携帯は盗聴されているのが当たり前

Stingray is everywhere

2015.06.21

Updated by Mayumi Tanimoto on 6月 21, 2015, 06:03 am JST

イギリスで、20以上の偽の携帯電話基地局に、IMSI(加入者識別番号)キャッチャー(Stingray)が仕込まれているのが発見されてちょっとした騒ぎになっています。Sky News がドイツのGMSK Cryptophone社のソフトウェアを使ってログを取得したところ、イギリス国内でStingrayが活動していることが発見されました。設置したのが警察だという噂もありますが。誰がどういう理由で設置し、データはどのように使用されているのかは、詳しいことは今の所不明です。

公的機関によるIMSIキャッチャー(Stingray)を使った携帯電話情報の収集、アメリカでは、ほぼ公になっていることで有名です。現時点で確認されている限り、53の政府機関、21の州で運用されいます。コロンビア特別区(ワシントンDC)は独自のシステムを持っていることがよく知られており、少なくとも14以上のStingrayが存在しています反対運動があったために、サンタクララなど一部の地域では導入されないようですが、多くの自治体では、住民が知らない間に導入されていることが多いようです。

以下はACLUによる、どの州のどの機関がStingrayを使用しているかの調査結果です。

 

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Stingray Tracking Devices: Who's Got Them?

デバイスを運用してデータを収集している機関の多くは、地元警察ですが、デバイスは国土安全保障省が拠出した予算で購入されていることもあります。収取されるのは携帯の番号、GP、通話記録、テキスト送受信記録などですが、どういった情報がどの様に集められ、どの様に使われるかは公開されていません。さらに、どのデバイスが、どの様に使用されているか不明なため、携帯電話でのデータ通信うや音声通話のやり取りの内容そのものが傍受されているのかどうか、デバイスから携帯電話自体になんらかのデータ、アプリ、ツールが送信されたりインストールされるのかも不明です。

そもそも、こういうデバイスが存在することすら公開されないのです。連邦政府と地方自治体と警察の間、もしくは、政府機関とデバイス納入企業との間では、守秘義務契約が結ばれていることが多いため、情報が外部に公開されることはありません。情報公開法による情報開示も拒否されてしまいます。FBIが自治体や地元警察に情報開示をしないように命令する場合もあります。

犯罪捜査目的での盗聴というのは従来も行われてきましたが、Stingrayによる情報の収集と、伝統的な盗聴には違いがあります。伝統的な盗聴の場合は、まず令状があって、犯罪を犯している疑いがある容疑者に限定して行われるわけですが、Stingrayの場合は、全く関係がない人の個人情報も収集され、令状も許可も必要がない点です。ただし、デバイスの精度は完璧というわけではないので、犯罪関係者ではない人が、容疑者認定されて、自宅にいきなり武装警官が乗り込んでくる、ということが起こります。実際にアメリカでは、容疑者が同じビルの別のセクションにいたために、自宅に銃で武装した警官がいきなり乗り込んできたという女性のケースが発生しています。

多くの自治体や警察では、フロリダのHarris社のデバイスが人気ですが、最近の話題なのは同社のHailstormです。このスーツケースほどの大きさのデバイスは車載可能ですが、そもそも軍用であり、イラク戦争においてアメリカ軍が使用していました。アメリカのバルチモア警察は、2007年から、少なくとも4300回このデバイスを使用しています

イギリスは、アメリカほどホームランドセキュリティにかける予算がないため、こういうシステムがアメリカ並み導入されているのかどうかはわかりません。ただ、今回の報道でわかるのは、アメリカ以外の国も、一般の人に知らされないうちに、元々軍事用に使用されていた監視技術が一般市民向けに導入されていくのが当たり前になりそうだ、ということです。

日本の場合、年金機構の情報漏えいなど、かなり低レベルな問題が騒がれていますが、実はもっと重要な問題については、一般には知らされないのかもしれません。日本にはACLUの様な団体はない上、ほとんどの市民は、長時間労働で疲弊し、雇用不安を抱えていますから、政治運動に取り組む時間はありません。権利を主張する文化もありません。

アメリやイギリスに比べると、この様な監視システムを導入するのは、はるかに容易なのかもしれません。

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。