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ベンチャーに足りないものを手に入れる人脈づくりとは

2013.02.25

Updated by WirelessWire News編集部 on February 25, 2013, 15:23 pm JST

シリコンバレーのインキュベーション企業から、日本のEV2輪(電動バイク)ベンチャーという全く新しいジャンルに飛び込み、たった2年で国内シェアトップとなったテラモーターズ。創設者の徳重徹氏は、「思い込みに囚われないロジカルな思考が成功への道を切り拓かせる」とし、そこで必要なのは「明確な指標を掲げ、やり遂げねばならないという使命感によって組織を進化させること」だと語る。[写真:スタイル株式会社 竹田 茂/構成:野々下裕子]

tokushige01.JPG徳重 徹(とくしげ とおる)
テラモーターズ株式会社 代表取締役。1980年山口県生れ。九州大学工学部卒。住友海上火災保険株式会社(現:三井住友海上火災保険株式会社)にて、商品・経理企画等を担当。29歳で退社、渡米し、米Thunderbird経営大学院にてMBAを取得する。その後、シリコンバレーへインキュベーション企業の代表として IT・技術ベンチャーのハンズオン支援を行い、事業の立上げ、企業再生方面にて実績を評価される。2010年4月に新規ビジネスとしてテラモーターズを設立。2年で国内シェアトップとなる。経済産業省「新たな成長型企業の創出に向けた意見交換会」メンバー。一般社団法人日本輸入モーターサイクル協会電動バイク部会理事。主な著書に、『世界へ挑め!』(フォレスト出版)

日本独特のビジネスへの思い込みを変えたい

シリコンバレーにいた私がなぜ日本でEV2輪ベンチャーを立ち上げたのか、みなさんは不思議に思って質問されます。電動バイクの製造は、まず基本となる製品コンセプトやアイデアがあり、それを実現する技術者やデザイナーといった専門家を集めて設計する。部品の発注や製造ラインは台湾や中国で行い、コストを下げて市場競争力を高める。つまり、AppleがiPhoneやiPadを作る方法と同じで、まさしくシリコンバレー的な戦略で参入可能なジャンルなのです。

そうであれば、長いキャリアとノウハウを持った既存のバイクメーカーにすぐ追いつかれるのではないかと言われます。しかし、彼らはガソリンバイクで築いてきた財産があるのでモーターで動くEVに参入するのはかえって難しいはずだと考えました。結果、その読みは当たり、テラモーターズは創業から2年で日本のEV2輪市場シェアでトップとなることができたのです。

日本にはたくさんベンチャー企業がありますが、私から見てもったいないと思うのは、既成概念に囚われすぎていること。たとえば、日本で売れなかった製品も市場を移すだけでバリューが出てくるものがたくさんあるのに、「起業するだけで手いっぱいだから海外進出なんてリスクは取れない」と言うのです。

「リスク」という言葉の意味も日本では少々誤解があって、本来は "volatility" といった市場での変動を指す言葉であって必ずしもネガティブな意味だけで使われていません。リスクを取ることは成功のリターンも得ることで、大きく成長を目指すならリスクはとるべきものなのです。

最近では少し変わってきたかもしれませんが、日本ではまだまだ失敗が許されない風潮があります。そのせいで、せっかくいいものを持っているのにチャレンジしないまま撤退してしまうケースも少なくない。同じ失敗でも内容がどうであったかが大切で、次に活かせるようにしなければ、それまでの経験を全て無駄にしてしまうことになります。

日本に足りないのは人と金とビジョン

日本のベンチャーは実力では世界で十分通用する力を持っているのになかなか成功しないのは、人と金とビジョンが不足しているからだと私は考えています。ベンチャーや新規議場への投資額が海外に比べると10倍以上足りず、最初から世界のトップを目指すというところも少ない。シリコンバレーが今でもすごいのは、次のMicrosoftやApple、Facebookを本気で作ろうとしている優秀な人材がたくさん集まって、それに投資する環境も支援する人間もたくさんいるところです。

特に人材に関する環境は大違いで、シリコンバレーでは優秀な人間でも常に120%かそれ以上の実力を発揮して切磋琢磨してさらに上を目指そうとします。しかし、日本の大企業に入ると優秀な人間は、60%ぐらいの力に抑えないと出る杭を打たれてしまうため、外を見ようともしなくなります。それが優秀な人材を日本から中国やアジアへ流出させてしまう深刻な問題を生み出しているとも感じます。

ベンチャーこそ優秀な人材。優秀な人材を集めて組織を進化させる必要があり、そうでなければ世界のリーディングカンパニーなど目指せません。当社では若い人材にもどんどん権限を委譲し、20代の人間に日本市場を任せようともしています。大企業と比べて資金も経験も信用もない中で実績を出さなければならないけれど、自分の力を伸ばすチャンスでもある。そうした仕事を経験ができることを期待して大企業の優秀な人材が当社に転職を希望してくるようになりました。

