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初音ミクが作り出した未来

2014.11.14

Updated by Masakazu Takasu on November 14, 2014, 08:00 am UTC

僕は今シンガポールをメインに活動していて、日本のDIYについて外国人に紹介することが多いです。そのときにもっとも驚かれるのは、初音ミクを中心にした日本のDIYムーブメントの芳醇さです。

外国の人に日本のギークカルチャーの説明をしていて、よく困っていたのは、初音ミクの説明でした。うまく説明できるようになったのは、何回かやり方を変えてからです。

「彼女はバーチャルアイドルでかわいくて」とか「音声合成のソフトウェアが」みたいな説明では、どれだけ言葉を費やしても「他と違って、なんで初音ミクがすごいのか」わかってもらえませんでした。可愛いCGも、音声合成のソフトもいっぱいあって、それと初音ミクの違いを説明するのは難しい。「ソフトそのもの、機能そのものよりも大きな違いがあるんじゃないか?」と思って、以下のように説明のやり方を変えました。

ニコニコ動画で、再生回数が10万曲を超えたボーカロイド曲は、「殿堂入り」と呼ばれます。2014年10月25日現在、ニコニコ動画には1410曲の「Vocaloid殿堂入り」曲があります。それらの「殿堂入り曲」は少数の天才が作ったわけではなく、500人以上のDIY作曲者(ボカロP(=Vocaloid Producerの短縮形)と呼ばれる、多くは趣味でミクが歌う音楽を作る人たち)によって作られています。

この楽曲群は、作曲者だけいても生まれません。初音ミクのタグでニコ動に楽曲がアップされると、「ミクの曲なら何でもチェックする」という「ミク廃」と呼ばれる人たちがいて、その中でクオリティの高い曲を選別して上手に紹介するまとめサイト、ランキングの制作者がいて、ランキングの曲の中で気に入ったモノはリピートして再生する僕らリスナーがいて、結果としてクオリティの高い曲が選別されて「殿堂入り」曲が生まれます。

また、ミクの「殿堂入り」楽曲の多くは、その曲のイメージのPVと衣装、ダンスを伴っています。このPVもDIYによって作られたものです。その曲が好きな絵師さん(多くは趣味で絵を描く人)がデザインした衣装を纏い、その曲が好きなモーション製作者が、MMD(ミクミクダンス)という、初音ミクに踊らせるためにユーザが作成した無料で利用できる3D作成ソフトによって作られた映像を作成し、それらを組み合わせてPVが作成されるのです。ボカロPと絵師さん、モーション制作者はそれぞれ別々の人であることが多く、そこにコラボレーションが生まれています。このコラボレーションは大多数が無償の、お金以外を目的としたものです。

初音ミクは3時間に及ぶコンサートを行い、1万人もの観客を楽しませます。そこで歌われる曲はすべて、ボカロPが作り、ニコ動のユーザたちが磨き上げて「殿堂入り」になったものです。楽曲、衣装、ダンスのすべてが元々ユーザがDIYで作ったもので、その熱がプロを動かし、あのクオリティのコンサートが作られています。

「1万人が熱狂する数時間のコンサートを、すべてユーザが作ったコンテンツだけで行える」のは日本だけです。このコンサートのクオリティは、ボカロPがほとんどいない海外でも多くのファンを生んでいます。

多くのDIY作曲者に、「声」を与えてくれたボーカロイドというテクノロジーはすばらしいものです。人間は圧倒的に「唄」のある音楽が好きです。そして、DIYの楽曲を楽しみ、その拡散に協力し、絵やダンス、小説やその他あらゆる方法でムーブメントを作り上げたユーザー達もすばらしいモノです。そのすべての人は、初音ミクを「俺たちの初音ミク」という権利があると思います。

僕が外国人のMakerに説明する時に毎回見せるミクのビデオは、日本のコンサートのYoutube映像です。

日本の観客が一番盛り上がり、綺麗にサイリウムを振っています。フロアにいる人たちは、自分たちもミクで曲を作っていたり、いい曲を人に伝えていたり、何かの形でボカロムーブメントに参加している人たちです。海外のMakerは、中心にいるミクの存在よりも、それを成り立たせている「おまいら」(「お前ら」のネットスラング。ネット上のコミュニティで価値観を共有していることを確認するためにメンバーが互いを「おまいら」と呼び合うことから派生し、特定のカルチャーを共有しているコミュニティのメンバーを指す用語として使われる)にものすごく感動するようです。

「これは、すごい。初音ミクと、そのenthusiast(熱狂的愛好家)は、ものすごいクリエイティビティだ。どうすれば同じような動きが生まれるのか、想像もつかない。日本はDIYの王国だ」

と、手放しで賞賛されることが多いです。そういうときは僕も「俺たちのミク」と紹介したくなります。

ボカロムーブメントは、クリエイティブ・コモンズやオープンソースといった概念、ApacheやGNU/linuxなどと同じく、DIYの金字塔の一つです。このムーブメントは、オープンソースがソフトウェア業界を変えたように、音楽の業界を変えつつあります。ニコ動のとても外国人から使いづらいインターフェース(日本語ができても、英語インターフェースを使っても、画面づくりの哲学が違うので使いづらい)の問題がありますが、すごく長い目で見ればこういうものが世界の音楽シーンを変えていくんじゃないかと思います。

SF作家の野尻抱介先生は、「ボカロ・ムーブメントで素晴らしいと思ったのは、初音ミクという架空の存在を中心にして人々がドーナツ状に集まり、互恵的な力を発揮したことだ。中心にいるのが人間だったら、こうはならなかっただろう。」と書いています(ニコニコ技術部 深圳観察会レポート(4)「ネットにつながります、スマホで操作できます」より)。野尻先生の最新作「南極点のピアピア動画」では、ニコ動と初音ミクが世界を変える未来が、まるで見てきたように活写されています。日本以外の国から見たとき、僕らは未来の中に生きているのです。

この連載では、僕が見ていて「未来がここにあるなあ」と思ったところを紹介していきます。

最後に宣伝:
今回はボカロを紹介しましたが、日本のネットレーベル(こちらは、声がある音楽と言うより、ダンスミュージック)もすばらしいモノです。クラブシーンと、電子工作を中心にしたMakeカルチャーを繋げるイベント「秋葉原メイカーズ倶楽部」というイベントを11/24 18:00- 秋葉原MOGRAにて開催します。こちらもお楽しみに。

※修正履歴(11/17 17:50)
MMD(ミクミクダンス)について、当初「初音ミクに踊らせるためにユーザが作成されたオープンソースの3D作成ソフト」としていましたが、ソースは一部を除いて公開されていません。よって、該当部分を「初音ミクに踊らせるためにユーザが作成した無料で利用できる3D作成ソフト」と訂正いたしました。(本文は修正済み)

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264