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日本でジョブスが産まれない理由は曽野女史のコラムに集約されている

2015.02.27

Updated by Mayumi Tanimoto on February 27, 2015, 21:53 pm JST

先日産経新聞に掲載された曽野綾子女史の「労働力不足と移民」というコラムが「アパルトヘイトを許容している」とのことでゲスすぎると大炎上し、ネット界隈では「イカレポンチ具合が凄い」と呼ばれ、リアルな世界でも延焼してしまい、南アフリカ大使から抗議された上に、世界の主要メディアに大々的に報道されて、全世界に日本の恥をさらすという状況になってしまいました。

イギリスの保守系新聞であるThe Timesには「We need apartheid, says Japanese PM's adviser」(首相のアドバイザーは、私達にはアパルトヘイトが必要です、と言っている)と書かれてしまっています。

イギリスのリベラル紙であるThe Independentは海外メディアの中で最も怒っていますが「An adviser on education policies to Japan's right-wing government has sparked a furore by recommending that immigrants in the world's third-largest economy be separated by race」(日本の右翼政権の教育政策アドバイザーは、世界第三位の経済国の移民は、人種により区別されるべきであると提案し、大騒動を引き起こした)と紹介しています。

Japanese Prime Minister urged to embrace apartheid for foreign workers

Japan PM aide calls for foreign workers to be segregated

Japan PM ex-adviser praises apartheid in embarrassment for Abe

Ex-adviser to Japan PM Abe praises apartheid as model for Japan, prompting online outrage

Author Causes Row With Remarks on Immigration, Segregation

Japan PM ex-adviser's call for racial segregation an embarrassment for Abe

太鼓持ちである週刊誌各紙は擁護記事を載せましたが、いくら筆者が過去に善行を行ったとか、南アフリカに9回も行っていると書いたところで後の祭りです。

さてこのゲスいコラムの中で曽野女史は「もう20-30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうにわけて住む方がいい、と思う様になった」とおっしゃっております。

そして、以下要約すると、生活圏も住む場所も人種別に分けると文化的な衝突がなくてハッピー、ついでに日本には老人の世話をする外国人を介護人として呼び寄せるべきだけど、介護人なんてちょっと話ができれば良くて高度な知識なんていらないのよ、でも住む場所は隔離するべきよね、とおっしゃっております。

曽野女史はいわゆる日本における知識人であり、首相のアドバイザーをやっていたわけですが、どうも、日本のメディアで活躍している知識人という人々や、首相の周囲にいる人々というのは、ロンドンやトロント、シリコンバレーなど、世界各国からクリエイティブな人々や起業家が集まる都市での光景というのをみたことがない様です。

こいう都市のオフィスでは多種多様な人種、文化、言葉の人々がごった煮状態で働いています。

ナイジェリア人とシリア人と中国人が日本のお弁当屋さんに配達してもらった「マクノウチベントー」を食べながら次のプロジェクトの話をし、アフガニスタン人とインド人とニュージーランド人とペルー人が屋台でトルコピザを買ってかぶりついています。

仕事の最中にモロッコ人がお祈りに行きますが、それについてどうだと文句をいう人はいません。予定していた作業が進めばそれでいいのです。彼は働き者で、しかも職場に欠かせないツールの設定方法を知っているのでいなくなったら困りますから。しかも北アフリカ事情に詳しいので、あの辺の地域にプロダクトを展開するのに欠かせない人材です。

仕事の上での衝突はありますが、それは新しいプロダクトのインタフェースのことだったり、プロジェクトの進み方のことだったり、マーケティング戦略がうまくいったかどうかであり、オフィスの机の使い方や、共通語である英語の訛りや、ゴミの出し方とか、そういう些細なことではないのです。

何人か、何人種かということは、実はあまり関係なく、職場の光景というのは、日本と大差ありません。

生活の場ではどうかというと、これもまた色々な人種が混在していて、PTAはさながら国連総会です。でもそれで喧嘩になるかというとそうでもなく、各国の食事を食べあう会が開催されたり、様々な文化背景を持つ生徒が自国の紹介をしたりして、緩くやっているわけです。

多国籍、多人種、多文化の世界というのは、排他主義の日本の人々が想像する以上に、ユルユルしていて、ごった煮状態で、多くの人は普通に生活したいだけなので、思ったほど文化や宗教の衝突というのはありません。そもそもみんな友達と遊びに行くことや、商売に忙しいので、つまらないことに費やす時間がないのです。

ところで皆さんお忘れかもしれませんが、日本人の大好きなスティーブ•ジョブス氏のお父上はアメリカに政治学を学びに来たシリア人ですし、オバマ大統領のお父上はケニア人です。シリコンバレーでは起業家の多くは外国人ですし、労働力の60%以上が外国産まれです。ジョブス氏やオバマ氏は人種的に隔離されていたわけではありません。

アメリカの主要テクノロジー企業は海外から優秀な人を採用したいために、アメリカ政府の就労ビザ政策に対して苦情を申し立てています。ビザの問題で人材を確保できなければ競争に負けるからです。

仮に、曽野女史の提唱する様な人種別の居住区や職場が実現されるなら、まず最初に文句を言うのは、こういう民間企業になるでしょう。オフィスや居住区が人種別では仕事を進めるのが大変ですし、テクノロジーブームの起きている都市では不動産が足りていませんので、人種別居住区なんて作ったら、従業員の住居の確保がさらに大変になるからです。

世界中から人が集まる街では「人種」の定義も難しかったりします。例えばワタクシの友人に、父親は半分カザフ人で半分ロシア人、母親はコーカサス、ユダヤ、中国、ロシアの血が四分の一ずつという人がいます。つまり友人はカザフ、ロシア、コーカサス、ユダヤ、中国、の血が混じっています。

こういう人は人種的には一体なんだというべきか。それは誰が決めるのか?人種別の居住区では一体どこに住むべきか。誠に悩ましい問題です。

だって女史の主張によれば、人種は自分で決められるものではないのですから。

日本版シリコンバレーを作れ、日本からグーグルに対抗するサービスを作れ、という威勢の良いことをいう人々がいますが、残念ながら、そういう人々の多くは、テクノロジーブームの起きている都市の実態を理解しておらず、人種隔離を推進しろという曽野女史の様な人物の太鼓持ちをしているのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。