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STAP細胞会見のリアクションからわかる日本で成果主義がフツーにならない理由

2014.04.14

Updated by Mayumi Tanimoto on April 14, 2014, 06:50 am JST

STAP細胞会見を拝見いたしました。とんでもない茶番であり、見ている途中で唖然とし、その場に倒れ込みそうになりました。

以前書きました様に、ワタクシの身内は、かなり重い認知症や交通事故の後遺症、血液のガンで苦しんでいますので、STAP細胞の発表には人一倍興奮したのです。何らかの治療法が将来開発されるのではないかと、淡い期待を抱きました。発表直後には、発見自体ではなく、研究者の性的な情報や人物像ばかり強調する日本のマスコミに怒りを感じました。淡い期待を抱いていたので、あの会見には人一倍ガッカリしたのです。

しかし、あの会見の内容以上に驚いたのは、茶番を見た日本の人々の少なからずが、口々に「カワイソウだ」「許してあげよう」と言っていることでした。

人様の論文を20ページも盗作し、イギリスやアメリカのそこそこの大学であれば、学部生であっても、即時退学か単位剥奪になるような行動をとる人の研究が、どうしたら信用できることでしょう。盗作に関して訴訟をおこされる可能性もあるわけです。

しかし「カワイソウ」の人々は、その深刻さを理解していません。女性だろうが若かろうが、30歳というのは立派な大人であり、博士号を取得して研究所に雇用されるということは、プロとして結果をだすのが当たり前で、データ管理や論文の書き方などは知っていて当然、訓練は終了していて当然なわけで、私は未熟ですみません は言い訳にはなりません。自らを未熟だと考えるなら、一般企業の課長級かそれ以上に相当する職務に就いてはならないのです。

通信の世界であったら、自分の無知や能力不足で大規模通信障害が起こった場合、未熟ですみませんでは済みません。解雇になることもありますし、顧客から損害賠償を請求されることだってあります。

日本でも、マトモな研究者や科学者の方、民間企業で技術開発に従事する方々、医療職の方、職人の方など、結果がものをいう世界で働いている人々の大半は、あの会見の内容に激怒しています。成果がモノをいう世界で勝負しているわけですから当たり前です。しかし彼らは日本では少数派です。

日本の人々の多くは、「カワイソウ」の人々であり、成果がモノを言う世界のロジックを理解していないわけです。

日本のホワイトカラーの仕事というのは実に無駄が多く、先進国ではあり得ない長時間労働やサービス残業が当たり前になっています。職務別の採用や業務の担当区分は曖昧、業績評価も曖昧であります。業務を効率化し、適切な要因調整や業務配分をし、各自の成果を適切に評価するには、

「人物像」
「コミュニケーション能力」
「政治がうまいかどうか」

ではなく

結果で評価する

が前提になっていなければならないわけです。

具体的に言うと、この人はこういう業務を担当する、この程度のことをいつまでにやる、やったという証拠は何と何のデータで証明する、という仕組みのことです。これは北米やイギリスではごくごく当たり前にやっていることです。書面で決められたこの程度のことをいつまでにやるが達成されなかった場合は、男だろうが女だろうが、不細工だろうがぶりっ子だろうが首だったり、ボーナスがでなかったりで終了です。やったという証拠を偽造する様な人はコンプライアンス違反で首です。そういう厳しい世界です。日本の普通のサラリーマンがイギリスやアメリカの厳しい会社で働いたら、恐らく一ヶ月持ちません。これが個人主義の世界のやり方なわけです。

その代わりに、業務は各人に細かく割り振られ、割り振られているから人の仕事を手伝う必要はなく定時上がりが可能で、夏休みを3週間取得できて、在宅勤務も可能なわけです。何をどれだけやって、どういう成果を出して、その証拠はどういうデータで出せば良いか決まっているからです。印象を良くしてどうという話ではないんです。

「カワイソウ」の人々は

「なんでオレがアイツと同じ給料なんだ」
「なんでオレがアイツの仕事を手伝うんだよ」
「なんでオレの職場は長期休暇が取れないんだよ」
「馴れ合いは許せない」

と口々に文句を言うわけですが、それは自分達が

「若いから許してあげようよ」
「泣いてるじゃないか」
「若い女性だもんね」
「かわいいからいいんだよ」
「感じがいいからね」

という印象評価のロジックから抜け出せないからです。つまり、集団主義の世界の考え方です。

自分も上司も人事も顧客もそういうロジックで考えている。こういう前近代的な考え方を捨て去らない限り、長い休暇は取れず、残業地獄からは抜けだせないわけです。その代わり、結果で結果で評価され、男だろうが、ぶりっ子だろうが関係のない厳しい世界に放り出されるわけですが。放り出されなくないから印象評価の世界に拘っているわけです。

印象評価の世界で安住していたい方は、一生長時間労働して、このような衣装を身につけて、宴会でバーコード頭の上司のご機嫌を取っているのがお似合いです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。