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スタートアップのチームビルディングで最も大事なこと

2015.02.28

Updated by Ryo Shimizu on February 28, 2015, 11:05 am UTC

先日、情報処理推進機構の未踏IT人材育成事業の最終成果報告会に参加してきました。
いくつかとても有望なアイデアがあり、私は彼らを支援することにしました。

昨日、その一人と私と夏野剛さんで打ち合わせを行いました。

iモードの成功で知られる夏野剛さんは数年前から未踏の統括プロジェクトマネージャを勤めており、こうした活動に意欲的でした。

私はもともと夏野剛さんの大ファンで、夏野さんのお陰で現在の自分があると思うほど、感謝している恩人でもあります。

というのも、私がモバイルの仕事を始めたのも、夏野さんがきっかけだからです。

夏野さんはドコモに移る前、ハイパーネットという、世界初の広告モデルによる無料インターネットプロバイダの副社長でした。

「それがさ、1996年のことなんだけど、たとえば野村証券とかに営業に行くじゃない?オンライン取引の仕組みどころか、ホームページさえないんだよ。だからオレが営業してたのはさー、広告じゃなくてインターネットなんだよ。野村さん、オンライントレードやりませんか、そしたら今よりきっと儲かりますよ。それでオンライントレードやるようになったら、うちの広告買って下さいよってね。銀行にもオンラインバンキングやろうって言ったし、もうとにかくあちこち行った」

早過ぎる概念でした。

それでハイパーネットはある日突然、倒産します。

倒産した理由は、銀行の貸し渋りでした。
当時はベンチャー投資という考え方が日本になく、新規上場ができるマザーズもありませんでした。
そこで夏野さんたちはアメリカのNASDAQに直接上場しようとしていたといいます。

しかし当時の金融情勢の煽りを受け、銀行が急に貸し剥がしを敢行。
長銀や山一証券といった大手金融機関の倒産の煽りを受け、ハイパーネットは窮地に陥ります

こうしてハイパーネットが窮地に陥った頃、夏野さんは学生時代のバイト先の上司だった松永真里さんに呼ばれてNTTドコモに移籍します。

夏野さん曰く

「しかしハイパーネット時代に作った人脈、ハイパーネット時代にかけずり回った営業先がぜんぶiモードのために役に立った。ハイパーネットがなければ、iモードはなかったかもしれない。なぜならiモードのオンラインバンキングを最初にやってくれたのは、住友銀行だったんだから」

つくづく、起業とは一筋縄でいかないのだということを考えさせられます。

そしてここに一人の起業を決意した若者がいます。

彼はこう聞きました。

「どうやって効果的なチームを作ればいいんでしょうか」

私は彼に答えました。

「最も大事なことは、自分より賢い人にどうやって自分の部下になってもらうか、ということだ」

たいていのベンチャーの場合、最初に自分の部下となる人は、自分より劣った人や、単なる友達を探してしまいがちです。

しかし多くの場合、それは失敗します。
自分と同等以下の人間を雇うと、自然と相手に対する侮りが出てきます。

自分より賢い人、自分より優れた人を雇って、初めてちゃんとしたチームを作ることが出来ます。

私が経営するUEIという会社では、私は取締役の中でも最年少です。
学歴も私だけが高卒で、あとは有名大学の出身者ばかりです。

私の配下には、私とは比べ物にならないほど優秀な人々がいます。
たとえばゲーム事業を統括する副社長の水野拓宏は、私と同じ未踏の天才プログラマー認定を受けていて、彼の事業部は会社の売上の80%を叩き出しています。

私の統括する秋葉原リサーチセンターの中には、UEIリサーチという研究組織があり、これは東京大学名誉教授の西田友是が率いる世界有数の研究所です。国際学会に何十という論文が採択されています。

そもそも私は西田先生と15年前に初めてお会いして以来、このような賢い人物にいつか私の下で働いていただきたいと思ってずっと接触を保ってきました。

その頃の私は一介のサラリーマンに過ぎませんでしたし、私自身に起業の意志があったわけではありませんから、だいそれた考えだったかもしれません。

しかし、そういう発想を持てるかどうかが大事だったと思うのです。

最終的に自分の会社を持つようになっていた私は、西田先生が定年で退官になる時期を待ち、名誉教授になると同時にUEIに招聘させていただきました。
私にとっては、若い人はそもそも私より優秀な人です。
根気がある人も、私からみれば、私よりずっと優秀です。
そしてもちろん、賢く実績を積み上げている方も、私よりずっと優秀です。

