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バルセロナぶらぶら節~ バルセロナは不穏な空気

2013.03.04

Updated by Tatsuya Kurosaka on March 4, 2013, 14:00 pm JST

▼日中の平穏なランブラス大通り
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今年のバルセロナは治安が悪い--これが日曜の早朝に入った私の第一印象です。

私が知る限り、5人以上の日本人のジャーナリストや通信業界関係者が、端末などをスリや窃盗に奪われています。それもモバイルワールドコングレス(以下MWC)の開幕前後という、かなり早い段階での被害だったようです。

さすがに各人とも通信業界の猛者であり、バックアップとなる通信手段は確保していたようです。それでも、旅先でのスリや窃盗、あるいは紛失は、それだけでも気分が凹むもの。ましてケータイはもはや私たちの分身でもあります。誠に気の毒というより他にありません。

警戒が不十分だったのでしょうか。確かにバルセロナは欧州の中でも治安の悪い街として知られています。不用意にスマートフォンやタブレットを街中で広げるのが危ない、というのは基本のキの字というもの。しかしそれを踏まえたとしても、今年は何か様子が違うように思えました。

なにしろ私自身、今回はじめて、暴漢に襲撃されそうになりました。6回目のバルセロナにして、初めての経験です。

日本人にしては割と大柄で、ふてぶてしく街を闊歩する私は、自慢ではないのですが、これまで海外で窃盗や暴漢に襲われるようなことはありませんでした。本人は温和なタイプと思っているのですが、結果的には空港の入国手続きで別室に連れて行かれることがたまにあるような、そんな人間です。

しかし、MWC会期2日目の火曜夜、バルセロナの目抜き通りであるランブラスから少し奥に入った、ホテルへの帰り道。大通りから着けてきていた若い二人組の男に、足を絡められ、倒されそうになりました。

▼日中は穏やかな場所なのですが...

相手も「ビギナー」だったのか、あまりに行動が分かりやすかったので、こちらとしてもいろいろ準備をすることができました。過度に反撃すると逆ギレされて被害が拡大するかもしれないので、身をかわして相手を封じ、大声を出す程度のことにとどめたこともあり、すべては未遂に終わったのが、不幸中の幸いです。

治安悪化の理由の一つに、今年は例年になくスムーズにバルセロナ入りできた、ということが挙げられます。往復の航空券の取得や宿の手配が困難など、MWC開催に伴い交通は大混雑。しかも去年はMWC開催にあわせて、バルセロナ市内の公共交通機関のストが予定されていました。これは結果的に回避されたものの、バルセロナ入りを諦めた人もいたようです。

しかし今年は特に問題もなく、多くの人がバルセロナに入ることができました。ということは、窃盗集団なども大挙して現地入りできた、ということでもあります。

世界的にみても数少ない成長セクターである通信産業関係者といえば、多くの来場者はスマートフォンなどの高額商品を身につけているのは容易に想像ができます。そして率直に言って実入りも多いはず。スリたちから見れば、鴨ネギの入れ食い状態となるのでしょう。

それと裏表の関係にあるのが、欧州の不況です。MWCが開催されるスペインの失業率は、直近の2012年10-12月期で26%、特に若年層(16-24歳)の失業率は55%と、過去最悪の強烈な数字を記録しています(スペイン国家統計局調べ)。実際MWC会場でも、スペインの通信事業者最大手テレフォニカの不当な処遇などに抗議するデモが展開されていました。

▼MWC2013会場でのデモの様子

理屈ではそうしたことも理解できます。しかしとにかく、ショックでした。バルセロナへの出発日に誕生日を迎え、紛う方なきアラフォーとなった以上、もはや私も普通に襲撃のターゲットとなってしまうのが現実なのかもしれません。しかしそれを割り引いても「これまでとは何かが違う」、そんな今年のバルセロナの空気でした。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。