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知的情報処理の最前線:人工知能の就職活動「転移学習」

"He" is looking for a new job

2016.06.28

Updated by Masayuki Ohzeki on 6月 28, 2016, 07:00 am JST

いたるところ「人工知能」ブームで、それぞれ大きな会社が独自の「人工知能」と称するサービスを展開している。

最近目にするニュースの「人工知能」という言葉が意味するところは、大量のデータから獲得した独自の解析結果や、その結果に基づく予想・見通しの提案を行う機械学習によるシステムである。

たくさんの風景画像を眺めて、地球というものはこういう景色があるのだな、日本はその中でもこういう景色をしている国なのか。ムムム、この画像は他の国のような気がする。そんな判断や分析を自動的に実行させることができるようになっている。

独自の人工知能と言っても、ひとつひとつ冷静に話を聞くと、どれも似たようなことをしており、新鮮味がなくなりつつあるのも事実である。どれも何かと似ている、異なる、その区別を行っているためだ。

大量のデータを浴びせることにより、機械は世の中のことを知る。しかし、これはあくまで機械学習のウォーミングアップに過ぎない。

いわばそれは、大学を卒業するために卒業論文を作成するようなものだ。実際にどんなタスクをするのか、社会も知らずに、役にたつと豪語しながら闇雲に研究室で決められたテーマに沿った研究活動を通して、一通りの仕事をまとめるための所作を学習しているようなものだ。就職してから卒論とはテーマが異なる仕事に取り組んだとしても、身についた所作はさまざまな場面で役に立つ。

では犬と猫の区別をするためにたくさんの動物画像を見せられた機械は、一体何の役にたつのだろう?せっかく大量のデータから学習をしたのだから、有効活用はできないものだろうか?

まさに人工知能の就職活動とも言える方法がある。それが「転移学習」である。

大量のデータからの学習と呼ばれる部分は、以前本連載でも紹介した「事前学習」のためである。「この世の全てを見せてやる」というものだ。画像の識別であれば、画像のどの部分に注目すると要領よく画像の中にある「特徴」を抜き出せるかということを学んでいる。

この事前学習の段階では、「犬と猫の区別をこれから君はするからね」ということは全く教えていない。世の中の様子は情報として流れてきても、どのような仕事をして、生業として生きるのかを主体的に考えない、学生気分が抜けない状態である。

犬と猫の区別を機械ができるようになるためには、事前学習で学んだ特徴をいかに利用すればよいかを後から教える必要がある。これをファインチューニングと呼ぶ。

事前学習である程度情報を吸収して、世の中こういう風にできているのかな、と要領を得た後で、具体的な仕事内容を教えるわけだ。ファインチューニングをすることで、画像を読み込んだあと、何をするのかというタスクに対応した「人工知能」が完成する。

ということはタスクを変えるにはファインチューニングのやり方を変えれば良いということになる。そうやって事前学習が行われた「人工知能」を別のタスクに切り替えるためにファインチューニングを施すことを「転移学習」と呼ぶ。

事前学習を行った学生気分の「人工知能」に、適切なファインチューニングを施すことで、様々な企業に、いろんな仕事に対応させるというわけだ。

ここで人工知能の汎用性に気づくだろう。ファインチューニングをすることで様々なタスクに対応することができるが、どれだけ多くのタスクに適切に対応できるかは、大元となる事前学習直後の「人工知能」が、いかに世の中の「特徴」を知っているかどうかにかかっている。

もちろん事前学習を行った際に、利用したデータが画像であれば、画像に対応しやすく、音声であれば、音声に対応しやすいものが出来上がる。美大生と音大生だ。

そうなると豊富で良質なデータを取り入れて事前学習を行ってきた有能な「人工知能」が欲しくなってくる。日々多くのデータを取り入れて学習を進めていく必要がある。

では、どうやって多くのデータを取り入れるべきか?

Web上にあるなかなか良質なデータを入力することは基本であろう。さらに人間との対話を通して、日々学習を進めていくことも欠かせない。それがWatsonであり、対話型ロボットやスマートフォンのアプリを通じた人工知能サービスである。

毎日寝ずに囲碁をうち続けるAlpha Goもそうだ。次から次へとデータを学ぶことで、世の中のことをひたすら知るのだ。

そうして卒業を迎えて、就職活動を行い社会の一員となる。

ひとつの仕事が終われば、異なるタスクに向けて再就職も夢じゃない。

仕事の最中に知った情報を吸収して賢くなったかもしれない。その時はコピーしてやろう。余計なことを知ってしまったからリセットされるかもしれない。機械であればコピーもリセットも可能だ。人間とは異なる質と速度で学習が進められる利点がここにある。そのうちどんなタスクにもある程度の精度で対応する「人工知能」ができるだろう。

人間はどうだろうか?今の仕事を辞めて、他の仕事にすぐに向き合えるだろうか?人工知能に仕事を奪われるんじゃないか、という懸念はきっとこういう側面からも感じられるのだろう。

「それなら、仕事は人工知能に任せて、今日はバカンスにしよう」

そういう社会が来るんじゃないか、と思い直すことにしょう。

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大関 真之(おおぜき・まさゆき)

1982年東京生まれ。2008年東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程早期修了。東京工業大学産学官連携研究員、ローマ大学物理学科研究員、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て2016年10月から東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授。非常に複雑な多数の要素間の関係や集団としての性質を明らかにする統計力学と呼ばれる学問体系を切り口として、機械学習を始めとする現代のキーテクノロジーを独自の表現で理解して、広く社会に普及させることを目指している。大量の情報から本質的な部分を抽出する、または少数の情報から満足のいく精度で背後にある構造を明らかにすることができる「スパースモデリング」や、次世代コンピュータとして期待される量子コンピュータ、とりわけ「量子アニーリング」形式に関する研究活動を展開している。平成28年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。近著に「機械学習入門-ボルツマン機械学習から深層学習まで-」、「量子コンピュータが人工知能を加速する」(共著)がある。

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