういう情報はあっという間に広まり、犯罪者のターゲットになります。言葉がわからないから、何をやっても被害者は訴えようがないですし、地縁血縁ないので、復讐される可能性もありませんので。物価水準が異なる国だと日本では小額でもその土地では大金です。

日本の雑誌や新聞の記事、テレビは、このような「陰の部分」は紹介せず、面白おかしいことしか言わないので、あまりにも「無責任」だと感じました。「光」の部分のみの紹介が、読者や視聴者にどんな影響を与え、その結果、一体どんなことが起こるのかは考慮していない様です。

イギリスでも海外就職事情などを紹介する番組や記事はありますが、特にテレビの場合は、「陰」の部分も詳しく紹介します。現地で頻発している犯罪、汚職などもです。テレビは公共の資産である電波を使って放送していますから、民放であっても「視聴者に対する説明責任」という物があり、なるべくバランスの取れた番組を放送する様にしています。

それに、あまりにも良い部分のみ煽る様な番組を放送したら、視聴者から文句が来ます。雑誌や新聞の場合は、バランスのない記事を書くと読者より文句が来ますので、悪い部分も紹介されます。イギリス人は世界中に散らばっていますので、嘘はすぐにばれてしまうのです。

ワタクシは決して挑戦するなと言っているわけではありません。挑戦するなら成功してほしいです。そして挑戦する人には幸せになって頂きたい。危険な目にあうなんてもってのほかです。日本人には頑張ってほしいのです。だからこそ、ワタクシはこれから海外に行きたい人に相談されると、悪い部分、注意するべき部分などもはっきりと伝えます。知っておけば危険を回避できます。成功する確率が高くなります。

世界で活躍する日本人を増やしたいのであれば、良い部分、悪い部分、双方の情報を紹介するべきではないですかね。日本の新聞や雑誌、テレビは、ワタクシには「愛情が無い無責任な親」の様に見えるのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。