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前回は、株式会社ビデオリサーチソリューション推進局インタラクティブ事業戦略室専門職部長の松本圭一氏に、内閣官房IT戦略本部の「パーソナルデータに関する検討会」の議論を事業者としてどう受けとめているか、また、パーソナルデータの安全な利活用を進めるために同社が現在行っている、情報セキュリティへの取組みと第三者委員会の運営を伺った。
本稿では、引続き同社の取組みと、複数企業間でパーソナルデータを扱う場合の課題と展望を伺う。<聞き手:JIPDEC>

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顧客企業の保有ログの価値化を行うDMPのデータプロバイダを目指す

──他にはないデータを扱っているが故に、たったひとつでも問題が起これば産業全体の信用問題になってしまう、そのために厳重な管理体制が必要だというご指摘は、重みがあります。

一方で、業界・ステイクホルダー全体で、トラストフレームワークの構築を行うという手法もありえます。たとえば一般社団法人インターネット広告推進協議会(JIAA)の業界自主規制のガイドラインは、そうした指向性を帯びているように見えます。

このようにさまざまなアプローチが積み重なっていくことでしか、安心安全なデータ利活用は進まないと考えざるを得ないでしょうか。事業者の身に立つとなかなか大変なことだと思います。

松本:そうですね。好ましい事例(ベストプラクティス)を作っていくことも大事だと思っています。事例作りに貢献できそうなところで、ビデオリサーチ単独の調査事業とは別に、企業が保有するデータの価値化、いわゆるDMP(※)に私たちは事業機会を感じています。
※DMP:データ・マネジメント・プラットフォーム。ネット広告を中心としたウェブ上のマーケティング施策を管理するためのプラットフォームを指す。

当社には「生活者属性」「商品関与」「メディア接触」という3つの視点を同一サンプル(10,700人)から調査する「ACR/ex」という商品があります。

<ACR/exのイメージ>
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このデータを使って顧客企業が保有しているログ等の「顔のないデータ」の蓄積に対して擬似的にプロフィールを生成するサービスを事業化しています。ほかの事業者のデータを価値化するこのような試みで、当社はDMP事業のデータプロバイダになれないかという可能性を検討しています。

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課題はパーソナルデータに関する用語の共通理解

──そこで課題になるのはどのようなことでしょうか。

松本:やはりステイクホルダー間で共通認識をもってデータを扱うことの難しさです。仮に、プレイヤーが4社あるとすると、検索クエリーのデータを持っている企業と、そうでない企業では、パーソナルデータの取り扱いが変わってくるかもしれません。

例えば、親しい友人や自分の名前を検索する人がいます。趣味の情報も入力して、地名や住所等も入力します。これら前後の検索情報を、照合や統計化の処理をすることで、個人が特定できてしまうということは起こりうる話です。

その後、例えばデータを拠出した企業が「これはパーソナルデータです。」といい、別の企業が「個人情報ではないか。」と言います。このあと私が誰の意見に賛成しても2:1:1になってしまいます。

やはりこのような状況がずっと続くとなると、議論をまとめるのは困難です。共通理解を持つための底上げはかなり重要な課題になっているのは事実です。

個人が得る利益を明確にすることで、個人・事業者もデータ利活用を前向きに捉えられる

──データの組合せによって、特定性、識別性が高まるのか。これが仮にデータそのものやその利活用の状態によって変わるのだとすると、常に人間がトランザクションに張り付く必要があることになります。そこまで人件費をかけるとなると、行動履歴や購買履歴のデータを扱うことで価値を生み出すというのは、相当ハードルの高い話になりますね。

松本:今は事業者間で何かやろうと試みても入口の時点で互いに「見えているもの」が異なる現実があります。どのようにデータそのものや処理に関する適格性が付与されるのかは検討が必要で、いま国の議論が進んでいることには大きな期待を持っています。

一方、それとは少し違う視点ですが、個人に対しての利益配分を明確に出来るようなルールが出来ないか、とも思います。データを出す個人がどのような利益を得るかを明確にできると、事業者も個人も前向きにデータ利活用を捉えられるのではないかと思うのです。

