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やがて訪れるデータ・エコノミー社会の将来像〜ビッグデータだけでは見えない情報社会の真実〜[第2回]荒川祐二氏「奪われた音楽との出会い」(1)

2013.02.26

Updated by on February 26, 2013, 16:00 pm JST

201302261600-1.jpgデータが流通し、データに対して値付けがなされ、人々が買う。データのマーケットやデータ・エコノミーという観点から、音楽コンテンツは他の業界を先行しているといえます。

一方で、コンテンツ産業全体としては、市場規模の縮小傾向が続いており、その要因にライフスタイルの変化やデジタル化による単価の減少などが指摘されています。音楽に接する機会そのものの減少も看過できない要素と言われます。

データの利用において、中心となるのはあくまでも人間だという本連載第一回の公文氏の提示された原則を踏まえるならば、音楽コンテンツはまさしく人間が利用してこそ意味のあるデータです。データと人の向きあい方を探る意味でも、音楽業界にデジタル化、データ化がもたらした影響を改めて整理することは重要です。

「データ中心社会」というビジョンを探る本プロジェクトの第2回では、音楽業界の中でもデータや情報について真剣に向き合ってきた民間音楽著作権管理団体であるジャパン・ライツ・クリアランスの荒川祐二代表にお話をうかがいました。

フラット化する音楽コンテンツ

──ビジネスや日常生活の中に、情報やデータが入ってくることによって、変化が起きる場面が増えています。音楽コンテンツがデジタル化を経て、ダウンロードやストリーミングへと提供形態が変化してきたことで、人々との関係も何かしら変化してきたと言われます。デジタル化やデータ・エコノミーというものは、音楽産業にどんな変化をもたらしたのでしょうか。

荒川氏:新人がデビューしたり、あるいは新しい楽曲を世に送りだしたりするときに意識する競争相手は、ひと昔前であれば同じジャンルで過去1〜2年くらいに活躍している人たちや、別のジャンルだけど似たようなマーケットに訴求しそうな人たちでした。

ところがSpotify(※)に代表されるような、1千万曲を超える大量の楽曲を抱えたクラウド型のサービスが普及すると、例えば新人4人組ロックバンドにとって、ビートルズやローリング・ストーンズのようなアーティストが潜在的な競争相手になってくる訳です。

作り手側と送り手側、そして受け手側それぞれを見ていても、この変化をリアルなものとして意識出来ているかと問われると、まだまだこれからのように見えます。

──音楽アーカイブへのアクセスは、ここ数年で急速に充実してきました。Spotifyはまだ日本向けにスタートしていませんが、YouTubeにも名曲やヒット曲と呼ばれるものが、公式/非公式ひっくるめて大抵アップロードされていて、いつでもアクセス可能です。音楽に対するアクセシビリティが、ある意味で極端なまでに上昇しているともいえます。

荒川氏:例えば、今の若者も初めて聴くカーペンターズを「いいね!」と思うわけです。このことは現役の若手アーティスト側からすると「(潜在的)ライバルが増える」という意味において"問題"なのかもしれないけど、逆に、キャリアを積んできたアーティストにとっては、自らの過去の資産を活用できる状況になってきたと言えるのかもしれません。

ただし、「活用」という言葉がマネタイズを意味するかというと、必ずしもそうではない。Googleのように上手くユーザーとコンテンツを束ねていく人たちによって、束ねるコンテンツが増えることは仕事が増えることを意味するので多少は好転していますが、コンテンツを作っている側の実感としては、「音楽に接する機会が増えている」と状況になってきている割には、実際のマネタイズが結びついていません。

多くのアーティストが改めてライブ活動に積極的になり始めた一因には、そういった意識も作用したのかもしれません。

──消費者側にとっても、好きな時に好きなものを何でも自由に聞けるという状況を通り越して、選択肢が過剰で手に負えなくなりつつあります。音楽を聴くに際しても、あるジャンルや流行に触れる入口まで辿り着くのは容易になりました。でも、受動的では絶対に最深部は触れず、自ら掘り出すといつまでも終わりません。一方である特定アーティストさえ聞ければよいというリスナー層がいて、深く掘る層との間にミドルクラスのアーティストがタコツボ化された感じで存在しています。

荒川氏:状況はタコツボ化が進みながらも、それぞれのタコツボの中ではたいへん充実している...、そんな感じですね。外からは見えないけれど、中に入ってみるとスゴイことになっている。でも、この状況下では、従来のビジネスモデルのままで音楽を商売にしていくことが難しい。

音楽の価値、正確には「価格」が何によって決まるのかというのは、単純にビジネスの側面からだけ見れば原価の積み上げでしかありません。そもそも、音楽制作のプリミティブなところに立ち返れば、頭に浮かんだものを書きとめるという意味において原価はほぼゼロです。その作品を何らかの器に入れて流通させていく過程で、ビジネス上の価値が勝手にあとから付いてきたのです。

先ほど「新人とビートルズが競合する」という話をしましたけど、資産という点からはビートルズはすでに減価償却が終わっています。プリミティブな原価がゼロに近いという事実を合わせて考えると、音楽の価格は限りなくゼロに近づいて行かざるをえないのかもしれません。

ビートルズでなくとも、アーカイブされている過去のアーティストと、新しく売出し中のアーティストとでは原価ベース価格の面でも競争できません。これから減価償却するアーティストと、減価償却済みの数百万曲が戦うのですから。

ただ、このこと自体は新しい話ではありません。例えばクラシック音楽の演奏家がいい例です。シンセサイザーでオーケストラの音が手軽に作れるようになったけど、バイオリニスト達が大量に職を失ったわけではありません。クラシックの演奏というものは、依然としてシーンのなかで盛り上がっている。

いささか話が逸れますが。時代的に古びてしまった作品であっても、常に新しい演奏によって蘇ってくるということが、先にも触れた「多くのアーティストが改めてライブ活動に積極的になっている」というシーンに相通ずるところがあるようにも思えます。

キャリアのある人は、キャリアを活かして様々な形で再生産しながら、長く生き続ける。でも、新人が出てくるのはますます難しくなるので、結果として音楽シーンがジャンルごとやアーティスト別にタコツボ化していってしまうのかもしれません。

(2)データは利用主体を意識しないと意味がない に続く

(※)spotify:スポティファイ。現在欧米及びオーストラリアなどで普及している音楽ストリーミングサービス。無料(広告付き)と定額制の有料サービスがあり、クラウド上の音楽は聞き放題のビジネスモデル。日本には未参入。

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