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3回目のテーマは「パーソナルデータとビジネス展開」を取り上げる。今回はターゲティング広告に対するユーザの啓発と、収集されるユーザの閲覧履歴データの透明性を確保することを目的として昨年設立された業界団体Data Driven Advertising Initiative(以下DDAI)の中心メンバーであり、一般社団法人 インターネット広告推進協議会(以下JIAA)のユーザ情報取り扱いガイドラインワーキンググループの推進メンバーでもある、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社プロダクト開発本部 フェローの遠矢行史氏と同社プロダクト開発本部 広告技術研究室 主任研究員の原田俊氏にインタビューを行う。

インターネット広告の世界では、「行動ターゲティング広告」が既に事業化されている。Webサイトの閲覧履歴や検索キーワード、ECサイト内の購入履歴といった個人の行動履歴を用いて広告配信を最適化する手法には、従来から様々な議論があり、業界団体も自主的なガイドラインを整備している。

2014年3月にはJIAAが、「プライバシーポリシー作成のためのガイドライン」と「行動ターゲティング広告ガイドライン」の改定を発表した。現在行われている内閣官房IT戦略本部主導の「パーソナルデータに関する検討会」での検討と、今後どのように整合させていくのか。事業環境で法令遵守と消費者の安心を担保しつつ、ビジネス展開を行う同社に、事業者サイドから見える課題の整理のポイントを伺った。

──4月16日に開催された第7回の内閣官房の「パーソナルデータに関する検討会」では、以下図のように現行法における「個人情報」の維持に加えて、新たに「準個人情報」や「個人特定性低減データ」(いずれも仮称)という概念が提示されました。新たにパーソナルデータとして規律の対象とする提案がされたことについてはどのような考えをお持ちですか?

▼法改正後のパーソナルデータ全体イメージ(第7回パーソナルデータに関する検討会資料より)※画像をクリックして拡大
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インターネット広告業界と国の検討は方針段階では一致している

遠矢:従来、法律の解釈上「個人情報ではない」とされていたパ-ソナル・データの中にもプライバシー上考慮すべきデータが存在することは、これまでも広告業界の中で議論してきました。今回、個人情報とは別の新たな概念が提示されたことは、政府の検討会もこれを同様に考えたということだと理解しています。

現状では今回政府検討会から提示された「準個人情報」などの新たな概念の定義については、もう少し時間が経たないことにはどのような課題が出てくるかわからないので、はっきりしたことは言えません。ただ、基本方針として、従来は定義が不明瞭だったこの領域のデータについて、解像度を上げて、明確に整理をするという方針に関しては、歓迎できると考えています。

とはいえ現在進行形ですので、ひとまずは議論が一定の着地点に落ち着くまで注視したいですね。

行動ターゲティング広告に利活用するパーソナルデータを「インフォマティブデータ」と定義

──事業活動の活発化を前提とすると、どのような着地が理想といえるのでしょうか。

遠矢: JIAAでは、「プライバシーポリシー作成のためのガイドライン」を昨年から今年にかけて改正し、今年の3月に発表しました。ここでの主な改正項目は、個人情報とは区別して「インフォマティブデータ」という概念を定義し、その取扱い基準を定めたことです。

インフォマティブデータとは、「個人を特定することができないものの、プライバシー上の懸念が生じうる情報、ならびにこれらの情報が集積化、統計化された情報であって、特定の個人と結びつきえない形で使用される情報を総称」したもので、すなわち分析やターゲティングの手段として利用出来る可能性があるデータを指します。このインフォマティブデータの考え方は、基本的な部分では、「準個人情報」+「個人特定性低減データ」の概念の議論と重なっているのではと思っています。

政府の検討会でもう一つ新たに示された「個人特定性低減データ」については、おそらくは個人情報およびインフォマティブデータを容易に第三者提供できるように加工したものを指すのではないかと現段階では理解しています(編集部註:取材日(2014年4月21日)時点での公開情報に基づき整理・解釈いただいたものです)。

また、JIAAでの議論においてインフォマティブデータの中に個人の識別ができない、統計的に扱うデータも存在することを確認しました。私たちはこのデータを「統計情報等」と称し、統計情報等とそれ以外のインフォマティブデータは扱いが異なってしかるべきであるということを、ガイドラインに反映しています。具体的には、インフォマティブデータから統計情報等を除いた部分と個人情報をあわせて「個人関連情報」と定義し、取扱い基準を示すべき対象範囲としました。

現段階で、データの取り扱いに関してどのような整理が理想ということは言えないのですが、こういった意味合いの違いを改正法に合わせて整理していくことは、今後必要になるでしょう。

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個人特定性低減データに変換する手法の標準化が必要になる

──「インフォマティブデータ」と「統計情報等」と「個人特定性低減データ」について、もう少しお教えいただけますか?

原田:個人関連情報に該当するインフォマティブデータはクッキー情報やIPアドレスなど、容易に個人の特定は出来ないものの、個人に紐づいた情報です。統計情報等はそもそも個人を識別する識別子を持たない、いわゆるアンケートの単純集計のような情報を指しています。ここが一番の違いです。

遠矢:政府の検討会が現行案で進んだ場合、インフォマティブデータには準個人情報と個人特定性低減データの2つを包含することになると思っています。そうなれば当然、これを区分けする必要はあると考えています。

原田:具体的には、インフォマティブデータをどのように匿名化・仮名化し、個人特定性低減データに変換する処理を行うか、という処理の標準化が必要になると思われます。その内容を反映したガイドラインの策定と、その啓発も必要になってくるでしょう。

移行期間の過ごし方が悩ましい

──まだ定義されていないことはもちろん、すでに提示された定義についても、まだ共通認識になっていないのが問題ですね。なんでもかんでもすべてを「個人情報である」という主張もありますが、こういった意見はどう受け取られていますか。

原田:議論を進める過程で様々な意見・解釈があること自体は、世の中にどのような懸念や不安があるかが明らかになるので、大変重要だと感じています。また、これは現行法に課題があることが明確になっている証左とも言えるように思います。その一方で、事業者としては、改正までの期間にどのような対応をして行くべきか、という非常に難しい課題も抱えています。

──確かに改正法が施行されるまでの時間をどのように処するかは難しいですね。

遠矢:その通りです。まずは政府の検討会が6月を目途に進めている政策大綱のとりまとめを待つほかないのでしょう。業界としては、消費者や広告主などのステイクホルダーの理解が得られるようなかたちにしなければということも意識しています。

【参考情報】
パーソナルデータに関する検討会
「プライバシーポリシー作成のためのガイドライン」と「行動ターゲティング広告ガイドライン」を改定(JIAA)

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特集:プライバシーとパーソナルデータ

情報通信技術の発展により、生活のあらゆる場面で我々の行動を記録した「パーソナルデータ」をさまざまな事業者が自動的に取得し、蓄積する時代となっています。利用者のプライバシーの確保と、パーソナルデータの特性を生かした「利用者にメリットがある」「公益に資する」有用なアプリケーション・サービスの提供を両立するためのヒントを探ります。(本特集はWirelessWire News編集部と一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の共同企画です)