もちろん、セキュリティチェックや安全性の担保を前提とした話ですし、法律に定めるか別の方法がいいかについては、まだイメージ出来ていませんが。

──生み出される経済価値とプライバシーを天秤にかけて、どれくらいパーソナルデータを拠出するかを判断出来るようにする、ということでしょうか。

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希望を持ちながら、制度変更を待たずに出来ることを粛々と進める

松本:はい、楽観視し過ぎかもしれませんが、それがあるだけでも前に進むのではないか、と今は考えています。データ利用の経済価値の測定や、データの値付けの根拠、トラストフレームワーク毎の方針や特徴がはっきりすることで議論が活性化し、社会的なコンセンサスが取りやすくなるのではないかと考えています。

そういう楽観的な希望も視野に入れつつ、ただ制度変更を待つだけでなく、その精神を先取りしながら、「いま自分たちに出来ること」--すなわち専門家の意見をちゃんと聞いて離陸出来る安全なポイントをひとつひとつ確認して行く作業は粛々と進めていく、というのが今の当社のスタンスです。

第三者による認定事業の必要性

──今後、事業を進める上で必要と思われる制度などはあるでしょうか。

松本:そうですね。例えばスマートフォンやタブレットのログを取得する時のツール構築・暗号化はかなり玉石混合と感じています。そしてその安全性の判定はどの事業者でも容易にできるというものでもないと思います。ここに第三者機関の認定事業などがあると嬉しいです。

保護を厚くすべきものは厚く、情報の性質によって、事業者と消費者相互にちょうどよい措置が分かる整理があると大変助かります。現状では処理の充分性は自己判断にならざるを得ないので、認定いただける機関があるとかなり負担が軽くなると感じます。

──最終消費者からの納得を得るために必要と思われる制度はありますか。またその枠組みは誰が構築すべきでしょうか。

松本:広告業界でいえば、一般社団法人 インターネット広告推進協議会(JIAA)の「行動ターゲティングのガイドライン」などは、最終消費者と向き合っているといえます。最終消費者に対応しているアドネットワーク、媒体社、広告主、みなそれぞれ異なる事業をされているので、各企業の消費者との向き合い方の濃淡がありますが、最低限の部分の自主基準をルール化して、個別に必要なルールをカスタマイズできるというやり方は、意味があると考えています。

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通信産業は他に持ち得ないデータを有する事業者

──この領域で通信産業に担ってほしい役割はどのようなものでしょうか。

松本:総論的ではありますが、前々から思っているのは、通信事業者は他のプレイヤーでは持ち得ない情報を持っている事業者だということです。そのため、成功事業を作るために前進してほしいという思いがあります。

クッキーやDPIなどが代表例になるでしょうか。センシティブなデータであるため単純ではないと理解しますが、それ以上に重要な情報を持っている事業者が成功事例を作ることの価値があると思います。

そうした、通信事業者でなければ触れないデータを、市場で活かすためには、最終消費者に対するきっちりした説明が必要になると思います。提供する情報(利益)はなにか、オプトイン・オプトアウトの明示、これらを分かりやすく説明し、対象者に理解を得た上で、ビッグデータの産業活用で成功事例を作る努力を一緒にしたいという気持ちは常に持っています。

──ほかにいない事業者という指摘は重要で、自社が儲けるだけでなく業界や世の中を活性化させるという一つ上の領域でのコミットが求められていることなのでしょうね。ありがとうございました。

【参照情報】
パーソナルデータに関する検討会
ビデオリサーチ ACR/ex
JIAA 行動ターゲティング広告ガイドライン

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特集:プライバシーとパーソナルデータ

情報通信技術の発展により、生活のあらゆる場面で我々の行動を記録した「パーソナルデータ」をさまざまな事業者が自動的に取得し、蓄積する時代となっています。利用者のプライバシーの確保と、パーソナルデータの特性を生かした「利用者にメリットがある」「公益に資する」有用なアプリケーション・サービスの提供を両立するためのヒントを探ります。(本特集はWirelessWire News編集部と一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の共同企画です)