夢や空想を視覚化する研究はAIでさらに進化するのか ーワークショップ「人工知能による科学・技術の革新」ー
Thank AI, it can visualize your imagination
2015.05.15
Updated by Yuko Nonoshita on May 15, 2015, 11:29 am JST
Thank AI, it can visualize your imagination
2015.05.15
Updated by Yuko Nonoshita on May 15, 2015, 11:29 am JST
先日大阪で開催された、人工知能(AI)をテーマにした「人工知能による科学・技術の革新」ワークショップの第一回目より、ここでは、後半のプログラムの中から、ヒトの脳とAIに関連する話題を取り上げて紹介する。
頭の中で空想した画像やイメージを誰かに伝えたい時、そのまま視覚化してディスプレイに表示できたりすれば簡単なのに、と思ったことはないだろうか。実はそうした研究はすでに進められており、ある程度まで視覚化することに成功しているのだという。
その方法とは、知覚体験によって脳がどのような活動をするかを分析し、そのパターンを元に今度は、脳の動きからどのような知覚体験をしたかを推測してイメージに置き換えるというもの。ヒトが持つ様々な感覚器はセンサーであり、それらから得られるデータを処理する脳をコンピュータとするならば、見たものによって特定のパターンがあり、それを分析すれば何を見たがわかるというわけだ。研究実験を発表した脳情報通信融合研究センター(CiNet)の西本伸志氏は、モノを見るというのは、目というセンサーから得た情報を脳にエンコーディングすることで、脳の働きから情報を推定して再現することはデコーディングであると説明する。
実験では、まず、fMRI(機能的磁気共鳴画像診断装置)を使って脳の全体の血流を計測し、知覚体験と脳活動がどう関係しているかを定量的に結びつけて予測モデルを構築。そこから、運動エネルギーモデルを用いたベイズ推論など使って元の情報を推定したところ、ぼやっとしているものの、イメージの輪郭や色については同じものが再現できることが証明されている。そこから、ヒトの脳は頭の中で高精度な情報を空想することができることが判り、ある作家のあの作品というように頭の中で空想した絵をデコーディングしてGoogleで画像検索するという実験では、個人差はありながらも目的の結果をヒットさせることができたという。
▼CiNetの西本伸志氏は脳で知覚した情報を外部に取り出す研究を行っており、ヒトを機械に置き換えて考えるとおもしろい発想が見えてくるともコメントしている。
また別の実験では、見たイメージをイメージとしてではなく、sky(空)やbuilding(建物)などの意味のある単語としてデコーディングすることにも成功している。このように知覚体験と脳の活動を分析する研究を重ねていけば、色やテクスチャ以外の、感情や印象のような感覚もデコーディングできる可能性があると西村氏は説明する。この研究を応用すれば、眠っている間にどんな夢を見ていたかを推測でき、夢分析の研究が進むかもしれない。さらに将来的には、ヒトが感じる”場の空気”を解析して情報として置き換えられることも可能で、テレパシーのように脳から脳へ直接情報を伝えるというSFの世界が現実になるかもしれないとしている。
▼西本氏は脳の動きを分析したデータを元に見た映像を再現する研究実験を成功させており、応用すれば将来は夢を映像化したり、言葉として取り出したりして伝えるのも可能になるとしている。
西本氏は実験でイメージを取り出す際にマシンラーニング技術を使うとより抽出しやすかったとし、そのことから、マシンラーニングと脳の動きを協働させる人間的なAIを開発することができるようになるかもしれないともコメントしている。脳内表象と機械学習表象を相互に参照することが発展につながり、画期的なAIを開発するアイデアにつながる可能性もある。現在、脳が知覚、認識するとして捉える表象的な動きを分析、研究する動きは西村氏以外にも、多くの研究者が取り組んでおり、細胞レベルでの分析や数理的なアプローチも試みられている。今後、こうした中から新しいAIが登場することも考えられる。
▼脳の表象定量研究については多くの研究者が様々なアプローチから取り組んでいることが紹介された。
本プログラムでは他にも、脳と同じレベルの情報処理が可能な脳型コンピュータの開発や、ディープラーニング技術を用いた創薬に応用できるタンパク質と化合物の相互作用予測、バクテリアを高度な化学物質センサーとして使うためにAI技術で環境認識機能を解明するなど、様々な取り組みが紹介された。全体を通して感じたのは、AIは膨大なデータを処理する機能を高めるだけでは意味が無く、どう解析するかを理論的に分析し、推測させられるようにするのが大事で、そのためには様々な研究やアイデアアプローチをヒトが考えていく必要があるということであった。
AIを取り巻く分野はますます注目を集めており、今後のワークショップでもどのようなテーマが取り上げられるのか興味深いところである。
【参照情報】
・ワークショップ「人工知能による科学・技術の革新」<http://www.qbic.riken.jp/aiws/>
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登録はこちらフリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。