新年 花火

バズワードとその内実──2015年の振り返りと2016年の展望(前編)

2016.01.04

Updated by yomoyomo on 1月 4, 2016, 15:59 pm JST

1年前に「テック界隈の諸行無常──2014年の振り返りと2015年の予測」という文章を書いたのですが、そこで取り上げた著名投資家フレッド・ウィルソンが、この年末年始も2015年の振り返りと2016年の予測を行っていますので、新年を占う意味で今年も一発目はそれを取り上げたいと思います。

その前にウィルソンが1年前に行った2015年予測は以下のようなものでした。

  1. ゼロ年代後半に起業した大企業が上場する(Uber、Airbnb、Dropbox など)。
  2. Xiaomi のアメリカ進出。これは非 Google の Android 分野の強力プレイヤーの登場になるし、欧米における「第三のモバイルOS」につながる。
  3. アメリカ市場へのアジアからの侵攻がメッセージング分野で起こり、LINE と WeChat がアメリカ市場でシェアを獲得する。
  4. Oculus Rift にとっての2014年は Facebook に買収されるという大きな年だったが、バーチャルリアリティ分野には少し逆風が吹く。Oculus は一般消費者向けの製品を出荷するのに苦労するだろうし、競合他社も迫力に欠ける。
  5. もう一つハイプ先行の分野がウェアラブルだ。Apple Watch は iPod や iPhone や iPad のようなホームラン級の製品にはならない。ウェアラブル分野には多大な時間、エネルギー、金が投資されるが、それに見合う成果は2015年には得られない。
  6. 2015年の資本市場は玉石混交で、1.で書いたようにテック分野のビッグプレイヤーは容易に資本を集めるが、原油価格の上昇と下降はグローバル資本市場にとって多大なストレスとなる。かつて安全とされたのは金だが、今では Google や Apple などのテック系優良株がそれにあたる。
  7. 共和党も民主党も次の大統領選挙に向けシリコンバレーにおける位置取りを始めるが、テック系の問題は大きな位置を占める(移民政策やネット中立性問題など)。
  8. Bitcoin にとって2014年は恐ろしい年だったが、これがあらゆる利害関係者にとっての警鐘となる。開発者は Bitcoin のブロックチェーン上でスタックを作成する Bitcoin の次に来るものを作るのにエネルギーを向けるだろう。
  9. エンタープライズ/SaaS 分野には、エンタープライズにおける仕事やワークフローを再定義する、クラウドやモバイルに長けた新興企業がたくさん登場して光が差し込む。
  10. あらゆる企業、公共機関、政府が昨年のソニーピクチャーズみたいな目にあいたくないと、サイバーセキュリティへの予算が爆発する。昨年はレンタル経済にそうだったように、今年はセキュリティ分野に投資家のお金が流れるが、それでもハッキング被害は続くだろう。
  11. ヘルスケア分野にスマホなどが参入するものの、現実の患者からの重圧を感じ始める。

これについてウィルソンは「2015年に起きなかったこと」というブログエントリを書いており、自分の予測が外れた点について書いています。

具体的には、まず予測1ですが、ウィルソンが名前を挙げていた3社とも上場はしませんでした。これには投資家のウィルソンとしては大いに不満なようですが、ただゼロ年代後半に起業したスタートアップという区切りでは、SquareBoxEtsy といったところが上場を果たしています。

昨年は、企業評価額が10億ドル超の非上場のベンチャー企業を指す「ユニコーン」という言葉がもてはやされましたが、上で名前が挙がった企業の上場時に口汚い罵声が浴びせられる光景を目にすると、昨年日本で「上場ゴール」という言葉が何度か聞かれたのを連想してしまいました。Square の IPO が「上場ゴール」だと言いたいのではありませんが、なかなか上場の目処がつけられない Uber などが、日本における LINE に重なってくる……と書くと怒られそうなので、この話はここまでとします。

続いて予測2における、Xiaomi の米国進出も実現しませんでした。しかし、企業としての Xiaomi は着実に成長を続けており注目度も上がっています。それは米国同様、主力製品であるスマートフォンの発売が行われていない日本において、この会社に関する以下の3冊の翻訳本が刊行されたことからも明らかです(余談ですが、下2冊は原著者、翻訳者とも同じなんですが、まさか同じ本なんてことはないですよね?)。

