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義務教育におけるプログラミング教育の課題と可能性

2015.01.27

Updated by Ryo Shimizu on January 27, 2015, 08:24 am UTC

 昨年から義務教育段階でプログラミングを教えるかどうか、というのが話題になっています。

 筆者の感覚としては、プログラミングを教えるとしたら義務教育段階しかないかな、と思っています。
 というのも、高校生は受験があるので、受験に関係ない科目はできるだけやらない方向になりがちです。

 中学一年生、二年生くらいまでなら教養の一種として美術や技術家庭科をやるのと同じようにプログラミングを学ぶ機会を与えることができるのではないかと思います。

 反面、小学校の場合、前提とされる数学的知識が少なすぎてプログラミングの基礎的なことは学べても、本質的にプログラミングを道具として使いこなす段階まで進むのは難しいかもしれません。

 しかし同時に大きな課題があります。
 それは、教員の不足です。

 情報の教員免許ができてからまだ時期が浅く、仮に義務教育でプログラミングを教えようとしても教員の数が足りなくて実現が困難であるという前提があります。

 また、残念ながらプログラミングスキルというのは有用すぎるので、そのスキルを持った人が地方公務員として中学校の教員という職業を選択するかどうかというのも疑問です。医師免許を持っているのに中学校の先生になることを選択するのは「勿体無い」と言われるでしょう。プログラミングスキルも医師免許と同等とは言わないまでも、就職先にまず困ることがないので、今、普通に大学で情報工学を学んだ人に中学のプログラミングの先生になるという道を選択させるのはなかなか難しいのではないかと思います。実際、私も大学時代、教職はありましたが、教職についた同級生は一人もいません。

 一方で、プログラミングの学習そのものはどんどん簡単になっています。
 つまり、本職のプログラマー、情報工学科の卒業生ではなく、教育学部や文学部の学生が教職課程として情報系の教職を履修し、免許を取得するという可能性もあります。

 もうひとつの可能性は、プログラマーでない人でも教えられる程度にまで、プログラミング自体を簡単にすることです。

 今年、品川女子学院の中等部で、一年生の三学期の家庭科の授業中にプログラミングを教える、という試みが始まりました。

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 今回、画期的なのは実際にプログラミングを教える教員が本職のプログラマーではないということです。

 これまで、MITで開発されたビジュアルプログラミング言語でありScratchを使った授業や、子供向けのイベントなどがあちこちでたくさん行われてきました。筆者らの開発チームも過去にロサンゼルスや小学館のワールドホビーフェアなどでゲーム開発イベントを行ってきました。

 しかしこれらの活動は、基本的にプログラミングに精通した専門家が、子どもたちにむけて教育を行うもので、それ自体をビジネスとするというよりも、本業とは別のCSR活動に近い感覚で行われるものでした。

 この状態が続くと、いつまでたっても義務教育でプログラミングを教えるのは夢物語のままです。

 プログラミングを教えるには、教える側の人間に高度な専門知識が必要という前提は、無意識的なものですが、実際には義務教育に導入する際には絶望的な障害となります。

 そこで、逆転の発想としてもともとプログラミングの専門知識を持たない人が、子どもたちにプログラミングの概念だけでも教えることができるとしたら、希望が開けてきます。

 実際、今回の授業は全5回に渡って、プログラミングの概念、座標の概念、スプライトの概念を説き、簡単なゲームやチャットプログラムの作り方を教え、最後に作品発表まで行わせるという意欲的な構成になっています。

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 今回、筆者らが開発したMOONBlockというビジュアルプログラミング言語を使うわけですが、筆者らが提供したのはこのツールと、簡単なサンプルプログラムだけです。

 
 事前の打ち合わせは一回だけ行ったのですが、あとは学校側の教員の方々がとても丁寧で綺麗な教科書を作って下さりました。

 さらに、「子どもたちはこういうことができると喜びます」というノウハウをフィードバックし、我々の方でもMOONBlockをそうしたニーズにあわせて改善を加えたり、実際に授業中に子どもたちが躓くポイントを発見して言語仕様にフィードバックしたりということを行いましたが、実際の授業は完全に学校側だけで行われています。

 
 このプロセスを通じてプログラミング教育というものがもっと簡単になれば、プログラミングのハードルはグッと下がります。そしてなにより、プログラミングに精通した専門家でなくてもプログラミングを教えることができるという可能性が開けてきます。

 一方、同じ日に、新木場では全国の公立中学校の技術家庭科の教員が集まる大きなイベントが開催されていました。

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 筆者らもこのイベントにあわせてMOONBlockを出展したのですが、ここに集まった様々な先生方から寄せられた意見というのは、たとえば「光センサーを使うことはできないのか?」とか、「マイクを使うことはできないのか」といったものでした。

