日本では最近携帯キャリアに対する苦情が増えている様ですが、日本ではどこに苦情を通報して良いのかよくわかりません。
イギリスの場合、消費者と小規模事業者は、まず英国通信庁(OFCOM)に苦情を申し立てることになります。しかし、英国通信庁は個別紛争を直接解決しません。代わりにテレコム業界専用の裁判外紛争解決手続が用意されているのです。消費者にとってもキャリアにとっても紛争解決の手間が省けるので、日本でも作ったらどうかなあと考えています。
イギリスでは、従業員10名以上の通信サービス事業者は、Alternative Dispute Resolution (ADR) Schemeに加盟する義務があります。英国通信庁では、どの事業者が、どのスキームに参加しているかを確認することが可能です。例えばVodafoneの場合、Ombudsman Services: Communicationsに参加していることがわかります。
Alternative Dispute Resolution (ADR) Schemeには、 Ombudsman Services: Communicationsと、the Communications and Internet Services Adjudication Scheme (CISAS)の二つがあり、事業者の業種や規模によりいずれかに加盟しますが、イギリスの通信事業社のすべてはこのスキームに参加しなければなりません。
どちらも衛星放送、テキストメッセージ、ネットコンテンツ、ブロードバンド、スマートフォンなど、ありとあらゆる通信サービスだけではなく、通信事業社での雇用問題まで取り扱います。(雇用問題でもめ事の多いイギリスらしい仕組みですね)このスキームでは、第三者機関が事業者と消費者の間に立って、裁判を起こさないで問題を解決します。裁判を起こす必要がないので弁護士費用がかからないのも大きな利点です。
Ombudsman Services: Communicationsは政府オンブズマンサービスの一つで、通信サービスに特化した物です。オンブズマンが「論理的ではなく、消費者に対して
邪悪である」と判断した事業者の行いに対して、罰金刑を言い渡すこともあります。
the Communications and Internet Services Adjudication Scheme (CISAS)は通信に特化したADRです。このスキームは通信サービスに特化しています。年間約3000件の有効な訴えがあり、賠償金の平均は約£850(13万円)です。
また英国通信庁のTelecoms Complaints Bulletinでは、キャリアが消費者を騙してサービスや製品を販売した場合(ミスセール)の制裁がはっきりと書かれています。罰金は年間売り上げの最高10%です。またキャリアや販売店がミスセールしていないかどうかは、英国通信庁により24時間365日監視されています。
イギリスでこのように通信に特化したADRが整った理由は、キャリアの契約に縛られないSIMフリーの携帯が多く、キャリア以外にも様々な販売事業者が乱立し、消費者とトラブルになる事業者が少なくなかったためです。また、外国人が多いため(ロンドンだと人口の半分はイギリス以外で産まれた外国人です)言葉の問題や文化の違いでもめ事になる、ということも少なくないのかもしれません。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。