日本ではIT業界や通信業界がブラックだといわれることが少なくありませんが、所変われば事情が変わります。ここイギリスに限らず、西欧州や東欧州、北米ではIT業界や通信業界は稼げる上に、働く人の待遇が悪くはない業界です。
ではどのぐらいの報酬がもらえるのかを、イギリスを例としてご紹介したいと思います。イギリスのリクルートエージェンシーであるThe Robert Half が発表したThe Robert Half Technology 2014 Salary Guideは、政府統計と独自のサーベイをもとに2014年前半時点でのイギリス全土とロンドンにおけるスターティングサラリー(採用時の給料)をまとめています。スターティングサラリーなので、昇級分やボーナス、各種福利厚生は含まれていませんが、イギリスの平均給与(約500万円)を大幅に上回る金額を得られることがわかります。
2014年前半のロンドンにおけるスターティングサラリーおよび2013年比
Chief Information Officer (CIO) £159,750 - 239,000 +2.4%
Chief Technology Officer (CTO) £139,500-193,000 +2.2%
Chief Information Security Officer (CISO) £97,000-125,250 +3.5%
Chief Architect £126,250 -178,250 +2.5%
IT Manager/Head of IT £77,750 -120,500 +0.4%
Enterprise Architect £78,500 -134,500 +1.9%
Development Manager £89,500 125,750 +2.0%
Software Developer £36,750- 91,250 +1.0%
Database/Business Intelligence Developer £47,750- 72,250 +3.7%
Programme Manager £89,250-126,500 +0.8%
Project Manager £58,250-101,500 +1.4%
Project Management Office (PMO) Head £84,500-108,000 +1.0%
Business Analyst £46,000-76,750 +2.1%
Test Programme Manager £84,500-108,500 +1.0%
Database Manager £57,500-100,250 +1.1%
Network Manager £62,500-96,500 +2.1%
Telecommunications Manager £45,250-77,500 +0.8%
Support Manager £42,750-80,000 +1.4%
Information Security Manager £75,250-105,750 +1.7%
IT Auditor £47,750-70,500 +2.2%
£1=170円で換算すると、CIOは2700万円から4000万円、Enterprise Architectは1300万円から2200万円、Software Developerは620万円から1500万円となっています。上記はロンドンにおける給料ですが、イギリス平均よりも29%高くなっています。ちなみに上記は大手企業に限ったものではなく、中堅企業や小企業でも似た様な報酬を得ることが可能です。またほぼすべての職種で給料が上昇しています。
上記にはプロジェクト単位雇用のインディペンデントコントラクタの報酬は含まれていません。インディペンデントコントラクタの場合、報酬は正社員の数倍になることもあります。例えば金融系ビジネスアナリストの場合、一日8時間労働で日給が£500-800 (85,000-136,000円)などという人が珍しくありません。短期雇用のため報酬が高いわけです。非正規だから給料が安いというわけではありません。
日本と異なり、職種が細分化されているため、システムエンジニアと言うカテゴリがないのも特徴です。基本的に「なんでも屋」さんはいません。また給料はスキルベースで上がるため、年齢給というのがないのも特徴です。その割には35歳定年説というのもないので、シニアの技術者も活躍しています。
契約社会ですので、サービス残業(無償労働)というのはありません。有給休暇はすべて消化するという人の方が普通なのも日本と異なる点です。イギリスの場合連続で2週間程度とるのが普通ですが、大陸欧州の場合は3−4週間というのも珍しくありません。デスマーチというのもありません。
日本でもIT業界や通信業界は報酬が高いとはいわれていますが、リクナビネクストの調査によれば、30代前半層(30~34歳)、「ソフトウェア系」では、最も多い年収層は「400万~500万円未満」(26%)ですが、「ハードウェア系」では「500万~600万円」(27%)となります。ロンドンのエントリーレベルのソフトウェアエンジニアのスターティングサラリーと比べても随分安いのがわかります。有給休暇の取りやすさやボーナス、福利厚生なども考慮した場合、物価の違いを鑑みても、日本のエンジニアの給料は割安な感じがします。
ロンドンではこれだけ高い報酬を払っているにも関わらず、IT業界と通信業界は人材不足です。UK Commission for Employment and Skillsによれば2009 年から2012年の間に、イギリスのIT業界と通信業界では雇用が5.5%増加し、イギリス平均の3倍となっています。今後5年間で50万以上の雇用が創出されると予想されています。雇用を牽引しているのは、ロンドンを中心とする南部のテクノロジーセクターや金融業界です。
テクノロジー系人材は、イギリス国内だけではなく他の国との取り合いです。人材が足りない場合、北米や他の欧州大陸、インドなどから直接人を連れてくることも決して珍しくありません。また良い人材の確保にはボーナスなどのインセンティブや、柔軟な労働環境の整備(在宅勤務など)は必須です。しかし、それでも良い人材は、より待遇の良い国や企業に流れて行きます。
日本では高度技能を持った移民の受け入れが検討されていますが、今やそのような人材は他の国との世界的なレベルでの取り合いです。日本ではそのような移民の招聘にあたり、法改正にばかり議論が集中する傾向がありますが、それよりも、雇用側が相場に応じた報酬と良い就労環境を整備しなければならない、ということを自覚する必要があります。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。