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アフリカ編2013(7)アフリカにおける携帯電話を活用したサービスの事例

2013.10.31

Updated by Hitoshi Sato on October 31, 2013, 18:00 pm JST

アフリカでの携帯電話を活用したサービスの事例としてモバイル送金、農業、感染症予防、ゴミ収集およびビッグデータの5つの活用事例について見ていきたい。日本や先進国とは違った使われ方をしていることがうかがえるだろう。

(1)モバイル送金「M-Pesa」がケニアで流行する背景

アフリカの携帯電話の事例で日本でも紹介されることがあるのがケニアを中心に普及しているモバイル送金「M-Pesa」である。「M-Pesa」はケニアの通信事業者Safaricomが2007年から提供している。銀行口座を持たなくとも携帯電話番号宛に送金を行うモバイル送金サービスが多くの国で導入されている。店舗やキオスクに行き、送信先の携帯電話番号宛に送金するお金を預ける。受金者はその旨のメッセージを受け取り、近くの店舗やキオスクに行ってお金を受け取る、というシンプルな仕組みはアフリカをはじめとする新興国においてお金の流れの重要なインフラになっている。ケニアでのモバイル送金利用者数が2,300万を超えたと2013年8月1日にGSMAが発表した *1。ケニアの成人の74%にあたる数字である。ケニアの人口は約4,000万人である。そしてその半分(約42.5%)を14歳以下が占めている。ケニアには55歳以上は全体の10%にも満たない約269万人である。

2007年にケニアの通信事業者Safaricomが「M-Pesa」を開始してから6年が経過し、現在ではケニア全土に96,000カ所以上の利用可能な店舗、キオスクがあるため、日常のインフラになっている。

▼街中にあるM-Pesaで送金できるキオスク
201310311800-1.jpg

GSMA(2013) Aug 1,2013 "MMU releases infographic on the Kenyan experience with mobile money"(最終確認日2013年10月5日)

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ではケニアは他の国よりもどうしてここまでモバイル送金が市民の生活に根付いているのだろうか。それはケニアの風習にあるのではないだろうか。ケニアのようなアフリカ諸国では郷土意識が強く、同じ土地出身や同じ部族の人同士が助け合って生きている。特にケニアではその意識が強いのだろう。同郷の人を大切にすることから、地方の人が都会に出ていくと同じ地方から先に都会に出ている人のところに泊めてもらったり、就職の世話をしてもらったりすることがある。都会に出てお金をある程度稼いで成功している人は自分の家族、親戚だけでなく同郷の人も助けるという習慣がある。都会に出て収入を得たにも関わらず、家族や故郷の人を助けないのは「冷たい人」と思われてしまい、故郷に残っている家族も故郷で肩身の狭い思いをすることになりかねない。ケニアでも地方は「村社会」だから、そのようなところで肩身の狭い思いをするのは辛いことである。

同じ土地出身や同じ部族出身者を助ける「パトロン」のような風習の最たるものは、ケニアの大統領の自分の出身部族に対する優遇政策にも現れている。ケニアの初代大統領ジョモ・ケニヤッタは自らの出身部族であるキクユ人の優遇政策を行い、後にケニアでの民族対立の発端になったことは有名である。2代目大統領ダニエル・アラップ・モイは少数民族カレンジン族出身で、当然自民族を優遇し、初代大統領ケニヤッタが優遇していたキクユ人を冷遇した。3代目大統領ムワイ・キバキはキクユ人で、キクユ人優遇政策で国民から反発を買った。ケニアではこのように大統領の出身民族の優遇政策は繰り返されている。大統領や大臣らの出身地域に道路や橋、学校などが建設されるからわかりやすい。

このように自分の故郷やその村の人々、同じ部族を大切にするというケニアの人々の習慣が、ケニアでモバイル送金が生活のインフラとして根付いて、他の新興国よりも発展している要因としてあげられると考えられる。地方(故郷)から都会や海外に出稼ぎに出て、お金を稼いだら地方(故郷)の家族や親戚、同郷の部族らに送金をする、その手段としてモバイル送金を活用するというのが日常生活に浸透しているのではないだろうか。

▼(表2)ケニアにおけるモバイル送金概要
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GSMA発表資料を元に筆者が加筆して作成

【参考動画】
Googleもケニアのモバイル送金市場を狙っている。

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(2)ナイジェリア:政府主導での農民への携帯電話提供と若者の農業離れ

2012年9月、ナイジェリアの農業および地方開発を担当する当局(The Federal Ministry of Agriculture and rural Development)は、2013年までにナイジェリア全土の農民1,000万人に対して携帯電話を提供することを公表した *2。

