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耳と端末と通信に、高音質環境がやってくる。

2014.10.22

Updated by Yoshiko Kano on October 22, 2014, 17:00 pm JST

先月末に発表されたドコモの冬春モデル、端末の売り文句が音質系メインなのはちょっとした驚きでした。

●ドコモが冬春モデル16機種発表、スマホは全機種VoLTE・ハイレゾに対応、サービスも強化
https://wirelesswire.jp/Todays_Next/201409302101.html

携帯電話から聞こえてくる音の質が、どんどん良くなるわけですね。10月1日には遂にPHSとケータイのMNP接続が始まりました。PHSから他キャリアへの流失がどれくらいになるのか想像もつきませんが、こと音声通話という点に限って言えば「携帯でも、まぁいいか」と思える音質クオリティに、やっと追い付いてきたという気が致します。

そして、ほとんど時を同じくしてハイレゾ対応機器続々投入なニュースも流れてきました。

●ハイレゾ音源:「高音質」対応機器続々 ソニーが口火
毎日新聞 2014年09月29日 21時38分(最終更新 09月29日 22時06分)
http://mainichi.jp/select/news/20140930k0000m020093000c.html

最早ケータイは電話というよりも、様々な個人サービスのプラットフォームとして存在していますから、この変更は地味に大きいのではないかと思っています。効果的な音や声には、その場の空気感を瞬時に変化させる力がありますから、没頭感や共有感が今よりずっと親密なサービスやエンタテインメントの登場が期待できそうです。キャラボイスなんかは今以上に「隣にいる感」満載になるでしょうし、オーケストラなどのリッチサウンドもますます搭載しがいが出てきますよね。

でもそんなに音質良くなって、帯域とか大丈夫なの? そもそも電話回線的にどうなっちゃうの? と思っておりましたところ、日本インターネットエクスチェンジ(株)の石田さんに私の疑問を解消して頂ける機会がありましたので、共有したいと思います。

疑問1:音声のトラフィックが回線交換網からデータ通信網に移ることで、インターネットに影響はないの?

石田「VoLTEは基本的にキャリア網の中で閉じていて、インターネットには流れてこないので、影響は特にありません。050のIP電話とかはありますけれど、音声の帯域は他の帯域に比べると微々たるものなんです。音声がドカッと来て困るかっていうと、そこまで困らない。昔はともかく、今は帯域が広がっています。

ハイレゾ音質のストリーミングサービスは1曲5分50MBのデータをクラウドからストリームするようなものになりますが、それでも、動画の帯域に比べると全然少ない(笑)むしろ帯域のことよりは、回線交換網や0ABJで実現していたことをVoLTEの付加サービスとして実現、保証することの方が難しいです。特番発信(110番、119番など)をいかにきちんと実現できるかとか、そういったことですね」

ーーなるほど、そういうものが落ちると命にかかわりますものね。

疑問2:データ通信網に流れた音声パケットがパケ落ちする可能性はどうやって回避していますか? パケットの識別子を見て優先度を下げるといったことがアメリカでは行われていると聞きますが。

石田「日本でも実際に行っています。パケットを通すパイプの太さがあって、そこになんでもかんでも入れてしまうと、あふれたときには全体が落ちます。だからパイプの中にもう一つ仮想的なパイプを作って、音声はここにしか通しません、というようなことをやって、それ以外の部分があふれた時にも仮想的な音声のパイプは大丈夫なようにする。これが優先制御と言われるやり方で、音声を流す仮想的なパイプの太さは『音声を流すのにはこのくらいの帯域があればいいです』というのを緻密に計算します。

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流れている一つ一つの情報が、仮想的なパイプに流すべきパケットかどうかを判別するためには、パケットに優先ビットという印をつけて、印のあるものはこちらに流すという制御をします。IP電話の中でも0ABJの番号をつけたものはこういう技術が使われていますし、似たようなことをVoLTEでもやっていて、ケータイ端末と基地局の間や、基地局から後ろのバックボーンの間で使われています」

ーー画像や動画だから落とす、とかそういうことではなくて、優先レーンみたいなものを作ってやるってことですね。

石田「むしろ優先させるものに優先マークを付けて、それ以外は同じ扱いをする。パトライトとか、サイレンみたいなものかな」

疑問3:それって世界的に同じ流れなんですか?

