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景気が悪いとプチ右翼メディアが受ける

2013.02.11

Updated by Mayumi Tanimoto on February 11, 2013, 07:45 am JST

イギリスのリベラル系新聞であるガーディアン紙のジャーナリストがストに突入する模様です。経営側はコスト削減のために、100名の編集職の削減を目標としており、現在自主退職を募集していますが、応募者は30名ほどで目標に達していません。345名のジャーナリストの88%が「ストに突入する準備がある」と答えており、ガーディアンの経営側と、ジャーナリストが加盟する組合であるNational Union of Journalists (ナショナルジャーナリスト組合:NUJ)が、現在、経営側はリストラ以外の方法でコストを削減できないかどうか交渉している所です。

イギリスでは、オンライン版の収益が昨年赤字から脱して利益を出し始めたDaily Mailの様に、ネット時代に対応してうまくやっている新聞もあります。またロンドンの老舗夕刊新聞で、元々有償でしたがフリーペーパーになったEvening Standardは、オンラインも紙もうまく行っています。 今年は何とテレビ放送も開始します。ところがガーディアンの場合は、赤字を垂れ流している状態なので、昨年は紙版をすべて辞める、という話も出たほどです。

Daily MailやEvening Standardのようにうまく行っている新聞と、ガーディアンの様に危ない所の違いを分けているのは

• 読者の読みたいコンテンツを提供している
• 読者の数が多い
• 単純なレイアウト
• 芸能ゴシップ
• パンチの効いたコラム
• 庶民向けで下世話
• 字が少ない
• 字が大きい
• 単純化
• 節約情報
• プチ右翼

です。

Daily MailやEvening Standardは徹底的に庶民目線です。世の中、庶民ばかりですから、庶民の心をゲットできれば多くの購読者をゲットできます。記事は少々お下品でセンセーショナルな芸能ゴシップや政治家ゴシップ記事。合間に、ちょっと右翼フレーバーな記事が散りばめられています。

典型的な右翼フレーバー記事は、「移民は国に帰れ」「EU脱退」「多国籍企業は悪」「公務員は悪人」「貧乏人に金を」「若者に仕事をよこせ」「うるさい隣人は訴えましょう」「ゴミの出し方が悪い奴は訴えましょう」であります。

税金を払っていない多国籍企業や、とんでも製品を売りつけた会社などを「悪の権化」と攻撃するキャンペーンをやったりすることもあります。延々何週間にもわたって「この会社は最悪です」と言う記事を掲載し、その会社や賠償を提供したり、謝罪すると「皆さん!我々の勝利です!正義は勝つんです」という記事が載ります。

さらに、生活保護をごまかしていた人を、サイトや新聞で曝すという「私刑」もお得意です。その合間に、「この保険は安い」「今日からどこが安売り」という「セコい節約情報」が混じります。

コラムニストのコラムは皮肉たっぷりで、少々過激でお下品。でも読んでいて「ふふふ」と笑いがこぼれる様な物が結構あります。コラムでは、政府や王室批判、政治家の文句、くだらないしきたりやオリンピックなどの税金の無駄使いの批判など、はやり庶民目線の内容が多いです。

要するに庶民は正義が好きで、多国籍企業、王室、政治家、官僚、金持ちセレブ、移民、税金をごまかす人が嫌いで、節約とゴシップが大好き、とうことです。

また、どちらの新聞も、紙でもデジタルでも、写真も字も大きく、難しい単語は使いません。ゴシップ写真ほどサイズが大きい。こういうレイアウトがうけるのか〜となかなか参考になります。

一方、ガーディアンは、リベラル(左翼)系新聞なので、「弱者を助けましょう」「動物保護は大事」「オーガニック食品はここが良い」「ベジタリアンの権利」「自転車に乗りましょう」「暴動が起こったのは弱者に保護が足りなかったから」「国際協調」「デザイナーズベビーグッズはここがおすすめ」「税金を払いましょう」「ケイトのプリンセスファッション」という、日本だったら「プロ市民新聞!!」と2ちゃんねらーに攻撃されていそうな記事が並んでいます。使われる単語は難しく、字は小さく、皮肉の利いた記事はありますが、少々お上品です。

ちなみに、経営危機のガーディアンでありますが、なぜか経営者のお給料は破格であります。弱者を救えとは言っていても、従業員は救わない様です。

Daily MailやEvening Standardは、景気が悪いときでも、紙でもデジタルでも、儲かるコンテンツは儲かる、そしてどんな物は受けるのか、という事例として参考になりそうですね。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。