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コロナ 研究 スマートフォン イメージ

コロナ追跡アプリで内輪揉めするイギリス

UK's internal struggle over Covit tracing app

2020.06.24

Updated by Mayumi Tanimoto on June 24, 2020, 07:00 am JST

イギリス政府は、自国のNHS(国立病院機構)の特別プロジェクト部門のNHSXが開発していたコロナ追跡アプリを3カ月の実証実験後に捨てることを発表し、これが話題になっています。 ここに来て、これまで政府とその他の団体で壮大な内輪揉めが起きていたことが報道され始めています。

実は、イギリスでは政府が追跡アプリを発表する以前に、大学の研究機関でユーザーが症状を申告するアプリがかなり人気になっていました。

最も人気があるのが、Kings Collegeの「The Covid Sympton Study」というアプリで350万人にダウンロードされています。このアプリは、ユーザーが毎日自分が健康体かどうか具合が悪いかどうか、ということを入力するだけの非常にシンプルなアプリです。

元々、研究データを収集するためにユーザーにボランティアでデータ入力を呼びかけていました。ユーザーは自分がコロナに感染している可能性を知ることができます。

日本でいうと神奈川県が出しているアプリにかなり近い形だと思います。

先日、大幅なアップデートが行われ、症状がある場合は検査を希望するかどうかを申告できるようになっています。検査の予約も、このアプリからできるようになっています。

位置情報やBluetoothを使った接触の検出などはできませんから、ただ単に症状の自己申告をするだけの機能ではありますが、現在、政府も自治体もこういったアプリを提供していませんので、イギリス全土でどの程度の人々が症状を自己申告しているかを可視化するのに役に立っています。

アプリの公開は非常に早かったので、3月の後半にはかなり多くの人が使用していました。

私の周囲の人々も、多くがこのアプリで自分の健康状況を毎日申告しています。

リバプールとマンチェスターの大学が協業している「Evergreen Life」はユーザー数が80万人と少なめで、The Covid Sympton Studyに比べ機能が限られていますが、コロナの検査が広く行われる前にミドルズボローでの感染の発見に役立ちました。

一方で政府のコロナ追跡アプリは撤回が発表されるまでの3カ月間、空軍基地とワイト島で実証実験を行っていたわけですが、使用したユーザーの数は大変少なく、アプリのBluetooth機能が認識されたiPhoneはたった4%に過ぎなかったため、実用性がなかったということが報告されています。

ガーディアンの報道によれば、どちらのアプリも初期からNHS(国立病院機構)の中の人々が大変協力的で感染者を早期に発見できるので大変助かると感謝されていたとのことでありますが、その一方で政府のコロナ追跡アプリや防衛省の人々は非常にアンフレンドリーで、まるでこれらのアプリを自分たちの敵のように扱っていたとされています。

例えば、Kings Collegeのティムスペクター教授は、NHSXはThe Covid Sympton Studyを 3月の時点から敵のように扱っていたと述べています

この内輪もめの構図、私は非常にイギリス的だと感じました。

イギリスは大陸欧州や日本と違って民間の活力が非常に元気なところで、 政府が何かをする前に大学のような組織やベンチャーが自分で何かを始めてしまうということが多いです。

全体を取りまとめるというよりも、何かに気がついた個人が自分がやってみようということで、いろいろ挑戦してみるわけです。

面白いのは、日本と違ってイギリスの大学というのは国立大学が大半な割には、大学の中にいる人々の気質というのはどちらかというとベンチャー企業の人に近いところです。

ですから、今回のようにアプリの開発も非常にスピードが速かったわけです。

これは普段でも同じで、イギリスのテック企業の少なからずが大学発のベンチャーです。政府がお膳立てをしているというわけではなく、大学の中にいる人々が自発的にやっているという感じですね。

こんな普段の状況が、コロナ対策でも生きているわけです。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。