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ミャンマーの携帯電話事情(1) - KDDIと住友の参画や軍によるサービスも

2014.12.22

Updated by Kazuteru Tamura on December 22, 2014, 17:00 pm JST

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軍事政権とそれによる鎖国体制が長く続いたミャンマー連邦共和国(以下、ミャンマー:旧称、ビルマ)は民主化に方針転換し、鎖国体制に別れを告げて解放と経済発展への道を歩みだした。

長期に渡った軍事政権時代は国際社会から経済制裁を受けた影響もあり、周辺国と比べても著しく経済面で遅れを取ることになった。民主化によって国際社会による経済制裁の解除、外資の受け入れなどにより、国際社会への復帰を果たしたミャンマーは未開拓の市場として世界から注目されており、それ故に東南アジア最後のフロンティアとも呼ばれる。

ミャンマーでは様々な業界で外資の参入が相次いでおり、移動体通信業界も例外ではない。今回はそんなミャンマーの携帯電話事情をミャンマー最大都市のヤンゴン(旧称、ラングーン)で視察してきたのでお伝えする。

外資の受け入れで新たに2社が参入

鎖国状態のミャンマーでは国営企業のMyanma Posts and Telecommunications(以下、MPT)のみが移動体通信サービスを提供していたが、ミャンマーは外資の受け入れを容認したことで外資の参入が可能となり、2枠の免許を狙って12の企業および企業連合が競争を繰り広げた。

参戦した企業および企業連合は下記の通り。
Axiata(マレーシア)
Bharti Airtel(インド)
Digicel(ジャマイカ)
Millicom International Cellular(ルクセンブルク)
MTN(南アフリカ)
Ooredoo(カタール)
Singapore Telecommunications(シンガポール)
Telenor(ノルウェー)
Viettel(ベトナム)
France Telecom(フランス)・丸紅(日本)
KDDI(日本)・住友商事(日本)
Vodafone(英国)・中国移動通信(中国)

2枠の免許はOoredooとTelenorが獲得し、補欠にはFrance Telecomと丸紅の企業連合が選ばれた。KDDIや住友商事の企業連合も競争には加わったが、補欠にも入れずに落選していた。ところが、MPTは共同で事業を手掛ける提携先を探すことになり、KDDIと住友商事はMPTとミャンマーにおける共同事業に係る契約を締結するに至った。

こうして免許を獲得したOoredooとTelenorだけではなく、MPTと共同事業を行う形でKDDIと住友商事がミャンマーへの参入を果たした。なお、ミャンマーの半官半民企業であるYatanarpon Teleportも移動体通信事業に関する免許を保有しており、将来的に移動体通信サービスを提供する計画である。Yatanarpon Teleportは外資の提携先を模索しており、免許の獲得に失敗したViettelと共同で事業を手掛ける可能性が浮上している。

OoredooとTelenorはヤンゴン市内にそれぞれOoredoo MyanmarとTelenor Myanmarとしてミャンマー法人を設立しており、Ooredoo Myanmarは2014年8月より、Telenor Myanmarは2014年9月より移動体通信サービスを開始した。

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4社のうち3社がW-CDMA方式のサービスを提供

MPT、Yatanarpon Teleport、外資のOoredoo MyanmarとTelenor Myanmarの4社が保有する周波数をまとめておくと、MPTが450MHz帯の3.75MHz幅*2、800MHz帯の10MHz幅*2、900MHz帯の15MHz幅*2、2.1GHz帯の15MHz幅*2を保有し、その他の3社はいずれも900MHz帯の5MHz幅*2と2.1GHz帯の10MHz幅*2を保有する。

2014年11月末時点では、MPTがW-CDMA/CDMA2000/GSM方式、Ooredoo MyanmarがW-CDMA方式のみ、Telenor MyanmarがW-CDMA/GSM方式で移動体通信サービスを提供している。

Yatanarpon Teleportは移動体通信サービスを開始しておらず、開始する時期についても不明である。Yatanarpon Teleportは本社付近でもネットワークの運用は確認できず、移動体通信サービスの開始は暫く先となりそうである。

▼移動体通信サービスを提供する予定のYatanarpon Teleportの本社。
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KDDIや住友商事と共同事業のMPTはブランドを刷新

MPTはMyanma Posts and Telecommunicationsの略で、ミャンマーにおける通信事業や郵政事業をコントロールする。正式名称であるMyanma Posts and TelecommunicationsのMyanmaはミャンマーの公用語であるビルマ語でミャンマーを表記した際の英字転記であり、MyanmarではなくMyanmaで正しい。

KDDIと住友商事はシンガポールにKDDI SUMMIT GLOBAL SINGAPORE(以下、KSGS)を設置し、KSGSの子会社としてミャンマーにKDDI Summit Global Myanmar(以下、KSGM)を設立している。ミャンマーではKSGMを通じてMPTと共同で事業を行う。MPTは国営企業で合弁企業を設立することはできないため、共同事業として展開することになる。

