日本の大学の国際化はどう考えても無理だと世界にバレている
2013.11.27
Updated by Mayumi Tanimoto on November 27, 2013, 07:47 am JST
2013.11.27
Updated by Mayumi Tanimoto on November 27, 2013, 07:47 am JST
イギリスの高等教育専門雑誌である Times Higher Educationに、日本の私大で教えていたイギリス人学者の書いた記事が掲載されていました。この記事、日本の高等教育の実態を、外国人学者の視点で、身も蓋もない書かれ方をしており、大変興味深いといいますか、「日本の教育ヤバいんとちゃう?」とかなり心配になるのであります。
Beyond sushi: the attractions of lecturing in Japan
(寿司の向こう側:日本で講義をやる魅力)
と題された記事。一見「日本の大学は最高だ」という内容を期待しそうになりますが、そこはイギリス。記事を読み始めてすぐに「ああ、イギリス流の皮肉じゃないか。。。」とわかります。
イギリスの名門サセックス大学で歴史学の博士号を取得したスーザン•バートンさんは、博士号取得後、なかなか仕事がみつからず、本屋で最低賃金のアルバイトをしていました。名古屋商科大学の「様々なことを教える」という求人を発見し、応募するとすぐに採用され日本に向かいます。イギリスでも人文系の専攻だと、大学教員になるのは難しいので、スーザンさんのように、高学歴ワープアになってしまう人は少なくありません。イギリスだと、民間でも大学でも、求人は「何をどのようにやる」とはっきり書いてあることが多いので、「様々なことを教える」という求人はちょっと変わっているかもしれません。
スーザンさん、実は日本で以前数年間英語の先生をやっていたので、日本で働くのが初めてではなかったのにも関わらず、大学で働き始めて目にした「日本の大学の実態」に驚くことになります。
まずは大学の運営体制に関して。
• 日本には780校の大学があるがそのうち599校が私立。
• 日本の私大は家族経営の様な感じで身内主義。良い仕事は身内に割り当てられる
• 日本の私大は営利主義で運営費の8割を学生の学費に頼っている
• ある大学では学生がどんな成績だろうと合格させる方針になっていた
• 日本の大学はアカデミックレベルを上げる必要はないと考えている
• なぜなら、卒業生は日本株式会社の構成員になるために教育されるだけだからだ
• 外国人教員はたった5%で、大学を国際風にするためだけに採用される
イギリスの大学は一校をのぞき国立で、運営資金は税金(国の教育予算)と学生の学費ですから、私立ばかりの日本には驚いたことでしょう。イギリスでは、大学同士の競争が激しく、大学側はアカデミックなレベルの向上に熱心です。レベルの低い学校には学生が集まらず、レベルが低い授業をやったら学生から文句がでてしまいますから、先生が何年もノートを使い回している授業はあり得ません。
また、イギリスは教員の半分以上が外国人なんて大学も珍しくありませんので、日本の大学のガラパゴスぶりには驚くばかりだった様です。イギリスの大学は、研究実績によって運営資金の一部を国から割り当てられますので、世界中から実績を出せる研究者をヘッドハントしてくるのです。大学同士が研究者の獲得競争をやっています。また、アメリカやカナダなど他の英語圏の大学とも競争していますので、良い教員の確保には熱心です。実績さえだせるなら性別も年齢も国籍も関係ありません。なんと、大学専門のヘッドハンターもあるのです。
日本というのが、西洋の人々、特に英語を話す人々に取っては「どういう場所か」ということに関しても身も蓋もない事実も明記されています
• 日本というのはヒッピー旅行者が世界をグルグル回って最後にたどり着く場所だった
• 現在はヒッピーが、英語教授法の修士を持ち、日本人の妻を持った白人男性に入れ替わった
• 彼らは英語を教えて快適な生活を送ることができる。博士号を持っている人も英語を教えている
• 博士号を取ったばかりの若い人は日本を学資ローンの返済と最初の書籍執筆の機会に当てる
• 日本の大学では一部の一流校を除き、大学にいても論文を書けとか学会にでろというプレッシャーがない
• 日本の大学の学者の中には終身雇用になると論文を全く書かない人がいる
• そういう環境なので、明確な目標や強い意志がない人には、日本の大学は学者の墓場である
• 外国人若手学者の中には論文を書くよりも遊んで暮らすことを推奨される人もいる
• 助っ人外国人であっても若手の給料は悪くない。博士号を取得したばかりの人でも年俸600万円程度
