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ミャンマーの携帯電話事情(4) - ミャンマー地場ブランドのスマートフォンも登場

2015.01.23

Updated by Kazuteru Tamura on January 23, 2015, 11:00 am JST

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市場が開放されたミャンマー連邦共和国(以下、ミャンマー:旧称、ビルマ)には数多くのスマートフォンメーカーやスマートフォンブランドが進出し、多様なスマートフォンに溢れる市場を形成しているが、そんなミャンマーでは地場ブランドのスマートフォンが登場した。首都のヤンゴン市内では複数の地場ブランドが独自の展開を繰り広げている。そこで、今回は日本では殆ど知られていないであろうミャンマーの地場ブランドのスマートフォンにスポットを当てる。

ミャンマーブランドのJASが登場

東南アジア各国にはスマートフォンの地場ブランドも多いが、ミャンマーにも地場ブランドが登場した。その一つがJASである。ハードウェアは中国で製造されているが、ミャンマーの人々にとって使いやすさや分かりやすさを向上するためにソフトウェア面でローカライズが施されている。

デフォルトのホームアプリにはJAS Launcherを採用しており、初心者にも優しいシンプルな構成のユーザインターフェースとなっている。SIMカードの入手が容易になりスマートフォンの需要が一気に高まったミャンマーにおいて、使い勝手を重視したスマートフォンを投入することでスマートフォンの使いこなしに不安を感じる消費者を取り込もうとする狙いがある。また、システム言語はミャンマーの公用語であるビルマ語にも完全に対応している。システム言語だけではなくビルマ語の文字入力システムもプリインストールされており、購入後にユーザ自身でサードパティのアプリを探す必要はない。

その他、ミャンマーの人々にとって便利なアプリがプリインストールされている。例えば、ミャンマーのカレンダーやミャンマーの移動体通信事業者のSIMカードを管理できるツールなどがプリインストールされており、これらの便利機能もスマートフォンに慣れない消費者に安心感を与えられるとしている。

また、ナビゲーションキーがビルマ語となっていることも大きな特徴である。ナビゲーションキーが記号では分かりにくい可能性を考慮したという。ナビゲーションキーにはショートカットキーも用意されており、頻繁に使う機能をすぐに起動できるようにするなど、利便性を追求している。もっとも、ビルマ語のナビゲーションキーは評判が良くなかったせいか、後にナビゲーションキーを記号に変更したスマートフォンも投入している。

JASは決してシニア向けではないが、日本では使い勝手を重視したスマートフォンとしてシニア向けのスマートフォンが存在しており、それと近いイメージで捉えて差し支えないだろう。ミャンマーではスマートフォンが一般層に出回り始めたばかりであるため、年齢層に関わらずこれから初めてのスマートフォンを購入する消費者も多い。だからこそ、JASはこのようなスマートフォンを投入しているのである。

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ミャンマーではMyanma Posts and Telecommunications(以下、MPT)とMyanmar Economic Corporation(以下、MEC)がCDMA2000方式に対応したSIMカード(R-UIM)を販売しており、CDMA2000方式の利用者は少なくない。W-CDMA/GSM方式に対応したスマートフォンと比べてCDMA2000方式に対応したスマートフォンの流通量は多くはないが、JASはCDMA2000方式に対応したスマートフォンも投入してラインナップを充実させている。

他にもミャンマーをイメージした壁紙をプリインストールするなど、JASはミャンマー向けに特化したスマートフォンとして工夫を凝らしているが、残念ながらJASのスマートフォンを見かける機会は多くはない。JASのスマートフォンを専門の取り扱う販売店以外では数店舗で見かけた程度で、JASのスマートフォンを専門に取り扱う販売店においても売れ行きは決して良くないという。JASが想定したほど使い勝手を重視したスマートフォンを求める消費者が多くなく、また中古のより安価なスマートフォンを選ぶ消費者が多いため、現状はあまり販売台数を伸ばせていないのだろう。それでも定期的に複数の新製品を投入しており、ミャンマーでの成功を目指して模索している。