石田「パケット通信の中で優先制御をしようとすると、そのやり方しか無いのです。一つのキャリアの中ではそれを実装することによって0ABJの品質管理なんかに使っていますね。あとはIPで地上波再送信をやるときなんかも似たようなことをやっていて、IPTVというところで決めた要求仕様を叶える為に、優先制御の仕組みを入れたりしています」

疑問4:パケットの優先度の制御にDPIというのは使わないんでしょうか。

石田「DPI(Deep Packet Inspection)は意味合いが違っています。パケットの構造って、先頭の方に行先と出元、コレは何です、というパケットの中身の種別みたいなものとかが書いてあって、後ろ部分がデータになっているのですが、網の中では基本的に『行先』と『出元』しか見ていません。先に説明した優先制御の場合は、その後ろくらいに優先マークを付けます。見ているのはそれだけ。

20141016-2.png

『動画データだから後回し』『インタラクティブなデータだからちゃんと届けてあげましょう』みたいなことをしようとすると、本来見なくていい、深いところを見なきゃいけなくなります。でも本来であれば中にいる人はそこまで見てはいけないし、日本でいえば『通信の秘密』に抵触することになります」

ーーだから『ディープ』なんですね。パケットのディープなところをインスペクションする。

石田「そう。それで、深いところを見ようということで目下検討しているんだけど、プライバシーやセキュリティというような、DPIに関わる様々な問題が、今出てきています。こういった形での優先制御はしてもいいのか、是か非かみたいな話で、話題になったのは数年前かな。

パケットではなくコンテンツの制御では、GoogleAdSenseとか、サーバーから利用者に送られているコンテンツを見てアドを作っている。あれもDPI的な仕組みです」

疑問その5:つまりGoogleのような企業はDPIをやってしまっているといえるのでしょうか?

石田「そう、だけど、Googleの例で言えば、『私人と企業の間でサービスを契約する上で認めている』と言えなくも無い。そもそも論で言えば『通信の秘密』というのは、日本の憲法の中で保証されているだけの話であって、全くそんなものが無い国もあれば、特定の条件下では無くしていいという国もある。

本来の『通信の秘密』というのは『人対人の秘匿性の高いコミュニケーションを誰と誰がしているかということも含めて、第三者や国が覗き見してはいけない』ということなんですよね。だからプライバシーとの関連で捉え直されることも多いんだけれど、例えば『サーバーから送られるデータは通信に相当するのか?』といったことは、今、すごくいろいろなところで議論になり始めています。

パケットの制御の話に戻ると、ISP向けのガイドライン 「電気通信事業者における大量通信等への対処と通信の秘密に関するガイドライン」(第3版)が7月に出て、ISP事業者は通信事業者のサーバー宛の『不審な通信』をチェックできるようになりました。また、DDoS攻撃に荷担しているパケットだけでなく、引き金になっているパケットも落としていい、というような内容も加わりました。これらについて新聞が『通信の秘密から一歩踏み出した』と書いたりしていましたね。今までの解釈からすると厳密には通信の秘密に関わるのだけど、それが大きく踏み込んでいると言えるかどうかは、まだ議論が必要な部分だと思います(参考:「インターネットと通信の秘密」第2期研究会報告書)。

今ちょうど、多国籍にまたがったサービスを提供している企業(google、amazon等)が提供している契約と、そのサービスが展開されている各国の法規制とがコンフリクトを起こしはじめています。例えば、『忘れられる権利』って何だ、とヨーロッパで激しく議論されているのも、まさしくこういうコンフリクトの一例」

●いま知りたい「忘れられる権利」の概要と論点整理
https://wirelesswire.jp/privacy_and_personal_data/201410141200.html

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帯域の話から始まって非常にタイムリーな話題にまで飛び火しましたところで、本日はここまで。
っていうかそろそろVoLTE試してみたいですねぇ・・・(えっ

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かのうよしこ

青山学院大学史学科、東京藝術大学声楽科、京都造形芸術大学ランドスケープデザインコースを卒業。京都造形芸術大学大学院芸術環境専攻(日本庭園分野)修士課程修了。通信キャリアにてカスタマサービス対応並びにコンテンツ企画等の業務に従事、音楽業界にてウェブメディア立ち上げやバックヤードシステム開発、コンサート制作会社での勤務を経て、現在はフリーのヴォーカリスト、ヴォイストレーナー、エディター、ライター。
http://kanoppi.jp