KDDIや住友商事に限らず、ミャンマーにはシンガポールの子会社を通じて進出する企業が多い。シンガポールの子会社を通じてミャンマーにおける事業を展開することは一つの形式ともなっているが、東南アジア諸国連合(ASEAN)包括的投資協定で定められた免税の適用などメリットがある。

MPTはKDDIや住友商事との共同事業を開始してから、ブランドの刷新、直営店の設置、ネットワークのキャパシティ増強など早くも動きを見せている。2014年9月12日にはMPTのブランドを刷新し、新ロゴを発表した。新ロゴはミャンマーの国の形や、コミュニケーションなどをイメージしており、これまでの野暮ったいロゴから一気に近代的なロゴに変化を遂げた。

MPTが販売するSIMカードおよびパッケージは新ロゴに切り替えられている。なお、パッケージは新ロゴでSIMカードは旧ロゴとなる組み合わせも短い期間ではあるものの流通していた。ロゴを刷新した直後はトップアップを購入するユーザを対象として、トップアップ額に応じて40〜60%増しのボーナスが付与されるプロモーションも実施された。

MPTは郵政事業も手掛けていることから、MPTが運営する初の直営店はヤンゴン中央郵便局内にYangon GPO MPT Boothとして2014年11月14日に開設された(関連情報:ミャンマー・ヤンゴン中央郵便局内に、MPTが直営店舗第1号店をオープン(TIME&SPACE ONLINE))。Yangon GPO MPT BoothではSIMカードの販売のほかに、トップアップの販売も行う。開通作業などはMPTのスタッフが確実に行ってくれるため、ユーザとしては安心できる。

また、MPTは2014年11月より首都のネピドーやヤンゴンにおいてネットワークのキャパシティの増強を開始していることを発表している。KDDIや住友商事との共同事業を開始してからブランディング、サポート、技術の各方面で動きを見せており、早くもKDDIや住友商事との共同事業を開始した効果が出ている。

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▼ヤンゴン市内にはMPTの巨大なビルボードが設置されている。もちろん、新ロゴである。
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▼公衆電話ボックスにはMPTの旧ロゴも見られる。
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▼Japan Myanmar Pwe Tawに出展したMPT。ブースにはKDDIと住友商事の社名も掲げられていた。
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▼MPTの直営店が入るヤンゴン中央郵便局。
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▼KSGMが入居するLa Pyayt Wun Plaza。KDDIが開設したビジネスセンターも入居する。
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GSMを提供しないOoredoo Myanmarの不安

MPTやTelenor Myanmarは他方式に加えてGSM方式でも展開するが、Ooredoo Myanmarは3GのW-CDMA方式のみで提供する。そのことにより、競争力に不安を指摘する声もある。

一般的にW-CDMA方式に対応した端末はGSM方式のみに対応した端末よりも高価であるため、低価格帯の端末が中心となる市場ではW-CDMA方式を導入せずに、GSM方式やそれのパケット通信拡張規格を導入する移動体通信事業者も存在する。ミャンマーでの端末の事情を見ると、ヤンゴン市内で流通する端末は中古のスマートフォンが主流となっており、低価格でありながらW-CDMA方式に対応した低価格な端末が多いが、一部W-CDMA方式に非対応の端末も見られ、当然ながらそれらの端末ではOoredoo Myanmarという選択肢はない。特にヤンゴンより経済面で劣るルーラルエリアなど地方都市ではヤンゴンよりもW-CDMA方式に非対応の端末の割合が高い可能性も考えられる。

国際電気通信連合(ITU)の調査によると、2012年末時点におけるミャンマーの携帯電話普及率は約10%であるが、少なくともヤンゴンの街を歩く限りでは携帯電話普及率がそれほど低いように思えなかった。逆に、地方都市では携帯電話普及率が非常に低いと考えられ、そのような地域こそ伸び代は大きい。

MPTの関係者によると、以前よりミャンマーで展開するMPTでさえもルーラルエリアはGSM方式でエリアを拡大する計画という。今後、GSM方式を導入しなかったために、ルーラルエリアで不満が出てくる可能性も否定できない。

なお、Ooredoo Myanmarは移動体通信サービスの開始後にネットワークの障害を起こしており、顧客に対してネットワーク面で悪い印象を与えている。また、親会社のOoredooはイスラム教を国教とするカタールに本社を置いていることから、仏教徒が多いミャンマーでは一部の過激な仏教徒がイスラム教国家の企業がミャンマーで事業を展開することに抗議していた。

ネガティブな情報が先行したOoredoo Myanmarであるが、街のあらゆるところに広告を出してマーケティングを展開している。街中で目にする広告の量は移動体通信事業者3社の中では最も多い。直営店の設置や移動販売車などでSIMカードおよびトップアップの販売にも積極的である。また、スマートフォンやフィーチャーフォンなど複数の端末を正規に取り扱っている。

