1991年、ケンブリッジ大学の古びたコンピュータ・ラボの中のトロ―ジャン・ルーム前の通路に共用のコーヒー・ポットが置かれていた。離れた自分の研究室にいながらにして、このコーヒーの様子を知りたいという学生の願望が、世界初のウェブカメラを生み出したと言われている。当初は大学内LANでのみカメラ映像を見ることができたが、1993年にはインターネットに公開され、ラボの学生のみならず、世界中の人々がイギリスの研究室前のコーヒー・ポットをチェックすることが可能になった。この世界初のウェブカメラ映像は2001年にラボが移転するまで配信され続けたという。
以来、インターネット技術者たちにとってコーヒー・ポットは遠隔監視の象徴的な存在なのだが、その後、技術者の関心は監視から制御、診断へと発展し、今日のIoT/M2Mへとつながっていく。
さて、最初のウェブカメラ監視から21年の時を経て10月15日に発売予定のMr.Coffee社のスマート・コーヒーメーカー(Smart Coffeemaker)は、150ドルと高価ながら、スマートフォンから操作が可能なハイテク製品だ。オフィスや大学、自宅のWiFiルーターに接続し、iOSまたはAndroidアプリ(Belkin社のWeMoアプリ)を使って遠隔制御する。さすがに粉は誰かが入れなければならないが、淹れる時刻の一週間分のスケジュールを設定したり、湯を注ぐペースを調整したり、リマインダーを設定することができる。マシンのステータスをチェックしたり、スイッチを遠隔で切ったりすることも当然できる。
残量をカメラで見ていただけの時代からすれば飛躍的な機能向上だ。トロ―ジャン・ルームの場合はコンピュータ・サイエンスを学ぶため研究室で長時間過ごす学生たちがコーヒーを熱望していたからこそ成り立ったアプリケーション。21年後の今、スマホ対応コーヒーメーカーを欲しがるのは、どういった人々なのだろう。
【参照情報】
・スマート・コーヒーメーカーのウェブページ(Mr.Coffee)
・トロ―ジャン・ルーム・コーヒー・ポット(Wikipedia)
・Are smart homes just stupid?
・20 years before smart coffee pots, connected caffeine created an Internet sensation
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