日本というのは「自分探し」をやっている意識高い系の人々がモラトリアムを過ごす場所であるというわけですね。現在はそれに英語を教えて短期間で稼いだり、配偶者を探す場所、という要素が加味されています。研究実績がなく、語学の専門家でもないのに英語を教えてお金を稼げるのは、高学歴ワープアの人々に取ってまるで天国の様な所に違いありません。イギリスの大学だと、若手であっても、論文をだせ、実績を出せというプレッシャーが凄い上、お給料も良くありませんので、日本ほど楽ではありません。日本の学者の怠慢ぶりは、競争の激しいイギリスの大学ではあり得ない物でしょう。イギリスの大学では研究者の査定がありますから、論文を書いていない人や、実績を出せない人は、終身雇用であっても首になってしまうことがあります。
日本の大学がいかに非国際的で、日本人中心主義かということに関しても厳しく指摘されています。
• 日本の大学では外国人は短期雇用の助っ人外国人に過ぎない
• 日本人と外国人は雇用契約からして違う。国立大学でさえも異なるのだ
• 例えば東京大学の場合外国人は雇用は最長5年程度の短期雇用
• 外国人は基本的に任期付雇用なので生活は不安定
• 10−20年と長年勤務する外国人は「日本に長すぎるから母国語が変。自国のことを忘れている」とお払い箱になる
• 日本人同僚は大した実績がなくても終身雇用を得られるが外国人は何倍もの実績が必要だ
なんだかまるで、プロ野球チームの助っ人外国人を見ている様ですね。日本の保守的な民間企業に雇われる外国人の一部も、同じ様に「使い捨て助っ人外人」的な扱いを受けることがあります。長期勤務する外国人がお払い箱になる様に関しては、外国人には外国語教育と外国事情の伝達しか期待していませんという本音が良くわかりますね。イギリスだと外国人であっても、そもそも戦力として雇いますので、母国語が変だろうがどうだろうがは関係ありません。外国人とイギリス人で雇用契約が異なったら構造的差別だということで、裁判になって大学側が負けることが目に見えています。国籍や人種で人を差別することは厳しく禁止されているからです。
どうも日本の大学はこういう構造的差別が当たり前の様です。短期雇用が当たり前で、助っ人的立場を期待されているのであれば、外国から優秀な研究者は日本に来ようとは思わないでしょうね。
日本の大学における差別に関しても明記があります。
• 履歴書には写真を付け年齢を明記しななければいけない。採用に当たりブロンドの外国人女性は有利らしい
• 日本は基本的に保守的な国だ。大学では女性は二級市民扱いで酷い差別を受ける。セクハラは普通である
• 私が退職したのは単にイギリスに戻るためだったのに、女子学生は「やっと結婚する気になったんですね」と言った
イギリスでは就職する時に履歴書に年齢は書きませんし写真も付けません。これは年齢や人種に関する差別を防ぐためですが、日本では、大学でさえも年齢や写真が必要な履歴書を要求されるというのは、かなり驚いたのではないでしょうか。普通、大学というのは、年齢や差別をもの凄く気にしますので。女性が二級市民扱いというのは面白い表現ですね。当たっていると思います。女子学生の「やっと結婚する気になったんですね」というコメントは、男性だけではなく日本の若い女性すら保守的なんだと示唆していますね。
日本の大学をケチョンケチョンに書いているスーザンさんですが、しかし、日本のことは大好きで、基本的に日本での生活は楽しいとのこと。その理由は「日本での生活は快適。治安が良く夜でも歩いてコンビニに行くことができる。日本食は美味で、交通機関は時間通り。風景は素晴らしくハイキングが楽しい。温泉も素晴らしい。顧客サービスはあり得ないレベルで凄い」 つまり、生活の質は高く、暮らしやすく、消費者としては最高ということの様です。しかし、仕事に関してはケチョンケチョンに書いていますから、プロフェッショナルとしては、日本での生活は不本意な物だったのかもしれません。
この記事が掲載されたTimes Higher Educationは、毎年大学ランキングを発表していることで知られており、英語圏だけではなく、様々な国の大学関係者に読まれています。つまり、こういう実態が掲載されたことで、英語圏だけではなく、全世界の大学研究者に日本の大学のトホホな状況がダダ漏れしてしまったということなわけです。
さて、日本では最近大学の国際化とか、グローバル人材の育成ということが叫ばれており、政府も色々と力を入れている様ですが、こんな状況で世界から優秀な人が来るわけがありませんね。せめて、研究をやってない先生に仕事する様にけしかけるとか、コネ採用ともうちょっと減らすという所から始めたらどうですかね。
でも100年経っても何も変わらないかもしれないけど。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。