國碁電子のロゴタイプ

Foxconn傘下の國碁電子が携帯電話サービスを開始 - 台湾初のVoLTEも提供

AMBIT Microsystems, a subsidiary of Foxconn finally launched mobile service – operating first VoLTE in Taiwan

2015.06.19

Updated by Kazuteru Tamura on 6月 19, 2015, 17:55 pm JST

通称Foxconnとして知られるFoxconn Technology Group(鴻海科技集団:以下、Foxconnグループ)傘下で台湾の移動体通信事業者である國碁電子(AMBIT Microsystems)が紆余曲折の末にようやく移動体通信サービスを開始した。國碁電子は特殊な状況であることに加えて、Foxconnグループによる移動体通信サービスとなるため、一部では注目されている。今回はそんな國碁電子を台湾・台北市に渡航して取材したので紹介する。

國碁電子が移動体通信事業に新規参入

國碁電子は台湾で1991年に設立された企業である。パソコン関連で有名な台湾のAcer(宏碁)の子会社であったが、Foxconnグループは2003年に國碁電子を買収してFoxconnグループ傘下とした。厳密にはFoxconnグループの中核企業である鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)の子会社となる。國碁電子は長らくADSLモデムの開発や製造を手掛けており、國碁電子製のADSLモデムは日本市場にも投入された。

Foxconnグループは数多くの企業を抱えており、傘下企業を通じて様々な事業に参入している。特に電子機器の受託製造を手掛けることは有名で、米国のAppleが展開するiPhoneシリーズやiPadシリーズの製造を担当していることが広く知られているが、Appleからの受注が減少すれば売上高に大きく影響するため、Apple依存からの脱却を図っている。Apple依存からの脱却策の一つが新規事業への参入であり、様々な事業への参入を狙う中で移動体通信事業への参入を決めた。

台湾の行政機関で電気通信事業を管轄する国家通訊伝播委員会(NCC)は2013年後半にLTE用の周波数オークションを実施した。移動体通信事業への参入を決めていたFoxconnグループは國碁電子を通じて周波数オークションに参加し、LTE用の周波数を獲得することに成功した。こうして、Foxconnグループは國碁電子を通じて移動体通信事業に参入するため歩み始めた。

▼國碁電子のロゴタイプ。
國碁電子のロゴタイプ。

亞太電信との統合を決める

国家通訊伝播委員会は2013年10月下旬にLTE用の周波数オークションの結果を公表し、國碁電子はAPT700 FDDと呼ばれる700MHz帯(Band 28:以下、Band 28)の10MHz幅と900MHz帯(Band 8:以下、Band 8)の10MHz幅を獲得したことが公になった。

この時のオークションでは國碁電子と台湾之星電信(Taiwan Star Telecom:以下、台湾之星)の2社が新規参入することが決定した。この2社はLTE用の周波数のみを保有することになるが、データ通信専用ではなく音声通話の提供も計画していたため、既存の移動体通信事業者との統合または提携が有力視されていた。LTEネットワーク上で音声通話を実現するVoLTE (Voice over LTE)を導入してLTE方式のみで移動体通信サービスを提供する選択肢も考えられたが、VoLTEに対応したスマートフォンは多くないため現実的な選択肢ではなかった。すぐに台湾之星は既存の移動体通信事業者でLTE用の周波数オークションに不参加の威寶電信(Vibo Telecom)を買収することで決定し、その後は國碁電子の動向が注目された。

國碁電子を操るFoxconnグループが下した決断は既存の移動体通信事業者である亞太電信(Asia Pacific Telecom)との統合である。亞太電信を存続会社として統合するものの、統合後の亞太電信の株式をFoxconnグループが取得することで亞太電信をFoxconnグループ傘下とする案を出した。この統合案は亞太電信の取締役会で速やかに承認されており、国家通訊伝播委員会による承認を受ければ統合が実現するところであるが、後に国家通訊伝播員会が大きな障壁となる。

▼國碁電子のSIMカードと亞太電信のSIMカード。ロゴタイプと色が異なる程度で、お揃いのデザインを採用する。間違い探しのようであるが、飛んでいる鳥やビルの配置がわずかに異なる。
國碁電子のSIMカードと亞太電信のSIMカード。ロゴタイプと色が異なる程度で、お揃いのデザインを採用する。間違い探しのようであるが、飛んでいる鳥やビルの配置がわずかに異なる。

▼亞太電信の直営店。
亞太電信の直営店。

台湾大哥大との提携を決める

國碁電子と亞太電信が統合することで、周波数の一部を返却する必要が生じた。LTE用の周波数オークションを実施する際に決められた規則で1社が保有できる最大の帯域幅が定められており、國碁電子と亞太電信が統合すれば最大の帯域幅を上回ってしまうのである。

具体的には1GHz 未満でカバレッジの拡大に有利なBand 28とBand 8は1社当たり最大で25MHz幅までと定められていたが、國碁電子は先述の通りBand 28の10MHz幅とBand 8の10MHz幅で合計20MHz幅を獲得し、亞太電信はBand 28の10MHz幅を獲得したため、この2社が統合すれば合計30MHz幅となり、定められた上限を超えてしまう。そのため、少なくとも5MHz幅は放出必至となった。

