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無料化されるコンテンツ

There Ain't No Such Thing As A Free Contents

2015.07.28

Updated by Ryo Shimizu on July 28, 2015, 20:16 pm UTC

 最近、立て続けに「マンガを無料で読めるアプリ」がリリースされています。

 「金田一少年の事件簿」や「神の雫」などの漫画原作者として高名な樹林伸氏を編集長とするDeNAの「マンガボックス」を始めとして、株式会社六式の「マンガ読破!」など、マンガを無料で読めるアプリを探そうと思ったら枚挙に暇がありません。

 事実、AppStoreを「マンガ 無料」で検索するとたくさん出てきます。

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 大手出版社も無料漫画に乗り出してきました。
 講談社の「Dモーニング」や、集英社の「少年ジャンプ+」などです。

 さらにこれらの無料マンガアプリとは別に、個別の作品の無料漫画アプリもリリースされています。

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 なぜこのように無料でマンガを配るようなことが横行してきたのでしょうか。
 ひとつには、漫画雑誌の衰退があります。

 1994年に620万部の発行部数を誇った少年ジャンプも、2014年には270万部まで部数を半減させてしまっています(一般社団法人日本雑誌協会調べ)。

 この衰退はちょうど携帯電話やインターネットの登場とともにはじまり、毎年緩やかに下がっていたものが、2005年の300万部で停滞し、そこから10年かけてさらに30万部下がった、という推移になります。
 
 漫画雑誌の読者は一時期に比べると半減しているものの、逆に言えば300万部前後で健闘しているとも言えます。

 雑誌全体としてはやはり需要が下がってきており、今日は雑誌でマンガを読む機会そのものが減ってきていると言えます。
 
 そこで主戦場をタブレットやスマートフォンに移していこうという戦略に切り替わってきたのでしょう。
 
 無料とはいえど、ただ無料になるわけではなく、時々広告を挟むものや、リワード広告といって、続きを見るためには提携しているアプリをダウンロードしなければならないものなど様々あります。リワード広告はAppStoreのランキングを撹乱すると言われており、Appleとしては規制を強化しているのですが、なかなか根絶することができないのが現状のようです。
 
 ただ、いつも無料のコンテンツが配布されると思うのですが、たとえ無料で読める範囲が、古いマンガであったり、マンガとして有名でなかったりしても、意外と楽しめてしまうということです。
 
 床屋さんやラーメン屋さんにおいてあるマンガをついつい読み耽ってしまう、なんていう経験のある筆者としては、たとえ広告が表示されようがそれまで知らなかったマンガの意外な魅力にすっかり虜になってしまいました。
 
 筆者はもともとマンガを電子書籍で読むのが好きで、Kindleでも相当数のマンガを買ってきていました。
 
 Kindleで買っておくとかさばらず、しかも世界中どこにいても自分が買ったマンガを読んだり、続きを買ったりできることが魅力で、出張の多い筆者には欠かせないものとなっています。
 
 文字の本はもちろんですが、Kindleはやはりマンガでこそ威力を発揮するのではないかと思います。
 
 特に筆者が気に入っているのはiPad miniとの組み合わせで、これはとても快適です。
 文字の大きさもちょうど読みやすく、持ち歩くときにかさばらないので、ちょっとした場所にでかけるときに便利です。
 
 ただ、Kindleの問題点はマンガを指名買いするしかないことです。
 マンガを販売するプラットフォームだから当然といえば当然なのですが、要するに「知らないマンガを買うことはできない」ということです。要はエンゲージメントの問題です。
 
 新しいマンガ、もっと違ったマンガを読みたければ、やはり雑誌やマンガボックス、Dモーニングのような雑誌型マンガアプリに頼る必要があります。
 
 ただ、Dモーニングやマンガボックスが新作に偏っているのに比べると、広告ベースのマンガアプリは旧作が充実しているので、それはそれで新しい発見があって面白いです。
 
 こうやってマンガとのエンゲージメントを高めていかないと、ユーザがどんどんマンガ離れを起こしていってしまう、なんていう危機感が根底にあるのかもしれません。

 こういう広告ベースのコンテンツが登場する度に、筆者はロバート・A・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」を思い出してしまいます。
 
