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一晩中泣き明かした30歳若手女性研究者と書く我が国にはゴシップ新聞しかないらしい

2014.01.31

Updated by Mayumi Tanimoto on January 31, 2014, 02:11 am JST

STAP細胞の画期的な製作方法の発見が話題になっています。中心となって研究を進めた理化学研究所の小保方博士のことが各メディアで報道されています。

イギリスでもこのニュースは大々的に報道され、BBCや民放、大手新聞でも報道されています。ワタクシはこのニュースをイギリスのニュースで知ったのですが、その後日本での報道をネットでみて、その内容があまりにも違う事に唖然としました。

BBCでは、テレビ放送でもウェブでも、まずこの発明が何であるか、なぜ画期的なのかが紹介され、イギリスの研究者の解説を盛り込み、医学などにどのように貢献するか、ということが明記されました。また小保方博士に関しては「Dr Haruko Obokata」と明記されているだけで、年齢や性別には触れていません。(なお、イギリスでは博士号がある人の事はドクター何々と呼ぶのが当たり前です)

イギリスの他の主要新聞でも、この発見が何なのか、どのように貢献するのかに記事のスペースが割かれ、小保方博士の年齢、性別、服装、ラボの装飾に関しては一切書かれていまん。倫理問題に触れた記事があるのも日本と違うところです。イタリア、ドイツ、フランスではイギリスほど報道されなかったので記事は少なめですが、いずれも報道の姿勢はイギリスと同じです。韓国や中国、台湾の新聞も欧州主要新聞やテレビと似た様な報道の様です。どの媒体も、写真は割烹着を着ていない小保方博士の写真、もしくは細胞の写真です。

英 BBC Stem cell 'major discovery' claimed
英 Telegraph 'Stem cells' created in less than 30 minutes in 'groundbreaking' discovery
英 Financial Times Japan team discovers new technique to make stem cells
英 The Guardian Simple way to make stem cells in half an hour hailed as major discovery
英 The Independent Stem cell breakthrough: Japanese scientists discover way to create 'embryonic-like' cells without the ethical dilemma
伊 Le Scienze Un nuovo metodo per ottenere staminali pluripotenti
独 Handelsblatt Revolution in der Stammzellen-Forschung
韓国 中央日報 日本の研究陣が万能細胞を簡単に作る方法を発見
中国 China Daily 日媒:日本研制出新型万能细胞"STAP细胞"
台湾 中央社新聞 創舉 日研發出新型萬能細胞

アメリカの報道もイギリスと大体同じです。発見に関する説明がされ、どのように貢献するのか、特に医学的にどういうインパクトがあるのかということが詳しく説明されています。欧州と同じく、どれも専門誌ではなく、一般的な全国放送や、一般的に読まれている新聞です。カナダやオセアニアの報道も欧州や北米と大体同じです。

CNN Stem cell breakthrough may be simple, fast, cheap
The Wall Street Journal A Bit of Stress Yields Stem-Cell Surprise
New York Times Study Says New Method Could Be a Quicker Source of Stem Cells
Washington Times New stem cell technique may aid medical treatments
Los Angeles Times New method makes stem cells in about 30 minutes, scientists report
NPR A Little Acid Turns Mouse Blood Into Brain, Heart And Stem Cells
PBS Researchers make stem cell discovery by studying tissue stress and repair
CBC Stem cells grown without embryo in 'major discovery'

一方、皆さんがご覧になったと思われる日本の大手新聞の記事を見てみましょう。

朝日新聞 泣き明かした夜も STAP細胞作製、理研の小保方さん
読売新聞 論文一時は却下...かっぽう着の「リケジョ」快挙
産経新聞 「誰も信じてくれなかった」...強い信念で常識打ち破る
毎日新聞 万能細胞:世界で初の作製 簡単、がん化せず 理研など
日本経済新聞 万能細胞 リケジョの革命

朝日新聞は割烹着姿の小保方博士をトップに置き、「30歳の若き女性研究者」と紹介しています。また、博士なのにも関わらず「小保方さん」と呼んでいます。発見そのものに関する詳しい説明はありません。

