2014年6月18日、アメリカの通信事業者T-Mobile USが新たなサービス「Un-carrier 5.0」、「Un-carrier 6.0」を発表した。「アンキャリア」の名前のごとく、従来の通信事業者からの脱却を目指した施策・サービスの提供である。
T-Mobile USでは2013年4月からiPhoneの販売を開始した。iPhone販売が始まる直前の2013年3月から「Un-carrier」プランの提供を開始した。その後も「Un-carrier」プランは進化していく。これで多くの顧客を囲い込むのに成功した。その経緯を見ていこう。
「Un-carrier」(2013 年3月提供開始)
アメリカでは2年契約を結んだ他社の顧客がT-Mobile USへ乗り換えようとすると、多額の解約料を請求される。そこで、T-Mobile USは顧客に代わって、この解約料を全額負担するという施策である。つまり、このプランでは契約期間の縛りがないため、顧客は「T-Mobile USのサービスが気に入らなければ、いつでも他社へ乗り換えできる」ということから安心してT-Mobile USで契約ができる。
「Un-carrier 2.0」(2013 年7月提供開始)
月額10ドル(追加料金)で、2年間のうち3回までスマートフォンの買い替えができる「JUMP!」プランの提供。
「Un-carrier 3.0」(2013 年10月提供開始)
100カ国以上で追加料金なしでローミングできる「無制限グローバル・データ通信」の提供。
「Un-carrier 4.0」(2014 年1月提供開始)
T-Mobile USへ乗り換えた他社の顧客が使用中の携帯端末を下取りに出すと、最大で300ドル(他社での契約期間の経過月数により減額)、合計で最大650ドルのキャッシュバック受けることができる。
「Un-carrier 5.0」(2014 年6月提供開始) 「Test Drive」
アメリカでの大人気の「iPhone 5s」を7日間無料貸出。「Test Drive」というサービス名で、T-Mobile USのネットワーク力を試してもらう。端末保証のためにクレジットカード情報を入力する必要があるが、送料などは無料。返却は、宅配便などは受け付けず、最寄りのT-Mobileショップに持っていく必要がある。但し、返却時にディスプレイの破損などの問題があった場合は100ドルの補償料が必要。
「Un-carrier 6.0」(2014 年6月提供開始) 「Music Freedom」
既存のT-Mobile USの顧客を対象に、Pandora、iTunes Radio、Beats Music、Rhapsody、Spotify、Xbox Music、Milk Musicなどアメリカの主要音楽ストリーミングサービスの利用パケット費用を無料とする。T-Mobile USの顧客にデータ通信費用を気にせず音楽を楽しんでもらい、同社に繋ぎ止めることが目的。
T-Mobile USはこのような様々な施策を通じて、2014年第1四半期には純増者数を132万増と大手4社の中でもトップだった。また、スマートフォンの販売台数も2014年第1四半期で690万台と、Sprintの500万台よりも多かった(参考:アメリカのスマートフォン市場:販売台数でSprintを抜いたT-Mobile US)。
▼アメリカ通信事業者の2014年第1四半期決算比較
(公開情報を元に筆者作成)
今回、T-Mobile USが提供する「Un-carrier 5.0」(Test Drive)では、「iPhone 5s」を7日間無償で貸与して、自社のネットワークの強さを体感してもらうというのは通信事業者としても画期的なサービスで、相当の自信がないと出来ないだろう。今までの「Un-carrier」の施策と異なり、無料とはいえ利用者が気に入らなければ、悪評はあっという間に広がりかねない。
T-Mobile USはソフトバンクが買収したSprintが合併を目論んでいることから日本での認知度も向上している。 T-Mobile USのこのようなサービスとその勢いを見ていると、これらの施策は、「本当はソフトバンクがSprintでやりたかったことなのではないだろうか」、と思ってしまう。
【参照情報】
・Data-Strong Double Header
・Test Drive
・Music Freedom
・T-Mobile Announces Boldest Moves Yet as America's Un-carrier
・T-Mobile Makes the World Your Network -- at No Extra Charge and Now Delivers Nationwide 4G LTE
・T-Mobile Delivers Contract Freedom for Families By Paying Off Early Termination Fees
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。