▼koryolinkのネットワークに接続している北朝鮮のスマートフォン。
朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)では唯一の移動体通信サービスとしてCHEO Technologyが運営するkoryolinkが提供されている。通信方式は3Gとしては世界で最もメジャーなW-CDMA方式を採用しており、周波数帯はW-CDMA方式で最もメジャーな2.1GHz帯(バンドI)を使用している。即ち、3Gとしては最もメジャーな通信方式及び周波数帯で運用していることになる。日本ではNTT docomoやSoftBank Mobileがkoryolinkと同じ通信方式及び周波数帯でサービスを提供している。
▼平壌市内にある商業施設の屋上に設置されている基地局。
koryolinkのカバレッジは面積カバー率こそ高くはないが、人口カバー率は90%を超えている。平壌市の都市部では低層から高層の建設物が立ち並び、基地局はそれらの建設物の屋上に設置されている。建設物には指導者を称えるスローガンを掲載したパネルが至る所に見られ、そのパネルの裏にひっそりと基地局が設置されているケースもある。地方都市や郊外では鉄塔に基地局を設置しているところが多く見られる。
なお、軍事境界線付近については、電波が届かないように設計されている。パケット通信はHSPA方式を採用する。ただ、HSPA方式のエリアは平壌市の都市部や高速道路の一部に限られ、その他の地域ではUMTS方式となる。
===
▼スローガンが掲載されたパネルの裏に設置されている基地局。基地局が隠れていても、端末側から信号強度を見れば位置を特定できる。
koryolinkのPLMN番号(Public Land Mobile Network Code)は467-05と467-06の2つである。PLMN番号は国や地域毎に割り当てられるMCC番号(Mobile Country Code)と移動体通信事業者毎に割り当てられるMNC番号(Mobile Network Code)で構成されている。MCC番号は467が北朝鮮に、MNC番号は05と06がkoryolinkに割り当てられている。
2014年1月現在、北朝鮮の移動体通信サービスはkoryolinkのみが存在しているが、過去に900MHz帯(バンドVIII)のGSM方式で提供していたNortheast Asia Telephone and Telecommunicationsと、それの終了後に残された設備を利用してKorea Posts and Telecommunications Corporationが提供していたSunNetには467-03がPLMN番号として割り当てられていた。
一般的には1つの移動体通信サービスにつき1つのPLMN番号でネットワークを運用することが多く、通信方式が異なれば異なるPLMN番号で運用される場合もあるが、koryolinkは同一の通信方式及び周波数帯において467-05と467-06で運用している。これは外国人用と北朝鮮国民用でPLMN番号を分けて運用しているのである。
▼ネットワークの状態を確認できる端末でkoryolinkのネットワークの状態を表示。467-05と467-06の両方が2.1GHz帯のW-CDMA方式であることが分かる。
===
北朝鮮では移動体サービス自体が外国人用と北朝鮮国民用で分けられており、通話は外国人用の契約では国際電話のみ、北朝鮮国民の契約では国内電話のみとなる。そのため、外国人の回線と北朝鮮国民の回線では、相互に通話することができない。そして、サービスだけではなくネットワークも分けられているのである。通信方式や周波数帯は467-05と467-06で違いはないが、外国人用が467-05で北朝鮮国民用が467-06となっている。それぞれのサービスの管理を容易にするために2つのPLMN番号でネットワークを運用し、接続先を分けているものと思われる。
外国人用の契約をしているSIMカードを挿入したスマートフォンでは自動的に467-05に接続されており、手動で467-06に接続を試みるも失敗して接続することができなかった。また、一つの基地局から両方のPLMN番号で電波を出しているとは限らず、多くの外国人が利用する平壌順安国際空港や平壌高麗ホテルの一部では467-05のみが圏内となり、平壌市から離れた開城市の郊外では467-06のみが圏内となるエリアがあることも確認している。実際に、現地の北朝鮮国民が携帯電話で通話をしている中、外国人用の契約をしているSIMカードを挿入したスマートフォンは圏外で移動体通信サービスを使えないこともあった。
▼外国人用のSIMカードを挿入した状態。接続先は46705となっている。
北朝鮮では未だにインターネットの利用が制限されており、通常はインターネットの契約をできない。また、通話や通信の内容は常に監視されているという。このように情報統制を強化する北朝鮮当局にとって移動体通信サービスはリスクそのものであるが、経済発展のために必要な資金源となっていることも事実である。外国人と自国民でPLMN番号を分けるような運用は、そんな厳しい監視下で運用している北朝鮮ならではと言えるだろう。
▼ネットワークを検索すると外国人用の46705 3Gと北朝鮮国民用の46706 3Gを検出する。判別しやすいよう意図的にPLMN番号で表示していると思われる。一般ユーザから見えやすいロック解除画面やステータスバーにはPLMN番号ではなくkorylinkと表示される。端末はkoryolink Arirang AS1201。
===
▼端末によっては467-05がKoryolinkと表示される場合もある。厳密にはKoryolinkではなくkoryolinkであるが、koryolinkとの表示が見られたのは北朝鮮のスマートフォンだけであった。端末はGoogle Nexus 5 LG-D821。
▼467-05がKL-DPRKと表示される端末もある。いずれの端末も467-06はPLMN番号がそのままで表示されており、端末側に467-06のプロファイルが入っていないものと思われる。端末はdocomo GALAXY S III α SC-03E。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。