読売新聞も割烹着姿をクローズアップし「研究室の壁はピンクや黄色で、好きなムーミンのキャラクターシールも貼っている。仕事着は白衣ではなく、大学院時代に祖母からもらったかっぽう着。『これを着ると家族に応援してもらっているように感じる』という。」やはり発見そのものに関する詳しい説明はありません。「リケジョ」という差別用語を使っているのが大変画期的です。

産經新聞も割烹着姿の小保方博士をトップに置き、「『お風呂のときもデートでも四六時中、研究のことを考えていた』という研究の虫。実験で着るのは白衣ではなく、祖母からもらったかっぽう着だ。『おばあちゃんに応援されているような気がするから』実験室の壁はピンク色に塗り替えた。机にはキャラクターが並び、女性らしさをのぞかせる。研究室にはペットのスッポン。『この子が来てから実験が軌道に乗ったので、幸運の亀なんです』と笑顔を見せた。」と、あえて、女性性や幼さを強調するコメントを掲載しています。発見そのものに関する詳しい説明はありません。

毎日新聞はプレゼン中の小保方博士をトップに掲載し、発見そのものに関する図入りの説明を掲載しています。年齢と性別は紹介されていますが、服装やラボの装飾に関するコメントは掲載されていません

日本経済新聞も割烹着写真に「リケジョ」という差別用語を使っています

毎日新聞以外は、発見そのものに関する説明は控えめで、業績には関係のない情報ばかりが報道されています。

皆さんは、欧州や北米、韓国での報道と、日本での報道を比べてみてどう思われたでしょうか?日本の主要新聞は、毎日新聞以外は、発見そのものには全く関係ないことばが散りばめられており、記事の内容もかなり浅く、小保方博士の年齢、性別、服装など、業績には全く関係のない事ばかりが明記されています。日本を代表する一流紙なのにも関わらず、欧州のゴシップ紙以下の内容です

日本人研究者が素晴らしい成果を上げたというのに、海外の方が発見そのものに関して詳しく報道しているというのは、一体どういうことなのでしょうか?愛国心満々のネトウヨの皆さんはなぜ怒らないのでしょうか?私には、研究者に対する侮辱としか思えませんでした。なぜ研究の経緯や、論文が受領されるまでどれだけの葛藤や努力があったか、医学にどんな貢献があるのか、ということを報道しないのでしょうか?

日本の一流メディアは、なぜこの様な報道をするのでしょうか?

それは、記者や記事を選ぶ人々がこう考えているからです

「若い女性は泣かなければいけない」
「女というのは感情的ですぐに泣くのだ」
「可愛い物に興味がない女なんてありえないわ。だってアタシはムーミンが好きだもの」
「若い女性はデートをする物だ。そう、普通は仕事なんかどうでもいいと思ってんだ。性交が忙しいのさ」
「女の子が好きな色はピンクなのよね★ それが当たり前なのよ。だってアタシも好きなんだもの」
「業績や医学への貢献なんでうちのバカな読者達は理解できないさ。だから説明なんかいらないよ」

彼らの頭の中は「何々はこうあるべきだ」「女はこうだ」「大衆はこうだ」という偏見と固定化された人物像で満杯なのです。

Twitterには沢山の怒りの声が上がっていました。読者はバカではないのです。そして、バカにされる事にウンザリしているのです。新聞は読者数が減っているそうです。記事を書く人々は、脳にSTAP細胞を注射してみたら、Sunの読者より少し賢くなるかもしれませんね。

以下気になったTwitterユーザーのコメント

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追記
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さて、記事発表後いくつかご意見を頂いておりますので、まとめて回答したいと思います。

Q: 日本の新聞は技術的な事も詳しく報道しているが、記事は意図的ではないか?