 この小説では、地球の植民地として月に移住した人々が独立を目指して革命を起こすというストーリーで、その中に幾度も「タンスターフル!」という合言葉が登場します。
 
 タンスターフルは、There ain't no such thing as a free lunch(無料の昼食などない)の頭字語です。
 
 これはかつてとある酒場で「飲みに来た客の昼食は無料」という宣伝が行われたところ、実際には「無料の昼食」の代金は酒の代金に含まれているだけの話だった、という伝説に由来しています。つまり世の中にそんなうまい話はない、ということです。
 
 この言葉自体はハインラインの小説とは関係なく存在していたらしいのですが、ハインラインの小説によって広く知られるようになりました。
 
 この言葉に関連して、情報科学の世界では「フリーランチ定理」と呼ばれるものが知られています。
 
 これは、「コスト関数の極値を探索するあらゆるアルゴリズムは、全ての可能なコスト関数に適用した結果を平均すると同じ性能となる(Wolpert and Macready、1995)」ということを意味しています。
 
 ちょっとむずかしいかもしれませんね。

 探索アルゴリズムとは、ある特定のバラつきをもったデータの中から目的に合致する最適解を探すためのアルゴリズムです。
 
 人工知能の学習や、その他機械学習に使用されます。
 汎用的な探索アルゴリズムとして有名なものでは遺伝的アルゴリズムや焼きなまし法があります。
 
 しかし汎用的な探索アルゴリズムは、その問題領域に特化した探索アルゴリズムには負けてしまいます。
  
 つまり「このアルゴリズムを使えばどの問題領域でも高速に最適解を求められるはずだ」などといううまい話はあるわけがなく、問題領域を特定した探索アルゴリズムを作ったほうが、その領域では速く答えにたどり着くことができる、という考え方のもとになっているのです。
 
 マンガやゲームを無料で思い切り遊びたい、と思った時、確かにある程度は遊べるし、マンガも楽しめます。
 
 実際問題として、これまで国内で発売されたマンガの数だけを見ても、一生かかってもぜんぶは読みきれないほどのマンガがあるのではないか、と思うほどです。 
 
 今はゲームも基本的に無料で遊べるもの(フリー・ツー・プレイ)が主流になっています。
 筆者も「ねこあつめ」を無料でプレイしていますが、作者に申し訳なくなるくらい、充分楽しめてしまっています。
 
 こうするとよほど上手い設計をしないとゲームアプリ開発のリスクは飛躍的に高まることになります。
 
 ゲームアプリの場合、過去のゲームを最新のスマートフォンで動作するように移植するのは非常に苦労する(コストがかかる)ので、それに比べると過去のマンガは権利関係さえクリアーしてしまえば、ビジネス的なコストが釣り合うのであれば、比較的低リスクで始めることが出来ます。
 
 ただ、これはこれで過去のマンガ資産を消費しているだけなので、本当にこのやり方でいいのかどうかは疑問が残ります。
 
 マンガというコンテンツのいち消費者としては無料でどこまでも読めることは嬉しいものの、マンガを含めたコンテンツ産業の人間としてはマンガ業界はこれからどうやって新人を育成していくのか、少し心配になります。
 
 もちろん半減したとはいえ、まだまだ300万部近い部数をキープしている少年ジャンプや、120万部を発行する少年マガジンがある限り、これからもしばらくの間は新人が育成されるでしょうし、漫画コンテンツそのものも増えていくでしょう。
 
 また、マンガボックスのように新人作家の登竜門となるような試みや、Dモーニングのように雑誌とアプリのハイブリッドも生まれており、今後どのような形で収束していくのか目が離せませんね。
 

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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