日本人にとってブルネイは馴染みがない国かもしれない。在留邦人も147人(外務省 2012年10月)と他の東南アジア諸国と比較すると少ない。今回は携帯電話を中心したブルネイの通信状況を見ていきたい。
ブルネイは1984年にイギリスから独立し、国王による統治と石油、天然ガスというエネルギー資源の経済基盤によって高い経済成長と安定した内政を維持してきた。
これまで国家の繁栄を支えてきた石油や天然ガスの生産から脱却し、経済の多角化、社会基盤整備、人材育成などを主目標に政策が進められている。そのような中において市場規模は決して大きくないが、情報通信産業の果たす役割は重要になってきている。
まず簡単にブルネイの概要を見ておこう。
(出典:外務省、IMF,CIAファクトブック、ブルネイ当局など)
(ブルネイの人口ピラミッド)
中進国型のピラミッドである。
(出典:CIAファクトブック)
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人口約40万のブルネイで携帯電話の加入者数は約49万で人口普及率は122%程度である。
中進国であるブルネイは他のアジア諸国と比較するとポストペイドの比率も14%程度と高いが、それでも圧倒的にプリペイドが主流の市場である。また3Gが導入されて5年以上が経過し、携帯電話に占める3Gの比率も7割近くまできており、アジアの中でも高い方である。これはネットワークの整備だけでなく、3Gに対応した携帯電話、スマートフォンがブルネイで広く普及しているからである。すなわち、2G(GSM)の端末よりも高価な3G対応の携帯電話、スマートフォンを購入できる人がブルネイには多いのだろう(アジアの他国や新興国では3Gのネットワークは完備しているが、3Gに対応した端末が高価で購入できないことから3Gが伸びないということが多い)。市場シェアが80%以上のDST利用者が圧倒的に多い。2位のB-Mobileは当局が競争促進を目的に2005年2月に固定電話を提供するTelekom Brunei (TelBru)と地元のコングロマリットでジョイントベンチャーである。同社は2013年2月に親会社であるTelBruが破産申し立てを行うなど、今後の動向が注目である。
固定電話は6.1万程度で人口普及率は約15.6%程度で毎年減少しており、電話はほとんどが携帯電話である。ブルネイの世帯数は不明だが、人口約40万の国で固定電話が6万回線というのは、かなり普及していると言える。例えば1世帯に6人とすると約6〜7万世帯となり、そう見積もるとブルネイでは固定電話はほぼ全世帯に行き渡っている。但し、最近では若者を中心に携帯電話に移行している。ブルネイのホテルやオフィスビルなどでも固定電話は普及している。Telekom Brunei (TelBru)1社のみが提供していることから競争環境にないこともあり、今後急速に普及することは考えにくい。今後も携帯電話がブルネイのコミュニケーションの中心になるであろう。
(表)ブルネイでの携帯電話、ブロードバンド、固定電話
(公開情報を元に筆者作成)
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(表)ブルネイの携帯電話加入者の推移
(公開情報を元に筆者作成)
プリペイド・ポストペイドの加入者と比率
(公開情報を元に筆者作成)
(表)ブルネイの固定電話加入者の推移
(公開情報を元に筆者作成)
(表)ブルネイの主要携帯電話事業者
(公開情報を元に筆者作成)
事業者別加入者数の推移
DSTが圧倒的なシェア1位で微増している。一方で、B-Mobileは微減傾向が続いている。
(各種公開情報を元に作成)
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(1)DST
1995年設立。DSTグループ傘下の企業で1996年からGSM(2G)提供。2008年5月から3Gサービスを開始している(基地局はエリクソンが敷設)。DSTグループ全体で700人以上の従業員がおり、携帯電話事業以外にもISPやシステムソリューション、PayTVなど幅広く提供している。またブルネイ市場だけでは成長に限界があることから、海外市場への展開を視野に入れ積極的なビジネスを行っている。
(2)B-Mobile
ブルネイで2番目の携帯電話事業者を設立しようという当局(Authority for Info-communications Technology Industry's (AITI's))の意向で2005年2月に設立。固定電話を提供するTelekom Brunei(TelBru)とブルネイのコングロマリットであるQAF Comserveのジョイントベンチャーとして設立された。2G、3Gを提供している。2013年2月には親会社であるTelekom Brunei (TelBru)がB-Mobileの破産申し立てを最高裁に提出したが、本稿執筆時点(2013年12月)では通常通りに事業を運営している。
DSTでは自社でポータルを運営し様々なコンテンツ提供をしている(実際には各こんてんつプロバイダーへのリンクである)。
(出典:DST)
B-MobileではHuaweiのAscend Y210(99ドル:約8,000円)を購入するとフィリピンの台風被害者に2ドルの寄付を行っている。
(B-mobile)
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ブルネイの当局(Authority for Info-communications Technology Industry's (AITI's))が発表した数字によると2013年のインターネットアクセス数は52,433でその多くが携帯電話からのアクセスである。携帯電話からのアクセスはスマートフォンの普及などでもっと多いだろう。つまり、携帯電話でのアクセスというのは携帯電話網を利用してのインターネットアクセスのみであり、Wi-Fiは含まれていない。ブロードバンド回線は2万程度である。
ブルネイは石油・天然ガスによる収入で国家の経済は潤っている。さらに無料で受けられる医療サービスなどの政府の社会福祉政策が充実しており、個人に対する所得税・住民税は課されていない。とはいえ、いつまでもブルネイは資源に依存していくわけにはいかないことはブルネイ自身も理解しており、豊富な資金を背景に海外への積極的な投資を行ったり、イスラム銀行などの金融業や観光業の育成が図られている。これからはインターネットやモバイルを中心としたICT分野での成長も石油が枯渇した後のブルネイにとっては重要になるだろう。
ブルネイにおけるインターネット接続者数と、その方法の推移
(緑:携帯、赤:ダイヤルアップ、青:ブロードバンド)
(ブルネイの当局AITI)
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【参考動画】
TelBruのテレビ広告
ブルネイの携帯電話ショップに関するニュース。
サムスンのスマートフォンが人気があるようだ。
TelBru社の「ラマダン寄付ドライブ」を伝える同社作成の動画
DST Signature Storeオープン
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登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。