 面白いなと思ったのは、あくまでも技術家庭科的な視点でものごとを見ている、ということです。

 実際に技術家庭科で教える内容は、木工や調理などですが、そういうなかに自然にプログラミングを入れていくためには、何らかの物理的な接点が必要というわけです。それが光センサーやマイク(音センサー)なのでしょう。

 資金に余裕のある学校は、LEGO MINDSTORMS(これもScratchと同様にMITで開発されました)を導入するわけですが、全部の学校がそれをできるというわけではありません。

 MOONBlockはiPadやiPhoneなどでも動作させることができますが、光センサーや音センサー(マイク)にアクセスするにはブラウザ上で動かすだけではなかなか難しいというのが実情です。

 なんらかのアプリを開発すれば、これも実現できるようになるかもしれません。

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 その日の夜、全世界で1万人以上の人々がチームに別れ、48時間かけて一本のゲームを作り上げる「グローバルゲームジャム(GGJ)」が開催されていました。

 東京だけでもたくさんの会場があるのですが、筆者はお台場のゼンリンさんの会場でMicrosoftが主催するニコニコ生放送の中継番組に出演することになりました。

 グローバルゲームジャムが世界的に開催されるようになってから、年々参加者は増加しています。

 お台場会場にも、30名余りの参加者が集まっていました。

 ところが、この中で、リピーター、つまり二回以上参加している人はわずか1/3に過ぎません。
 三回以上参加している人は、三人しかいませんでした。

 筆者も二年前に参加した経験があるのですが、恐ろしく精神と身体に負担がかかるので、一度参加すればもう充分、と思ってしまうのです。

 さらに、そこで生まれた作品が素晴らしいものならばいいのですが、その場で作ってその後は二度と遊ばない、というようなゲームができることが多い気がします。それならまだいいほうで、大半はゲームとして成立しないものになります。

 ただでさえ仕事で疲れてる職業プログラマーがこうしたイベントに積極的に参加するのはなかなか難しいな、と感じました。

 ただ、ゲーム開発が本職でないプログラマーや、学生にとっては貴重な機会なのではないかとも思います。けれども、やはり精神、肉体ともに大きな負担になるという問題は変わっておらず、この形式のイベントはなかなか難しいと感じました。

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 ニコ生の放送の中では、「ゲームジャムを楽しむ16の方法」と題して、おもいつくままにゲームジャムを楽しむための切り口というかテクニックを紹介しましたが、やはりいちばん重要なのは、時間が短くとも印象に残る作品を作ることだと私は思います。

 というのも、人生の貴重な48時間、前後入れれば丸3日間を費やして、しかもチームの人間を巻き込んでこういうイベントに参加するわけですから、そこで得られたものが「疲れた」という気持ちだけでは続けられないと思うんです。

 「ゲーム開発はもう懲り懲り」と思ってしまうのも勿体無い。

 やっぱり、「来てよかった」と思えるようなものでなければならないし「また来たい」というものでないとなりません。

 ゲームジャムに参加するのは、プログラマーだけでなく、ミュージシャンやグラフィッカー、企画といった様々な職能の人が集まります。

 逆に言えば、ゲーム開発に少しでも興味があれば飛び込んでみる絶好の機会でもあります。
 スキルがなくても参加することは可能です。

 また、フル参加が難しくても、見学だけしに行くこともできます。

 日本は、2011年に筆者らが国際ゲーム開発者協会(IGDA)日本と立ち上げた福島ゲームジャム(FGJ)というイベントが夏にもあります。

 もとは震災で遊び場をなくした被災地の子どもたちを元気づけるという目的でスタートしたイベントでしたが、年々盛り上がりを見せています。

 もしゲームジャムに興味があったら、IGDA日本のWebサイトをチェックしておくと最新の情報が手にはいります。

 これらのゲームジャムの会場を提供する会社も年々増えていますが、面白いのは、ゲーム会社ではない会社が多いということです。

 お台場会場のZENRINさんも、地図を作ってる会社ですし、新宿会場もゲーム開発が本業ではない会社がホストをされていました。

 ゲーム開発経験がない会社でも会場を提供するという形で参加できるのがゲームジャムの面白いところです。
 極端な話、個人宅でもいいのです。

 いま、世の中ではプログラマーでない人たちがプログラミングを教えたり、プログラミングする機会を作ったりという事例がどんどん増えています。

 義務教育段階での教員不足は、もしかするとこうした切り口からも解決することができるかもしれません。
 プログラミング自体がメールやPowerPoint程度まで簡単になれば、だれでも教えることができるようになるからです。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。