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なぜ少子化対策は制度整備の話ばかりになってしまうのか?

2013.11.23

Updated by Mayumi Tanimoto on November 23, 2013, 00:21 am JST

某大学病院で血液内科医師として働く方が、シングルファザーになり、三人の子育てをしながら医師として働く様子を書いた記事が話題になっています。

血液内科医が父子家庭になっちゃいました。

この記事が医療ガバナンス学会のメルマガに掲載された点が大変興味深いです。ガバナンスとは組織を統制するという意味でありますが、その統制には、組織をいかにうまく動かしていくか、という活動も含まれます。

フツーの人がこの記事を読んで注目する点は、「この医師は妻に愛想を尽かされたんだねえ」「やっぱり父子家庭は大変だわ」という「感情的な部分」の様なのですが、実は目を向ける点は、勤務先が医師の家庭の状況を考慮して仕事を采配することが可能であった という点です。

勤務先では、医師の勤務時間を9−5時にし、夜勤や緊急対応を減らし、助手を雇うことで労働量を減らしています。つまり、労働量を減らし、増員することで三人の子育てをしながら仕事をすることを可能にしたわけです。助手だけではなく、恐らく他の医師にもこの医師の従来の仕事は振られているのでしょう。現場的には、患者を受け持っており、職場にも慣れている専門家であるこの医師を退職に追い込むよりも、仕事をうまく采配して働いてもらった方が、新しい人を雇ったり教育するよりも良いという判断があったのでしょう。

ワタクシも知人や身内に医療関係者が数名おりますが、医療の現場というのは、普通のサラリーマンに比べ、遥かに激務であり、間違いも許されず、継続的学習も必要という大変厳しい職場であることが少なくありません。通信業界二比べても遥かに厳しいと思います。

しかし、この記事を読んでわかることは、こういう厳しい職場でも、仕事をうまく采配すれば子育てと仕事の両立は可能といことです。

「欧州の人々はなぜ長期休暇を取れるのか?」「欧州ではなぜ出産して退職する女性は少ないのか?」という質問をよく頂くのですが、つまり、欧州の多くの職場では、この病院の様に、仕事をうまく采配して家庭の事情がある人や具合が悪い人にも配慮して組織を回している、というわけなんです。

それはカワイソウだからとか、人道的だからという理由だけではなく、単にその方が効率が良いからです。業務を分割して誰かが倒れた場合や働けなくなった場合にも他の人にふれる体制を作っておけば、業務継続が可能になります。これはリスク管理の視点です。

次に、すでに職場に慣れている人や専門知識がある人を退職に追い込まないで働いてもらった方が、採用や教育のコストがかかりません。これはコスト管理の視点です。

さらに、仕事をうまく采配する「仕組み」を回すと、働く人各自が無理をしない形で働くことができるので、生産性はアップし、士気も高まる上、退職率や病欠率が下がります。これはサービスの品質管理と要員管理の視点ですね。

また、この様に仕事をうまく采配できる組織の噂というのは、働く人の間や、顧客にも広まります。組織イメージが良くなり、ドンドン良い人が入ってきます。品質も高くなりますから顧客満足度も高まります。これはマーケティングの視点ですね。

つまり、組織運営に関するリスク、総コスト、品質、要員管理、マーケティングの視点を総合的かつ常識的に考えた場合、仕事をうまく采配して組織を回す、という考え方に行き着くのはごく当たり前、というわけなんです。

欧州の多くの組織は、そのごく当たり前をフツーにやっているだけに過ぎません。

この様な考え方に至った理由は、経験による学びです。欧州だって産業革命の頃の労働者の扱いは酷かったし、いまだに激しい労使対立がある国もあります。しかし、長年の経験を経て、仕事をうまく采配して組織を回すをやった方が得である、という考え方に落ちついたわけです。

日本で少子化対策の議論が始まると、すぐに「役所が補助金を増やせ」「法律で何とかしろ」と制度の話ばかりになってしまうわけですが、実は一番重要なのは、現場の経営者や管理者が、適切な形で労働采配をすることなんです。

日本でなぜこれができないのか、という理由は、つまり、経営者や管理者が、組織運営の基本をわかっていない、つまりマネージメントとは何なのか、がわかっていない、ということなわけです。一言で言うと経営のプロではないんです。

水木しげる先生の総員玉砕せよ! という漫画を読むと、素人管理者や経営者が組織を運営すると何が起こるか、ということが良くわかります。日本の職場で起こっていることは、ニューギニアで起きたことと変わりません。つまり、60年以上たっているというのに、その精神性には何ら進歩がないわけです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。