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メディアで社員を脅す社長はマフィアと同じである

2014.10.03

Updated by Mayumi Tanimoto on October 3, 2014, 03:42 am JST

サイバーエージェントの藤田晋社長が日経新聞電子版「経営者ブログ」に投稿した記事で、同社の退職を希望する若い現役社員に「激怒」したことが話題になっています。

この記事は様々な反響をよんでいる様ですが、ワタクシはこの記事の内容を、イギリス人やその他の国の人に紹介してみました。その反応は皆さんご想像の通りですが「はあ?」でした。

「はあ?」は当たり前です。

欧州では労働者は会社と雇用関係で結ばれているだけの関係に過ぎません。そこには情も何もなく、単なる取引関係があるに過ぎないのです。労働者は己の労働時間と技能を会社という組織、もしくは経営者に売る。会社もしくは経営者側は、提供された物に対する対価を支払う。それ以上の関係はありません。会社というのは日々の糧を稼ぐ場に過ぎません。極めてドライな関係です。労働力や己の技能を売ることは、ヤフオクで軍用糧食を取引することと何ら変わらないのです。

ワタクシだけではなく、こちらにいる様々な国の友人達は、藤田社長がメディアを使って自社の社員を「脅した」ことに関して、なんと狡猾で、フェア(公平)ではない経営者なのかと驚きました。

社長には発信する力があります。彼は著名人です。しかし、単に労働時間と技能を売る人に過ぎない社員は、社長の様に著名メディアを使って情報を発信するすべはなく、お金もコネも力もないのです。立場の弱い人間を攻撃することは、フェアなことではありません。暴力を振るっているのに過ぎないのです。この様な暴力を振るう管理者や経営者は、敬遠はされますが、尊敬されることはありません。彼らは気に入らない人間を爆殺するナポリのマフィアと何ら変わらないのです。

彼がかつて会社に損害を与えたことがあったとしても、経営者や管理者は、彼が損害を与えることを考えた上で、仕事を割り振っています。つまり、損害を与えられる可能性があるというリスク管理の責任は、そのプロジェクトにゴーサインを出した管理者や経営者側にあるのです。その様なリスクを取るかどうかの決定権があるから、管理者や経営者は多大な報酬を手にする権利があるのです。リスクを管理することができないのなら、多額の報酬を受け取る権利はありません。いますぐその職を辞するべきです。

サイバーエージェントの優秀な労働者は、暴力を振るわれることを恐れて、サイバーエージェントの労働契約を結ぶことはないでしょう。世の中にはもっと魅力的な取引が存在するのです。

メディアで社員を脅すことが、優秀な社員の流出や引き抜きを防ぐと言っている人がいる様ですが、その様な人は、シリコンバレーやケンブリッジやロンドンやバンクーバーや上海にある知識産業の企業が、社員をどのように扱っているのか、優秀な人を確保するにはどんなに苦労しているのか、その目で見てくると宜しいでしょう。フェアではない組織には、ゴミの様な人しか集まってこなくなります。

社員をフェアに扱い、妥当な報酬を支払い、心身の健康状態や家族の状況を考慮することは、慈善事業ではなく、ビジネスの生存戦略なのです。

野蛮な行いをする人間を敏腕経営者とよぶことは、優秀な人材を確保する戦略とは何であるかを理解していないことの証明なのです。日経新聞のコメントをよむ限り、残念ながら、我が国には、その様な人が少なからずいる様です。

その様なガラパゴス思想の人々は、上昇して行く税金や物価にイライラし、地震と原発にビクビクしながら、老人ばかりになる国と一緒に衰退していくことをお勧めします。しかし今の生活水準を維持したいのであれば、どうしたら創造性と活気のある組織を作ることができるのか、どうしたら世界中から優秀のある人を引きつけることができるのかを考えるべきです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。