ものづくりとはことづくりである

どんなに素晴らしいビジョンがあってもそれを実現させるには、資金や人、パートナーの存在が必要です。当社のようにバイクメーカーに縁がない、全くの新規事業を成功させるには、市場で信頼を保証してもらうためのパートナーの存在が重要になります。ほとんどのベンチャーはそうした場合、銀行や関係者の紹介を頼るのでしょうが、私は協力をお願いしたい方に直接アポイントをとってアプローチしました。そうして協力してくださったのが、ソニーの元会長である出井伸之氏や、コンパックコンピュータの元社長である村井勝氏です。Google Japanの元代表取締役社長である辻野晃一郎氏は、若い社員が著書を読んだのをきっかけに協力を依頼しようと思いつき、そこでアタックして関係が始まりました。

そこで大事だったのが、ビジネスのストーリーをデザインするために思い続けることでした。私には、日本のものづくりだけでなくEVでアジアのモビリティ市場を変えたいという強い思いがあります。それはパッションというよりも、「成功体験をつくり出すことで日本のベンチャーを変える」という使命感。世界で勝てるベンチャーを日本から創出したいのであれば、そのやり方をロジカルに構築することも大切です。それを私はベンチャーのOSと言っています。このような起業家で、かつ日本の将来を見据えながら海外進出も考えているのは自分以外におらず、それが自分にとってのユニークネスにしようとしています。

先人から日本ならではの強みを学ぶ

私は講演でよく話をする、司馬遼太郎の『坂の上の雲』に登場する明治時代の起業家たちは、40代で社長になるのが普通でした。彼らには、世の中のコンプライアンスを押しきる力がありました。今、そうした力は東南アジアにあるのに、なぜか日本では失われてしまった。ロジックとパッション、あるいは起業家精神と戦略的思考といってもいいのですが、坂上の雲の時代の人たちはその両方を備えていたのに、なぜ今はできないのでしょうか。それを取り戻すにはどうすればいいかを日々考え、時には高度成長期以前から大企業などでビジネスを経験されてきた70代の人たちに話をお聞きすることもありますが、それこそ本では読めないたくさんの知識を得る機会になっています。

そうした先人たちの話を聞いていて強く思うのが、「日本人は日本発であることにもっと自信を持つべきだ」ということ。当社のEV2輪は最初からバイクが主要交通手段であるアジアがターゲットで、すでにベトナム・フィリピンに現地法人を設立しています。しかし、日本で創業した理由は、日本発というだけで市場に対するバリューがあるからです。Appleの製品はほとんど海外で製造されているけれど、本体には "Design by California"と表示されていて、それに "Assembled by China"とか表示されています。それは自分たちのプライドの現れでもあり、同時に付加価値であるとわかっているからです。そうした感覚は日本の外に視野を拡げ、行動するとわかってくるものですが、それこそが今の日本に欠けているものなのかもしれませんね。

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当社の次の戦略としては、スマートフォンなどと連携でき、なおかつデザイン性の高い、テスラモータースのスポーツカーのようなインパクトのあるEV2輪の新製品を秋までに発売する予定です。もう一つはアジア開発銀行によるEVタクシーの入札事業への参加で、これを成功させて東南アジアのモビリティにイノベーションを起こそうと考えています。東南アジア市場は有望で、新規事業に投資する資金力もあり、国家からの後ろ盾もありますが、唯一技術力がない。そこで日本とつながれる可能性があり、ベンチャーならではのスピード感で取り組もうとしています。モーターや各種部品など、製品作りのためのパートナーを世界中で探し、バッテリーメーカーではSamsungと組んでいますし、デザインではイタリアのメーカーと話を進めていますが、意思決定ができる人間を現場に派遣してどんどん話を進めるので驚かれることがあります。

自分たちの中に明確な目的があれば、それを動かす力が出てくるし、足りないものも新しく生み出すことができる。そうした感覚を伝えるのは難しくて、私の話を聞いて明日からすぐ変われるわけではないのですが、そこに少しでも明日につながるビジョンを感じてほしいですね。

徳重氏は2013年3月16日(土)、「日本人の働き方をリデザインする」をテーマにしたセミナー「第4回 イノベーターと学ぶ"新しい仕事術"」(主催:日経BPnet/BizCOLLEGE)で、「強いパートナーがいるから成功した~仕事で勝つ確率を高める人脈とは?」をテーマに登壇を予定しています。自身の実体験を基に、どんな時に、どんな人脈が役立つのか、また自分を成長させる人脈とはどのうようなものかについて、具体的なエピソードを交えてひもときます。セミナーの詳細および申込はこちらをご覧ください。

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