ナイジェリアでは農民に対して携帯電話を通じて、農業情報、天候、肥料の情報や値段、市場価格動向などの情報収集に役立ててもらうことが目的である。今回の農民への携帯電話提供の背景には、若者の農業への従事を促進することがある。またナイジェリアで雇用のない若者らが農業で新たなビジネスを始めることを目的としている。ナイジェリアでは、「YEAP(Youth Employment on Agriculture Programme)」と呼ばれる国家主導での農業分野における若者の雇用促進プロジェクトがあり、国家としてもNagropreneursと呼ばれる農業分野でのアントレプレナーを大量に創出していきたい。Akinwunmi Adesina大臣は、ナイジェリアの36州において、各州で10,000人(合計36万人)の若者の雇用創出を目指している。また2015年までに農業分野でのアントレプレナー(起業家)100万人創出を目標にしている。

ナイジェリアの人口は世界8位の約1億5,500万人で日本よりも多い。農業従事者が多いが、最近では若者(特に男性)の農業離れが目立ち、彼らは仕事を求めて最大都市ラゴスに集まってくる。ラゴスに来てもそんなに簡単に仕事が見つかるわけではない。ラゴスでは大学を卒業しても就職できない若者が大量にいることが問題になっている。このような背景もあり、政府は農業を新たなビジネスとして若者の雇用創出や農業離れを防ぐためのプロジェクトが組まれている。

FAO(国連食糧農業機関)の調査によると、アフリカの経済は農業などの第一次産業に依存している。農業がGDPシェアの20%以上占めている国が30カ国にも上り、人口の約6〜7割が農村に住んでいる。世界銀行の発表では、農業主体の国々では、農村人口4億1,700万人のうち1億7,000万人が1日1ドル未満の生活を強いられている。アフリカにとって農業セクターは、国家の全体的な成長、貧困削減、食糧確保にきわめて重要な役割を担っている。こうした国々の大半はサブサハラ・アフリカにあり、農業が就労人口の65%を占め、GDP成長の32%を創出している。

そのようにアフリカ諸国においては農業セクターが非常に重要な役割を担っているが、生活が向上しないことから、若者(特に男性)らが農業に従事しないで都会に出てくる。農業では儲からないから、都会に行けば儲かる仕事に就けて良い暮らしができるだろう、と考えてしまう。そして、都会に出てきても職があるわけではないから、犯罪につながり、それが社会問題になっている。

携帯電話を農民に提供することによって、その携帯電話を通じて様々な農業に関する情報を入手することができるようになるだろう。従来、農民が携帯電話を持っていなかった時代に比べると入手できる情報の量も質も大きく進化してくるだろう。今までは市場での農産物や肥料、種などの価格がわからなかったために、仲介、買取業者に騙されることもあったが、そのようなことが無くなるだろう。今回のナイジェリアの取組みは今後、新興国において携帯電話だけでなく、ICT(情報通信技術)と農業分野がどのように連携し、新たな市場創出に貢献していくことができるかの試金石にもなる。携帯電話を農民に提供することが、どの程度、若者(特に男性)の農業離れと新たな農業従事者、農業分野でのアントレプレナー増加につながるのか、注目が必要である。

現在、アフリカやアジアなどの新興国だけでなく全世界で農業に従事する若者が減少している。農業は人間の食生活を担う重要なセクターである。今後、アフリカだけでなく全世界70億人を養っていく食糧の生産を誰が担っていくのか、国際社会は真剣に考えなくてはならない。アフリカのような新興国だけでなく、全世界で「食料安全保障」が問題になってくる。

【参考動画】

All Africa(2012) Sep 21, 2012 "Nigeria: FG Set to Distribute 10 Million Phones to Farmers"(最終確認日2013年10月5日)

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(3)シエラレオネ:感染症予防としての携帯電話

2013年4月15日、イギリス赤十字と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)はアフリカのシエラレオネで携帯電話のショートメッセージ(SMS)を活用した救援活動を行うことを発表した *3。

位置情報と連動したTrilogy Emergency Relief Application (TERA)と呼ばれるシステムを活用する。遠隔地とリアルタイムで双方向コミュニケーションが可能であり、1時間に特定地域の36,000人に送信することができる。今回、イギリス赤十字はシエラレオネの現地通信事業者Airtelと提携して、人々にマラリアやコレラの予防対策に活用する。シエラレオネでは毎年16,000人以上がマラリアで死亡し、同国での最大の死因である。TERAシステムを活用して赤十字職員が遠隔にいる人々に対してマラリアやコレラなどの感染症予防に関する情報を提供することによって感染症への感染を防ぐことを目指す。