クレイ・シャーキーの新刊『Little Rice: Smartphones, Xiaomi, and the Chinese Dream』も Xiaomi についての本で、実は今ぼちぼち読んでいるのですが、Xiaomi について知りたければ、素直に翻訳本を読んでおけばよかったと後悔しています(笑)。ただ一方で、ウィルソンが Xiaomi が欧米における「第三のモバイルOS」になることを期待した理由は分かったように思います。

予測3において、ウィルソンは LINE や WeChat というアジア発のメッセージングアプリがアメリカでもシェアを獲得すると踏んでいましたが、これもどうやら実現しませんでした。メッセージング分野では、Facebook Messenger が(別アプリ化時点での、余計なことしやがってというブーイングからすると)予想以上に成功したのが影響したのかもしれません。

そして予測7における、(移民政策やネット中立性問題など)テック系の問題が大統領選挙における大きな位置を占める争点となるというウィルソンの見立てもどうやら外れてしまったようです。むしろ未だ共和党の大統領候補の中でトップを走るドナルド・トランプの反移民発言が大きな話題となり、民主党の大統領候補になるであろうヒラリー・クリントンのギグエコノミーへの懸念表明など、ウィルソンから見ると逆コースと言える現状かもしれません。話は少し違いますが、政治システムの腐敗を変え、市民がより平等に政治に関われるようにする「市民平等法」の成立を目指し、クリエイティブ・コモンズの創始者でもあるローレンス・レッシグがクラウドファンディングで資金を集めて民主党の大統領候補に名乗り出たものの、結局一般レベルの注目を集めることができず、選挙戦から離脱したこともありました。

一方で予測4、5、6、9、10あたりは予測が当たったとウィルソンは見ており、当方もそれに異議はありません。付け加えるなら、バーチャルリアリティ分野における本命 Oculus Rift は今年の第一四半期に出荷される予定で、遂に Oculus Rift は今年「ベータ版」を脱する勝負の年を迎えるわけです。

残りの予測については、ウィルソンはちょっとはっきりしないと書いていますが、予測8におけるブロックチェーン技術に注目が集まり、Bitcoin の次に来るものにエネルギーが向けられるというのは当たりとしてもいいのではないかと思いました。このトレンドについては、ワタシも「Bitcoin Is Dead. Long Live the Blockchain!」という文章を書きましたし、Zaifmijin といった Bitcoin 関連サービスを手がけるテックビューロ株式会社の CEO である朝山貴生氏が、「世界の金融機関がフィンテックの本命としてブロックチェーン技術にこぞって投資する理由とは?」(その1その2その3)というシリーズに的確にまとめているので、ご一読をお勧めします。

そういえば2015年は、フィンテック(FinTech)という言葉もバズワード化した印象があります。「プライベート・ブロックチェーン」というコンセプトには Arvind Narayanan と同様に疑問を感じますが、この言葉を支える柱の一つがブロックチェーン技術なのは間違いなさそうです。ただこの点についてウィルソンが、「投資家は Bitcoin と関係ないブロックチェーンを手中にできると考えているように見えるけど、そんなの私に言わせればナンセンスだから」と断じているのも付記しておきます。だからこそ、彼は自身の1年前の予測を「当たり」としなかったわけですが、タイミングよく TechCrunch に「ビットコインがブロックチェーンより重要な理由」なんて文章が公開されていたりします。

全部で11個の予測のうち、はっきり当たったのは半分程度で、なんだ大したことないなと思われるかもしれませんが、それこそフレッド・ウィルソンのような「次に何が来るか」に賭けることが仕事の投資家であってもそれくらいということに予測の不確定性と難しさを痛感します。ウィルソン自身、半分程度の当たりだって大したものなんだぜ、と書いていますが、それは強がりでなく本当のところでしょう。

さて、それではフレッド・ウィルソンの2015年回顧と2016年予測に行きたいところですが、すでに十分長くなったので、この文章は一旦ここまでとします。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

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