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本物の細胞を使った作品が見られるバイオアートの展示会が大阪で開催 『HYBRID Living in Paradox アート×生命科学の探求展』

2015.02.05

Updated by Yuko Nonoshita on February 5, 2015, 17:30 pm JST

グランフロント大阪の中核施設ナレッジキャピタルでは、オーストリアのリンツに拠点を置くクリエイティブ・文化機関「アルスエレクトロニカ」とのコラボレーション・プログラムの第2弾として、『HYBRID Living in Paradox アート×生命科学の探求展』を1月29日から4月19日まで開催する。今回は、「生命を考える」をテーマに、細胞や遺伝子を研究するバイオテクノロジーを素材にした作品づくりに取り組む、2組のアーティストによる作品を展示。アルスエレクトロニカが注目するバイオアート作品や、2000年に生命科学とアートを同時に扱う研究所として設立されたSyimbioticA(シンビオティカ)の紹介と合わせ、常設スペース「The Lab.」内にて無料で公開される。29日に報道向けに行われた内覧会では、公開に合わせて来阪したアーティストらが、自身の作品について紹介を行った。

▼会場イメージ
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▼アルスエレクトロニカでは世界の優秀なバイオアート作品を表彰するハイブリッドアート部門を07年より設けており、会場では過去の受賞作品が映像などで見られる。
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オーストリア大学内にあるSyimbioticAの所長であり、創作者としてバイオアートの分野をリードしてきたOron Catts(オロン・カッツ)氏は、女性のシルエットをかたどった細胞をフラスコで培養するという、不思議な作品「Better Dead Than Dying(死にかけなら死んだ方がましだ)」を出展している。世界で初めて不死化されたヒト由来細胞のHeLa(ヒーラ)細胞を実際に使っており、公開期間中はその成長と変化の過程を見ることができる。Catts氏は、「本作品は、生と死について考えると同時に、バイオテクノロジーを取り巻く複雑なストーリーを考えるきっかけにもなっている」と説明する。そして、こうしたアイデアはSyimbioticAで日々研究を続けるサイエンティストとアーティストの交流から生まれ、「異なる視点が交わるハイブリッドな環境が、お互いの分野に新しい視野をもたらし、新たな創造力にもつながっている」という。

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▼SyimbioticAの所長でもあるアーティストのOron Catts氏は「本物の細胞を使う作品展示に踏み切ったナレッジキャピタルの挑戦は、今後にも影響を与えるだろう」とコメントしている。(写真手前が展示作品)
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▼培養に使われているフラスコは展示用にデザインされたもので、ラボでも展示会でも、あるいはキッチンにもあるようなハイブリッドなデザインになっている。
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▼作品「Better Dead Than Dying」のタイトルは19世紀のSF小説「Erewhon」からの引用によるもので、会場ではHeLa細胞など、作品の背景を説明する展示も行われている。
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▼オーストリア大学内にあるSyimbioticAの紹介展示も用意されている。
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バイオテクノロジーやサイエンスの発展が社会に与えるインパクトを探求し、身近にあるものを通じて表現する活動を続けているアーティストグループのBCLは、2作品を展示。「Bio Presence」は、故人のDNAをリンゴの木組み込んだハイブリッドな「生きている記念碑」を創造するという試みで、05年の製作から10年目を迎えた今も高く評価されており、昨年12月には総務省の異能vation事業にも選ばれ、実際に木を育てる研究を行うことが予定されている。もう一つの作品「Common Flowers/White out」は、遺伝子組み換えされた青いカーネーションを、再び白に戻した場合、それは元々あった自然の花と同じなのか、それとも上書きされた別の花となるのか、バイオテクノロジー研究への関心と考察を生む内容になっている。

今回の展示にあたり、メンバーのゲオアグ・トレメル氏は「あなたが死んだ時、お墓に入りたいですか? それとも木になりたいですか?」という、見ている人への問いかけも行っている。「バイオテクノロジーの研究が進化することによって、生命に対する考えも変化している。作品に対する評価も変わってきていて、それを知る機会にもしたい」とコメントしている。同じメンバーの吉岡裕記氏も「閉ざされた環境にあるラボの研究をアートを通じて公開することで、テクノロジーに対する理解や問題提議を深めることができれば」と語った。

▼BCLは日本の大学を活動拠点の一つとしており、早稲田大学の岩崎秀雄研究室との協力による作品づくりなども行っている。(写真左:吉岡裕記氏、奥:ゲオアグ・トレメル氏)
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▼05年に発表された「Bio Presence」は10年目に入って再評価を受けているバイオアート作品である。
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▼「Common Flowers/White out」ラボの研究とアートをハイブリッドさせた見せ方になっている。
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今回の展示について、作品のキュレーションを務めたアルスエレクトロニカの小川秀明氏は、「自分たちの実の周りには、様々なハイブリッドが存在するが、多くの人たちは、それが怖いものだと思っているのではないか。バイオアートでは、サイエンスとアートがお互いの視点から、それぞれを知ろうとすることで、新しい創造が生まれている。全ては考えるきっかけであり、今回の展示を創造的な問いかけを生み出すきっかけにしてほしい」と説明する。展示方法についても、バイオアートは決まったスタイルがないことから、国内でバイオアートの活動を行っている早稲田大学の岩崎秀雄教授がアドバイスし、人の動きに反応して切り替わるボードを取り入れるなど、見せ方も工夫されている。アートを楽しむと同時に、ラボにいるような感覚も味わえるものになっており、「何度も繰り返し訪れることで新たな発見をしてほしい」としている。

▼作品のキュレーションを手掛けるアルスエレクトロニカの小川秀明氏は「生きている展示を行う機会は滅多になく、多くの人にバイオアートを知ってもらう機会にしたい」と語る。
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【参照情報】
HYBRID Living in Paradox アート×生命科学の探求展
会場:グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル The Lab.2F
会期:2015年1月29日〜4月19日 10:00〜21:00 入場無料
イベント公式サイト

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。