したがって私はいつもこう思っています。
会社で最も劣っているのは社長の自分であると。
私は誰よりも劣った人間なので、彼らが気持ちよく仕事ができるように全力を尽くして行こうと。

部下を尊敬できない人間は、部下を纏めることが出来ません。

これを私は、自分のかつての上司から学びました。

森栄樹という人です。
彼はMicrosoftのテクニカルエヴァンジェリストでした。

学生時代、突然森から「バイトしないか?本社まで来てくれ」と連絡があり、笹塚のMicrosoftまで行くと、森はニヤニヤしながらこう切り出しました。

「実は今度、セガから発売される新しいゲーム機にDirectXが移植される。そのデモを作って欲しい。二週間で作ってくれ。200万出す」

いきなり途方もない話です。

まず、見たこともない機械の開発環境を覚えて、しかも3Dのプログラム、モデリングとテクスチャまで一人でやるということです。一人三役くらいはこなさなければなりません。その全てを二週間で終えなくてはならないのです。

「どうする?やれるか?」

森は聞いてきました。
その目は、ギラギラと輝いていました。
その目には絶対の自信が宿っていました。

このとき私は思いました。
この人は、もしかして、私のことを解ってるんじゃないか。
私の気持ちや考えといったものを実は全部見透かされてるんじゃないか。

私が実際にはそんなもの、一週間もあればできるって思ってること。
勿体つけて、もっといい条件を引き出そうとしてるってこと。

私の能力の限界をそこまで適正に見積もることができる人に、私は初めて会いました。

この人は、圧倒的に、私の理解者なのです。
今までに会ったどんな大人より、この人は私を理解してくれるんだと思いました。

そして改めて思い知ったのです。
人は金のためでもなく、名誉のためでもなく、ただ自分を理解してくれる人のために働くのだということを。

実際にはその仕事は二週間のうちに二つのデモを作ることで終わりました。
一つではなく、二つです。一つは宇宙で宇宙船が出て来るデモ、もう一つは地上で山や海のあるランドスケープの上を飛行機が飛ぶフライトシミュレータ風のものでした。

あのとき、私は間違いなく森栄樹より優秀なプログラマーでした。
当時の森は、printfの使い方すら忘れるほど、プログラミングから遠ざかっていたのです。

しかしその私の力を引き出したのは、紛れもなく森でした。
森は私なら絶対にできると信じ、最も重要な仕事を私に任せてくれたのです。

大学生のインターンに二週間与え、そこで出来た成果をプロに見せて「ほら、鼻っ垂れの学生でもたった二週間でここまでできるんだぜ」と開発者を煽るのが、当時のマイクロソフトのやり方でした。

もちろんその「学生」というのはインチキで、学生は学生でもその当時で世界最高の能力を持つ学生にこうした依頼をしてあっという間に使いこなせる、という印象を植え付けるのです。

しかしその頃は、WinGのデモンストレーションでDOOMを移植したりだとかが精々で、要するに既存のソースを流用してレンダリングだけ書き換える移植作業をさせるだけで、ゼロからプログラミングして素材まで学生に作らせた人はいませんでした。誰もがそれはさすがに無理だと思っていたのです。

その世界で最初の例として、私を選んでくれた森栄樹には感謝するしかありません。

本国でも私のデモは有名になり、これが評価された私はその後、レドモンドのMicrosoft本社と、月額300万円のコンサルティング契約を結ぶことになります。

この仕事によって、私は私自身の中に眠る潜在的な能力に気付き、自分はもっと成長できるかもしれないということに気付かされました。

つまり森栄樹という、年老いたプログラマーは、自分が働くかわりに、若く優れたプログラマーを働かせ、そのプログラマーの能力以上の仕事を引き出すということに成功しました。

これができた森栄樹は、間違いなく優れた経営者です。
森は私と同じように若く優れたプログラマーをあちこちから集め、ドワンゴという会社を作りました。
森が集めたプログラマーの多くは、今もドワンゴで働いています。

そう言う意味で、森は私にとって掛け替えのない恩人です。

起業し、チームを作るということは、そういうことなのです。

そんな話をしながら、彼と秋葉原でワインを飲みました。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。