この5MHz幅を手に入れたのが台湾大哥大(Taiwan Mobile)だ。Foxconnグループと台湾大哥大は戦略的提携を締結し、國碁電子が保有するBand 28の5MHz幅を台湾大哥大に売却することで合意した。

台湾大哥大にとってこの提携は非常にメリットが大きかった。同社はLTE用の周波数オークションでBand 28の15MHz幅と1.8GHz帯(Band 3)の15MHz幅を獲得したが、國碁電子が売却するBand28の5MMHz幅は台湾大哥大のBand28と隣接している。したがって、この売却によって台湾大哥大はBand 28において連続した20MHz幅でLTEサービスを提供できるようになったのだ。実際に台湾大哥大は2015年3月に国家通訊伝播委員会の承認を受けて、すぐにBand 28を20MHz幅に拡張しており、連続した20MHz幅を大々的に宣伝している。このことからも台湾大哥大にとってメリットが大きかったことが分かる。
Foxconnグループと台湾大哥大の戦略的提携には周波数の売買だけではなく、移動体通信に関するノウハウの共有、台湾大哥大による國碁電子への出資、ローミングとして亞太電信が台湾大哥大のネットワークを利用することなどが含まれた。しかし、この国内ローミングは他の移動体通信事業者の反感を招き、国家通訊伝播員会が調査に乗り出す事態に発展し、國碁電子と亞太電信の統合を遅らす原因の一つとなった。

▼台湾大哥大の直営店。
台湾大哥大の直営店。

▼台湾大哥大はBand 28の20MHz幅とBand 3の10MHz幅を合わせて30MHz幅をLTEサービスで利用できるとアピールしている。Band 28は國碁電子から5MHz幅を取得したため、連続した20MHz幅でLTEサービスを提供できる。
台湾大哥大はBand 28の20MHz幅とBand 3の10MHz幅を合わせて30MHz幅をLTEサービスで利用できるとアピールしている。Band 28は國碁電子から5MHz幅を取得したため、連続した20MHz幅でLTEサービスを提供できる。

国家通訊伝播委員会が統合案を却下

国家通訊伝播委員会は國碁電子に対して2014年12月3日にLTEサービスのライセンスを交付した。ライセンスの交付後は6ヶ月以内にLTEサービスを開始しなければライセンスを剥奪されるため、國碁電子は2015年6月3日までにLTEサービスを開始する必要があった。一方で、亞太電信は先に2014年10月22日付けでLTEサービスのライセンスが交付されており、2014年12月24日にLTEサービスを開始した。

最終的には國碁電子と亞太電信は統合させる方針であるため、Foxconnグループとしては亞太電信とは別に國碁電子が単独でLTEサービスを提供するより、早期に統合を完了して一つの移動体通信サービスを提供することを望んでいた。そのため、早期に統合案を国家通訊伝播委員会に統合案を提出したが、国家通訊伝播委員会は2015年1月にそれを却下した。却下の理由としては亞太電信のVoLTEに対応したLTE基地局が事業計画を大幅に下回ることや、あらかじめ提出された亞太電信の事業計画に台湾大哥大とのローミング提携が明示されていなかったことが挙げられる。ローミング提携については亞太電信と台湾大哥大に対して罰金も命じられている。

統合案の却下を受けて早期の統合が絶望的となり、計画の変更を余儀なくされたFoxconnグループは当初の予定である2015年6月の統合を諦めて2015年末までに延期した。そして、國碁電子は単独で移動体通信サービスを提供することになり、ライセンスの剥奪は免れた。

▼移動体通信サービスの開始に合わせて台北市内に開設された國碁電子の直営店。
移動体通信サービスの開始に合わせて台北市内に開設された國碁電子の直営店。

國碁電子が台湾初のVoLTEを提供

移動体通信サービスを単独で提供することを避けられなくなった國碁電子は2015年5月15日に移動体通信サービスを開始した。LTE用の周波数のみを保有するため、通信方式はLTE方式のみで提供している。國碁電子が保有するBand 8はまだ使えないため、移動体通信サービスの開始当初はBand 28のみを使用する。Band 28は獲得した10MHz幅のうち5MHz幅を台湾大哥大に売却したため、國碁電子は残りの5MHzのみで移動体通信サービスを提供している。亞太電信との統合が完了していないため、当然ながら亞太電信が保有する周波数範囲を使うことは許されない。

LTE方式のみで移動体通信サービスを提供しなければならない國碁電子は、音声通話を提供するためにVoLTEの導入が必須となり、利用可能なスマートフォンは限定されるが、移動体通信サービスの開始と同時にVoLTEによる音声通話の提供も開始した。Foxconnグループの意に反して亞太電信との統合まで暫定的に単独で移動体通信サービスの提供することになった國碁電子であるが、皮肉にも台湾で初めてVoLTEを商用化した移動体通信事業者となった。

▼國碁電子のVoLTEに対応したスマートフォンであるInFocus M810 VoLTE版本に國碁電子の音声通話対応SIMカードを挿入すると通知バーにVoLTEと表示される。
國碁電子のVoLTEに対応したスマートフォンであるInFocus M810 VoLTE版本に國碁電子の音声通話対応SIMカードを挿入すると通知バーにVoLTEと表示される。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。

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