昨年、過去40年で最悪と言われたコレラが発症したシエラレオネのSamuel Sam Sumana副大統領は今回の赤十字の取組みによって、シエラレオネの人々と家族が予防知識を身につけることができると期待を述べている。

【参考動画】
テキスト(SMS)はアフリカの人々の生活を変えていくというメッセージで活動する「Text to Change」の動画

British Red Cross(2013) Apr 15, 2013 "Text messages send hope and save lives in Sierra Leone"(最終確認日2013年10月5日)

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(4)ガーナ:携帯電話は町をきれいにするのか?

ガーナで、携帯電話・スマートフォンを活用して町のゴミや下水道の清掃を行っていこうという取組があり、世界銀行が支援している *4。

ガーナだけでなく、アフリカや多くの途上国、新興国において、町は綺麗ではない。ゴミが収集に来ないことや、スラム街では廃棄物(ゴミ)なのか、生活必需品なのかわからないものが散乱している。また下水が完備しているところは都市部に限られるから、下水道が溜まっていたり、壊れており汚水で異臭を放っていたりする。それらは衛生面上、非常に悪く、多くの病気の原因にもなっている。現地の地方自治体、当局が民間業者に委託してゴミ収集や下水処理を行っているが追いついていない、または完全に行き届いていない。ゴミの多くはスーパーなどのビニール袋であることが多く、溜まっても自然処理されないし、大雨の際には水の流れが悪くなり、洪水の原因にもなっている。

町の処分されないゴミの山や下水の状況を携帯電話やスマートフォンのショートメッセージ(SMS)、メール、Twitter、アプリを利用して地方自治体、当局の管理部門にお知らせをして、それらの情報を元にゴミ収集や下水処理などに担当業者が行く、というパイロットプロジェクトがガーナで実施されている。

スワヒリ語でHeadlineを意味する「Taarifa」というサービスでNGOが開発している。GPS対応している携帯電話、スマートフォンであれば、位置情報もリアルタイムに送信することが可能である。「ゴミ収集モニターサービス」(monitor waste collection services)という位置付けであるが、下水道、スラム開発、若者の教育にも活用していく予定である。

【参考動画】
ガーナでは電子部品などのゴミも問題になる一方で、新たなビジネスにもなっている。

World Bank(2013) Mar 26,2013, "Ghana: Making Cities 'Smarter' Through the Use of ICT"(最終確認日2013年10月5日)

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(5)ビッグデータはアフリカの公共バスを変えるか

西アフリカのコートジボワールでIBMと現地通信事業者Orangeらが携帯電話の利用状況に関する情報を収集、それらをビッグデータとして活用し、現地の公共バスのルート、時刻表の再編に役立てようという取組みが行われている。

IBMとOrangeらはコートジボワールの最大都市アビジャンでOrangeの携帯電話ユーザの利用動向情報を収集した。Orangeが現地で実施している「Data for Development」プロジェクトの一環で2011年12月から2012年4月までの情報を収集。コートジボワールの500万ユーザの25億の通話・通信記録から利用動向を収集した。個人情報や通話の内容などは特定されない仕組みになっている。

ユーザが携帯電話で電話(音声通話)、ショートメッセージ(SMS)を送信した際に、そのアクションが基地局に記録され、ユーザの位置情報などが収集され、行動がデータ解析され、公共バスの運行ルート再編、時刻表の組替えに反映させることを目指している。GPSなどの高度な機能が搭載されたスマートフォンを保有しているユーザの行動記録ではなく、ただの音声通話、ショートメッセージ(SMS)送受信の記録だけである。

コートジボワールの携帯電話加入者は約1,800万だが、3Gを利用しているのは約30万と非常に少ないため、ほとんどの利用が電話(音声)かショートメッセージ(SMS)である。

Orangeが集積したそれらの情報をIBMのソフトウェアで解析した。IBMではアビジャンでのプロジェクトを「AllAboard」と呼んでおり、現在65か所の改善できる点があると想定しており、2つの路線を追加すること、既存の1本を延長することによって10%の通勤時間短縮が可能であると指摘している *5。ただし、現在はまだプロジェクトの初期段階であり、具体的な実用化(バスルート、時刻表の再編)の時期は見えていない。

【参考動画】
コートジボワールの様子が伝わってくる

MIT Technology Review(2013) Apr 30, 2013, "African Bus Routes Redrawn Using Cell-Phone Data"(最終確認日2013年10月5日)

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。