A: Webの方や紙の社会面などで、発見とは全く関係ない事が報道されているのは事実です。そして、服やデート中云々、研究室の壁の色など、女性性を強調することが報道されています。繰り返しますが、海外の「一流紙」や「公共放送」(ゴシップ新聞やメディアではありません)では、発見についてのみ報道されています。海外メディアは日本に支社がある会社もありますし、日本人記者や、通訳者、翻訳者を雇っている会社もありますから、報道しようと思えば発見とは全く関係ない事も報道できたはずです。日本で報道された記事の人物紹介を翻訳して報道する事だって可能だったはずです。しかしあえてしていません。しないのには、理由があるからです.それは、発見の内容の方が遥かに重要だからです。

日本の「一流紙」や「公共放送」さらに「大手テレビ局」などが、発見とは全く関係ない事も、性を強調して報道している事が問題なのです。さらに、ここでの問題は、視聴者や読者が、それが何か変な事である、と気がつかない事です。

また、繰り返しになりますが、この様な画期的な発見があった場合、北欧州や北米のメディアでは、詳しく報道されるのは発見の事であって、発見者の私生活や趣味の事ではありません。それは、発見者が自国出身でも同じ事です。また、性を強調した報道だった場合は、大変な反論が起きるでしょう。

Q: 「リケジョ」は差別用語ではないのでは?

A: 「リケジョ」は、たとえ女性自身や政府がそれを使っているのだとしても、ワタクシ個人は、立派な差別用語に当たると考えています。それは、女性研究者がいかに特殊な物であるか、と強調する言葉であるからです。

女性自身がそれを使っているのだとすれば、その方は、自らを特殊な種類の人間だと認定しているということです。科学技術の世界は、その人の属性や性ではなく、結果により判断される世界のはずですから、属性に拘るのはなんだか変な話です。

例えば、通信の世界で考えるのであれば、ネットワーク障害が起きた場合に重要なのは、問題を解決して復旧することがであって、それをどういう属性の人がやったかは評価されません。復旧報告書に「女性の何とかさんが直しました」とは報告しません。

「リケジョ」と呼ぶなら「リケダン」という言葉も使われるべきでしょう。また、「女性医師」「女流作家」「女流監督」「女性運転手」「女社長」という言葉を使うのであれば、「男性医師」「男性作家」「トランスジェンダー料理人」「ゲイ運転手」「レズビアン社長」「男性介護人」という言葉も積極的に使ってはいかがでしょうか。

Q:日本のマスコミに対する偏見が酷いのではないか。あなたの書いている事はマスコミがやっている事と変わらないのでは?

A: では、「女性はピンク色が好きに違いない」「女性はかわいい物が好きだ」という思い込みをお辞め下さい。「女性なのに凄い」と持ち上げるのをお辞め下さい。女流作家、女流監督、女社長という言葉をお使いになるのをお辞め下さい。

普段女性や性的少数者が言われてる事、思い込まれている事を、逆の立場で書かれるとどんな気持ちがするか、十分おわかりになったということで、このブログを読んだ時間は無駄にならなかったのではないでしょうか?

なお日本は、ワールドエコノミックフォーラムのGlobal Gender Gap Report 2013 で、調査対象の136カ国中105位です。順位は昨年より低下しています。 

理化学研究所からは以下の様なお願いが出ております。私は身内が重い認知症、交通事故後遺症、血液のガンなどで苦しんでおりますので、万能細胞の研究結果が医学に応用され、苦しんでいる方々が救われる事を祈念している一人です。(素人でありますので、どのように応用されるとか、何が将来可能なのかなどは詳しくわかりませんが)研究者の皆様が、発見以外の事柄の取材に邪魔されず、一日も早く研究に集中できる様にお祈りしております。

Jan. 31, 2014 報道関係者の皆様へのお願い(一部抜粋)
研究発表に関する記者会見以降、研究成果に関係のない報道が一人歩きしてしまい、研究活動に支障が出ている状況です。また、小保方本人やその親族のプライバシーに関わる取材が過熱し、お世話になってきた知人・友人をはじめ、近隣にお住いの方々にまでご迷惑が及び大変心苦しい毎日を送っております。真実でない報道もあり、その対応に翻弄され、研究を遂行することが困難な状況になってしまいました。報道関係の方々におかれましては、どうか今がSTAP細胞研究の今後の発展にとって非常に大事な時期であることをご理解いただけますよう、心よりお願い申し上げます

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。