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フィンランド首相「ノキアとフィンランドを殺したのはアップル」

2014.11.04

Updated by Hitoshi Sato on November 4, 2014, 17:37 pm JST

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フィンランドは2014年10月、アメリカの格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によって、最上級のAAAから、1段階格下げのAA+と格下げされた。低迷する景気停滞が長引くリスクと高齢化および労働人口の縮小が政府の財政均衡と債務削減への取り組みを損ねることを理由にあげている。

これを受けて、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ(Alexander Stubb)首相は、CNBCのインタビューで「ノキアとフィンランドを殺したのはアップルである」とコメントした。「フィンランドは2つの産業を失った」('We have two champions which went down,')と述べた。2つの産業とはノキアと製紙産業である。ノキアを殺したのが、iPhoneで、製紙産業を殺したのがiPadであると述べた。 ('A little bit paradoxically I guess one could say that the iPhone killed Nokia and the iPad killed the Finnish paper industry, but we'll make a comeback,')

ノキアはかつて世界中で「携帯電話の代名詞」ともいわれるほど、世界中を席巻していたフィンランドの代表的企業である。そのノキアは世界的なスマートフォンの台頭に乗り遅れてしまい、現在ではノキアの携帯電話部門はマイクロソフトに買収されて、新たにノキアのブランドで端末を市場に出すこともなくなってしまった。現在では世界のスマートフォンはAndroid OSを搭載したサムスンとiOSのiPhoneが世界の市場シェアの半分以上を占めている。ノキアも1990年代後半から2000年代前半までは世界の携帯電話で市場シェアの半分くらいを占めている時代があった。現在のノキアはネットワーク関連部門のみである。たしかにiPhoneに代表されるスマートフォンの台頭でノキアは凋落していった。

そしてストゥブ首相によると、フィンランドのもう一つの代表的産業である製紙業も、iPadによって殺された、とのこと。これはどういうことかというと、タブレットや電子書籍の普及で、みんなニュースや本をタブレットで読むようになって新聞紙や本を読まなくなったことによって、製紙産業に影響を与えたということである。フィンランドには欧州で最大のUPM-KymmeneとStora Ensoの2社の製紙会社がある(この2社の生産量合計は世界最大のアメリカInternational Paperの生産量を抜いている)。

フィンランドのストゥブ首相の気持ちも理解できる。国家を支えていた2つの巨大産業が1社のイノベーションによって崩壊されたのだから仕方がない。まさに「盛者必衰の理」である。しかし、いつまでも過去の産業にしがみついているわけにはいかない。このようなイノベーションにキャッチアップして自国の産業を活性化させていくことが求められる。ストゥブ首相も「林業はバイオエネルギー事業などで戻ってくる。ノキアはネットワーク部門で既に台頭している。イノベーションはいつも辛い時代に生まれている」と述べている("Forest is coming back in terms of bio energy and other things. And actually a new Nokia is emerged in terms of (Nokia) Networks. Usually what happens is that when you have dire times you get a lot of innovation and I think from the public sector our job is to create the platform for it.")。

これからのフィンランドでの新たな産業育成とノキアに代わる企業の登場に期待したい。またこのフィンランドでの問題は、現在「盛者」である韓国のサムスンやアメリカのAppleにとっても決して他人事ではない。

▼ノキアの本社(フィンランド)
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【参考動画】Finland's Prime Minister Blames Apple For Credit Downgrade (Newsy World)

【参照情報】
How Apple prompted this country's downgrade
'The iPhone ruined my country's economy': Finnish prime minister blames Apple for destroying Nokia)

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。