▼筆者が購入したJAS 6 Speed。CDMA2000方式にも対応しており、MECが販売するMECTelのSIMカードを利用できた。ミャンマーをイメージした壁紙が入っている。
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▼JAS 6 Speedの背面。素材はプラスチックを採用しており、安っぽさは否めない。
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▼ラベルにMADE IN CHINAと記載されていることからも分かるように、ハードウェアの製造は中国である。
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▼分かりやすさを重視したJAS Launcher。JASのスマートフォンはデフォルトのホームアプリとなっている。
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▼システム言語はビルマ語にも対応する。JAS 6 SpeedはデュアルSIMに対応しており、1台でMECTelのCDMA2000方式とMPTのGSM方式を使用した。41403がMECTelのネットワークを指す。MPTはMyanmar Posts and Telecommunicationsと表示されているが、正しくはMyanma Posts and Telecommunicationsである。
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▼ビルマ語のナビゲーションキーが特徴的である。左からメニュー、ホーム、クリア、ショートカットの役割を果たす。なお、JASのスマートフォンであってもナビゲーションキーの配列は機種によって異なる。
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▼ヤンゴン市内にあるJASのスマートフォンを専門に取り扱う販売店。
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▼ヤンゴン市内にはJASの広告を設置している携帯電話販売店も見られた。
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準ミャンマーブランドのKENBOは積極的に展開

JASのスマートフォンを目にする機会は多くなかったが、それに比べてよく見かけたのがKENBOのスマートフォンだ。実は、このKENBOもミャンマーで誕生したブランドである。

ミャンマーではKENBOブランドは中国製バイクのブランドとして定着しており、スマートフォンはKENBO MOBILEとして区別されることもある。2013年7月に立ち上げられたブランドで、2014年1月にスマートフォンの販売を開始したばかりであるが、ヤンゴン市内には比較的大型の店舗も構えている。携帯電話販売店が集まる通りに店舗を構えており、赤色の目立つ看板を出している。広告もよく出しているため、ミャンマーにおける存在感はまずまず示せている。

KENBOのラインナップには洒落たデザインのスマートフォンも用意しており、販売店は外観や内装も洒落たデザインに仕上げるなど、JASとは異なった路線で攻めている。洒落たイメージの定着を目指しているためか、JASのスマートフォンほどミャンマー色は感じられなかった。

KENBOブランドはヤンゴンに本社を置くAUNG KANBO TRADINGと中国の雲南省・瑞麗に本社を置く瑞麗姐告雷華貿易の協業で成り立っている。端麗はミャンマーと接する国境の都市で、瑞麗姐告雷華貿易はミャンマーとの国境からすぐ近くに本社を構える。したがって、KENBOはミャンマー企業と中国企業が共同で展開する準ミャンマーブランドと言えるだろう。

▼ヤンゴン市内にあるKENBOの販売店は赤色の看板で目立っている。
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▼KENBO Hero K1は背面にテクスチャが入っており、デザインは洒落た印象を受ける。
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WainfordやCircle Techもミャンマーブランドとしての確立を目指す

WainfordやCircle Techもミャンマーブランドとしての定着を狙う。これまでにWainfordはW-CDMA/GSM方式やCDMA2000方式に対応した複数のタブレットをメインとしてミャンマーで展開してきたが、スマートフォン需要が高まったことでスマートフォンを積極的に展開するようになった。ヤンゴン市内のショッピングモールで携帯電話の販売店が集まる区画にはWainfordのブースも開設しており、スマートフォンの販売を強化する姿勢が見て取れる。

Circle TechブランドまたはCTブランドで展開するCircle Techは台湾企業であるが、現地採用を促進しつつミャンマーの地場ブランドとしてリードする存在になることを目標として掲げている。開放されたミャンマーの市場には、このようにミャンマーブランドとして地位の確立を狙う海外企業も現れているのである。

▼ヤンゴン市内のショッピングモールに入るWainfordのブース。スマートフォンやタブレットを販売している。
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市場の成長とともにブランドの浸透を狙う

各国から参入したスマートフォンメーカーやスマートフォンブランドがミャンマーでの定着を目指してマーケティングを繰り広げる中、紹介したようにミャンマーで生まれたスマートフォンブランドも浸透を目指して独自の展開を繰り広げている。

ミャンマーの移動体通信業界は外資の参入や格安なSIMカードの販売などで新時代に突入したばかりで、これからの大幅な成長が見込まれる市場であり、今後の展開次第ではミャンマー発のブランドも認知度の向上や販売台数の増加は十分に狙えるはずである。ミャンマーのスマートフォン市場が拡大する中で、ミャンマーの地場ブランドがどのように海外ブランドと差別化をして優位性を見出していくのか、引き続き動向を注視したいところである。

▼携帯電話販売店で売られているJAS 5。ミャンマーにおいてはスペックの割に価格は高い印象である。
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▼携帯電話販売店ではJAS 6 (New)も売られていた。CDMA2000方式にも対応する。
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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。