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EUで携帯のローミングチャージが議論になる理由

Why roaming charge is an issue in Europe

2015.10.26

Updated by Mayumi Tanimoto on October 26, 2015, 08:39 am UTC

ヨーロッパの携帯業界で、キャリアが頭を悩ませているのが携帯の国際ローミングフィーの廃止です。EUは2017年6月から廃止し、ネットニュートラリティーを徹底する方針です。つまり、加盟国のプロバイダは、国境に縛られることなく、「ヨーロッパ」という単一市場で競争させることが狙いです。また、ネットニュートラリティーは、すべての情報を、その内容や発信者に関係なく、平等に扱うという原則でありますが、それを徹底するためにローミングフィーを廃止するわけです。

ところで日本の読者の皆さんは、なぜロミングフィーがこんなに議論になるのかな、と思われるかもしれませんが、「域内移動」の激しさを知ると、なるほど、と思われるかもしれません。

日本にいるとなかなか実感しにくいのですが、ヨーロッパは陸つなぎの国がほとんどなので、他の国へ鉄道やバスで移動が可能ですし、そもそも小さな国が多いので、飛行機で1時間も行けば外国です。ルクセンブルグやベルギー、スイス、イタリア北部あたりだと、毎日国境を越えて通勤している人もいるので、銀行が越境通勤者向けのアカウントを提供しているほどです。

バスや飛行機、電車の料金は北米よりも安いため、他国への移動が楽です。激安航空会社は随分値段があがりましたが、それでもEasyjetやRyanairなどを使えは、片道5000円程度でイギリスからスペインやギリシャ、トルコからドイツ、スペインからフランスなどの移動が簡単ですし、競争が激しいので、遅延やキャンセルはそれほどありません。体感的には大手の会社を使っても、遅延やキャンセルは同程度かなという感じです。

例えば以下はルクセンブルグのBIL銀行のサイトですが、ルクセンブルグ在住者だけではなく、フランス、ベルギー、ドイツ在住者向けのサービスもあります。ルクセンブルグ自体は小さな国なので、他の国から通勤している人がいるわけです。ここは金融センターなので、ヨーロッパのだけではなく世界中からやってくる顧客、エクスパット(海外居住者)も多いため、サイト自体が4ヶ国語で提供されています。ヨーロッパはこんなサービスを提供している金融企業やテレコムが珍しくありません。

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私はたまに北米に行きますが、北米に行くと、飛行機やバスの高さ、サービス提供会社の少なさにびっくりするほどです。特にカナダは激安航空会社があまりないので、移動が随分割高だなあと感じることがあります。これは交通に限らす、テレコムや金融も同じで、一見保守的に見えるヨーロッパの方が選択肢が多かったり、値段が安いことがあります。これは携帯のSIMに関しても同じです。

ヨーロッパ域内での人の移動に関してはEUの調査を見るとさらに理解が深まります。以下はEUによる2050年の域内の移民による人口の変化です。暖色系の地域は移民により人口が減り、寒冷色系の地域は移民により人口が激増することが一目瞭然です。イタリアの北部、スペインの南部、イギリス南部、フランス、北欧各国は人口が40-100%増えますが、旧東欧は最高で60%減です。ヨーロッパの貧しい国から豊かな国への人の移動は、シリア難民危機が話題になる前から議論されてきたことです。交通費が安いので、移動した人も行ったり来たりしますし、移動した国以外に行くこともありますから、ローミングフィーが高いと至極不便なわけです。またビジネスに関しても、ヨーロッパ域内は非関税なので、物やサービスの動きも激しく、ローミングフィーが割高だとビジネスでも不便です。

Impact of Migration

 

都市部では2050年までに移民の影響で人口が40-100%増加する見込みのイギリスにおける外国籍人口のをみてもEU域内からの移民が多いことがわかります。以下は私がONSのデータより作成したグラフですが、最大層のポーランドに関しては90万人近い数で、旧植民地であるインド生まれの人口を大きく上回っています。ポルトガル、スペイン、ドイツ、ルーマニアなどの域内の国からは15-18万人となっています。移民が押し寄せているドイツからも、報酬が高い、ビジネスがやりやすいなどの理由で、多数のドイツ人が移民しています。これだけ多くの外国人がいるので、他国との移動が頻繁ですし、母国に戻った場合や、ビジネスなどで他の国に行く場合、ローミングフィーがチャージされると不便極まりないわけです。

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ところでローミングフィーの廃止は、ヨーロッパだけの話ではありません。例えばアフリカの場合、大手キャリアであるZain の One Network では、ブルキナファソ、チャド、マラウイ、ナイジェリア、スダーン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ケニア、タンザニア、ウガンダの12カ国の顧客は、国際ローミングチャージを払う必要がありません。この12カ国の人口はアフリカの人口の約半分をしめるという巨大なマーケットです。

日本に住んでいるとちょっと想像しにくいのですが、アフリカの人も、わりと簡単に近所の国に引っ越したり出稼ぎに行ったりします。裕福な層ほど気軽に移動したりしますし、先進国に引っ越す人も少なくありません。ナイジェリア、ケニア、ガーナの友人と接していて感じるのは、国境感の薄さです。そもそも植民地になる前は、国境線も何もなかったので、「何々国人」という意識は薄く、「何々地域出身」「何々部族に所属」という意識のほうが強い様です。日本の様に、一つの国=同じ言語、同じ人種、同じ宗教という感覚はむしろマイノリティです。国境にはこだわりがないので、移動に抵抗がないのかなと思ったりします。アフリカだけではなく南米でもローミングフィーを廃止するキャリアが出てきています。

ITUは国際ローミングフィーの低下を牽引するのは、グローバル化による国際ビジネスの増加と、出張の増加だと指摘しています。WTOによれば、2000年から2011年の間に、商品の国際取引は3倍になり、それに沿って人の移動も増加しました。ヨーロッパ、アフリカ、南米のローミングフィーの廃止は、人の移動がいかに激しくなっているかということがわかります。

ある人はより高い報酬を求め、ある人はより良い住環境を求め、ある人は商機を求めて移動します。シルクロードや大航海時代が、異文化の出会いによる様々な価値をもたらした様に、物や人の移動は「ダイナミックな付加価値」をもたらします。ローミングフィーがあまり話題にならない日本は、悪い意味で、グローバル化から取り残されている気がします。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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