▼ヤンゴン市内にあるOoredoo Myanmarの直営店。
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▼Ooredoo Myanmarの移動販売車。
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▼Ooredooのロゴをペイントしたタクシーも走っている。
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Telenor Myanmarはヤンゴンに旗艦店を設置

Telenor Myanmarは最初にミャンマー第2の都市であるマンダレーで移動体通信サービスを開始し、その後にネピドー、ヤンゴンの順に移動体通信サービスの提供を開始した。通信方式はW-CDMA方式だけではなく、GSM方式も採用している。

Telenor Myanmarはヤンゴンにおけるサービス開始を遅らせた理由を「品質を確保するため」としている。サービス開始時点の品質は顧客に与える印象を大きく左右するため、高品質なネットワークをアピールして利用者を集めるとともに、事前にネットワークの障害を起こしたOoredoo Myanmarを牽制する狙いがあったと考えられる。

ヤンゴン市内には旗艦店を設置しており、SIMカードやトップアップ、端末の販売を手掛けている。カスタマサポートも旗艦店で受けられる。端末はTelenorブランドの低価格なスマートフォンやフィーチャーフォンを販売している。選択肢は少ないものの、旗艦店ではそれらの実機を試せるため、実機を触って操作感をじっくりと試してから購入するということもできる。

▼ヤンゴン市内にあるTelenor Myanmarの旗艦店。夜は企業カラーの青色に光る。
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▼ヤンゴン市内にはTelenor Myanmarが支援したと思われるカフェもある。
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軍が運営するMECTelもサービスを提供中

移動体通信用の周波数を保有している企業はMPT、Yatanarpon Teleport、Ooredoo Myanmar、Telenor Myanmarの4社であるが、Myanmar Economic Corporation(以下、MEC)もMECTelとして移動体通信サービスを提供している。

MECは防衛省を通じて軍が運営している事業だ。ミャンマーは軍事政権時代が長かった影響で様々な分野において軍が事業を展開しており、MECもその一つである。一時はMPTとの提携が噂されることもあったが、MECはブランドをMECTelとして独自でサービスを提供することになった。当然ながらサポート窓口はMPTと異なり、SIMカードも独自デザインを採用している。通信方式はCDMA2000方式で提供する。MECは移動体通信用の周波数を保有していないため、MPTが保有する周波数を使用するが、通信設備はMECが独自で設置しているという。

MECは他国ではあまり見られないような形式でサービスを提供している。民主化に向かうミャンマーでは軍事政権時代の名残も少なくないが、移動体通信業界においても軍事政権時代の名残を感じられる。

▼MECTelのSIMカードのパッケージ。MECTelの独自デザインである。
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MPTのLTEが運用中であるが...

ヤンゴン市内ではヤンゴン国際空港など一部地域においてMPTがLTEネットワークを運用していることが確認できた。1.8GHz帯(Band 3)の20MHz幅*2を使用していることも分かったが、残念ながらこれは商用サービスに向けたものではないという。

LTEネットワークの用途は、ミャンマーで開催された第25回ASEAN首脳会議の政府関係者や報道関係者に高速なインターネット接続環境を提供するためである。バックホール回線にLTEネットワークを利用した無線LANルータを通じて、高速なインターネット接続環境を提供していたという。

過去にはミャンマーで開催された東南アジア競技大会においても、競技出席者や報道関係者に対してLTE対応の無線LANルータを通じてインターネット接続環境が用意されており、国際的なイベントで各国から来訪者が集結する際にLTEネットワークを活用していることが分かる。なお、LTE対応の基地局はネピドー、ヤンゴン、マンダレー、ングウェ・サウン・ビーチに設置されており、日本の住友商事、NEC、NTTコミュニケーションズも設置に貢献している。

LTEネットワークは1.8GHz帯であることを確認したが、1.8GHz帯は移動体通信用への割り当て予定ではあるものの、現時点で各移動体通信事業者に割り当て済みの周波数ではない。ミャンマーの移動体通信事業者ではMPTが唯一の国営企業であるためにMPTのネットワークとして運用しているだけであり、現時点では商用サービスに向けたものではない。

▼ヤンゴン国際空港で検出したMPTのLTEネットワーク。MM 900 4Gがそれである。
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▼Ooredoo MyanmarはASEAN首脳会議の開催を知らせる広告も出していた。
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激動の時代を迎えたミャンマーの移動体通信

ミャンマーは体制の変更により移動体通信業界も動き始めたが、これはまだまだ序章にすぎない。MPTは日本企業と共同で事業を手掛けることにより、今までのMPTとは異なる戦略で攻めてくるに違いない。また、新規参入のOoredoo MyanmarやTelenor Myanmarも顧客からのフィードバックを反映し、よりミャンマーに適したマーケティングを展開することになるだろう。Ooredoo MyanmarのGSM方式を導入しない判断が吉と出るか凶と出るか、軍事政権の名残とも言えるMECTelの動向、Yatanarpon Teleportの移動体通信事業への参入など、今後も目が離せない要素が盛り沢山である。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。