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電通の新しい取り組み ハッカソンで新規提案「電通テクノジャム」

2015.03.11

Updated by Ryo Shimizu on March 11, 2015, 08:51 am UTC

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広告代理店の電通が電通社員と外部のテクノロジストとのコラボレーションによるハッカソンで新しいビジネス領域を探る「電通テクノジャム」という新しい試みを始めました。

今回、私がトータルコーディネーターを勤めることになった「電通テクノジャム」とは何か、そして電通はこれを通じて何を狙っているかということをご紹介したいと思います。

電通は言わずと知れた国内最大手の広告代理店です。
その主たる収入源はテレビを始めとしたメディア収入ですが、年々、テレビCMはGoogleやYahooを始めとするサイバー広告に押され始めています。

電通としてはかなり以前から、メディア依存の体質から脱却したい、という意志があり、様々な試みを続けてきました。

その中で、技術シーズとクリエイティブを結びつけ、新たな事業領域を創出することを目的として設立された電通サイエンスジャムという子会社があります。

社長は電通コミュニケーションデザインセンター(CDC)の細金正隆エグゼクティブクリエイティブディレクター(ECD)です。

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電通のクリエイティブ部門のトップが、何故今、科学(サイエンス)に注目しているのでしょうか。

私と細金ECDの付き合いは、もうかれこれ5年ほどになります。

最初はカンヌ広告祭で電通の受け持つセッション、「アジアンダイバシティ」で一緒にトークをする、という関わりでした。

「アジアンダイバシティ」は、電通の鏡明役員(当時)がアジア各地の都市を例にとり、その土地に縁のあるクリエイターを紹介するといった人気セッションでしたが、最終回が東京となり、私としては非常に責任重大なプレゼンテーションでした。

その後も、電通の社員研修、創発ラボやニュースクールといったもので幾度もコンビを組ませていただいていました。

そして今回の電通テクノジャムというイベントでは、電通サイエンスジャム(紛らわしいですがこっちは法人です)が開発した「感性アナライザー」という装置を使います。

感性アナライザーは、Bluetoothを搭載した頭部装着型脳波検出装置で、構造としては単純ながら、慶應義塾大学の満倉准教授の独自の理論のもと、細かな脳波の変化を的確に捉えて被験者の感じているストレス、好感度、興奮度、覚醒度などをリアルタイムに可視化することに成功しています。

実際、私も感性アナライザーを試着しましたが、好きな芸能人の写真を見ると「興味度」がすぐに上がり、どうでもいい写真を見るとすぐに下がる、と、機敏に変化したことに驚きました。

また、集中力やストレスといったものも測ることが可能で、既に電通サイエンスジャムでは、感性アナライザを使用してクライアント企業のマーケティングリサーチに活用したり、CMの効果測定を行ったりしています。

また、フォルクスワーゲンに試乗する際に脳波計を付け、その結果に応じたコーヒーをブレンドして提供する「e-driving」というキャンペーンとしてビジネス化に成功しています。

今回、第一回目となるこの電通テクノジャムでは、まずはこの「感性アナライザ」を使用した新規のサービス、コンテンツ、またはキャンペーン企画を立て、しかも実際に電通のクライアントに提案できるところまで持って行くことがゴールと定められました。

通常のハッカソンでは、その場で発表することだけが求められるのに対し、電通は今回、実際の業務の一部に外部の人材を取り入れたハッカソンを取り入れると言う画期的な試みをしています。

実は筆者の経営する会社、UEIでは企業内ハッカソンのコーディネートを幾度か経験しているのですが、基本的にこれは社外秘のブレインストーミングであって、公開することはできません。

ところが今回の電通テクノジャムでは、社外から積極的にテクノロジストを招聘し、マスコミまで呼んで大々的に公開された状態でハッカソンを行うという点が非常に画期的です。

今回、テクノロジストとして招集されたのは、大学生やフリーランス、そしてデジタルガレージの社員さんたちなどです。

午前中はハッカソンの説明と、アイスブレーキングを行います。
今回は初対面の人とアイデアソンを行うので、まず打ち解けてもらうために、形容詞と固有名詞をバラバラに書いてもらい、それをランダムに組み合わせて夫々のニックネームにするという方法をとりました。

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これは心理学的特性を利用したアイスブレーキングです。

チームは4人のため、それぞれが書いた形容詞または名刺が他の人のニックネームになる確率は3/4で、つまりチームの自分以外の2/3の人間は、自分が考えた言葉をニックネームにすることになります。

これはラポートという、一種の親近感、信頼関係を構築します。この状態が相互にあるため、早く打ち解けることができるのです。

さらに、ランダムなニックネームにすることで、姓名や役職といった先入観から解放されて自由な発言ができる雰囲気を作ります。

どれだけいかつい顔をした怖いおじさんでも「黄昏のハイエナ」みたいなニックネームがついていたら親しみが湧きます。

アイスブレーキングの後は、細金さんから感性アナライザーの説明、野村証券の小南さんからVC事業の説明があり、その後、慶應義塾の満倉先生から脳波測定と解析アルゴリズムについて説明がありました。

感性アナライザーは額と耳たぶの電位から脳波を測定するのですが、得られたデータをどう変換するかが重要です。

単純にフーリエ変換で複数の周波数に分解するのは「下等な手法」と満倉先生は切り捨てます。
フーリエ変換は、与えられた波のデータを複数の周波数に分解することができますが、時間的粒度が荒くなりがちで感性のように起伏の激しいものを分析するにはあまり適していません。そこで感性アナライザでは、データをヒルベルト空間へ写像することで細かな変化を検知しやすくしているのだといいます。

昼食を挟んでいざアイデアソンの開始ですが、アイデアソンの前に、KJ法で軽くアイデアを吐き出した後、匿名チャットシステムで意見を交換します。

アイデアソンは異様なほどの盛り上がりを見せました。

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なにしろ、脳波を使ったサービスなんてまだ完全に未開拓の分野です。

今回のハッカソンのもうひとつ画期的なことは、実際にビジネスに落とし込む、という条件がついていることです。
単に面白いアイデアを出して実現すればいいのではなく、電通が抱えるクライアントにどうプレゼンするか、ということまで含めたアイデアを出し、形にしていかなければなりません。

これは非常な難問です。

正直、私も細金さんもハラハラしながら見守っていました。

ところが難問であればあるほど燃えるのが電通マンです。
実際の発表では非常に見事なアイデアが披露されました。

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発表時には再び匿名チャットを使用して、聴衆のリアルタイムな反応を共有できるようにしました。
普通の発表ではなかなか得られないような手厳しい意見も出て、匿名チャットの有効性を再確認する形になりました。

脳波を利用した損害保険や、マッサージ機、子ども向け集中力検定、脳波に応じて寿司を握るサービスや脳波に応じて興味のあるところだけ説明してくれる観光ガイド、脳波による客観的な蓋然性を持つグルメガイド、脳波を測定して気分に応じたコーヒーをブレンドしてくれるコーヒーメーカーなどなど、多彩なアイデアが披露されました。つい30分前までなにも決まっていなかったのに、こういうところの収束力はさすがの一言です。
今回のアイデアソンの結果を持って、17日に実際のハッカソンが行われます。
各チーム、3万円までの材料費を使っていいことになっているので、各種センサーと組み合わせたり、電通サイエンスジャムの提供する感性APIと組み合わせたりして実際にアイデアを形にしていきます。

今から楽しみです。

その後行われた懇親会では、参加者同士の交流も活発に行われました。

当日、外部の取材も受け付けますのでご興味がある方は私のFacebook宛にご連絡下さい。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。