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VRからハプティクス、ピクサーアニメまでデジタルメディアの今を知る「シーグラフアジア 2015」(前編)

2015.11.30

Updated by Yuko Nonoshita on 11月 30, 2015, 06:16 am JST

CGやインタラクティブ技術をテーマにした学会と展示会で構成される国際カンファレンス、SIGGRAPH(シーグラフ/Special Interest Group on Computer GRAPHics)のアジア版「シーグラフアジア2015」 が神戸国際会議場で11月2日から5日にかけて開催された。その模様を前後編でお伝えする。

過去最大のプログラム数で多岐にわたる先端技術と研究を紹介

毎年夏に米国で開催されるSIGGRAPHは1967年に計算機学会として始まり、今や世界最大にして最も権威のあるデジタルメディアとコンテンツに関するイベントとして認知されている。シーグラフアジアはそのアジア版として2008年から始まり、アジア地域が持ち回りで開催。日本での開催は2009年の横浜に続く2回目となり、全体の参加者数は49ヶ国から7,050人と横浜を10%上回る結果となった。参加企業数も12ヶ国91社にのぼり、展示会場では、ゲーム開発やアニメ製作、3DCGやVRなど、デジタルコンテンツ製作に関連する様々な出展が企業から行なわれていたほか、教育機関や自治体、アジア各国による展示ブースも見られた。

▼会場には想定を越える参加者が世界から集まり、満員で立見が出るカンファレンスや展示コーナーも多かった。
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同じく展示会場では、メディアアートやインスタレーション作品を紹介する Art Gallery が2年ぶりに開催。テーマ「Life on Earth?」に対して世界から134作品の応募があり、その中から20作品が展示された。また、世界最先端のインタラクティブテクノロジーを選抜して紹介する Emerging Technologies では29件のデモンストレーションが一同に展示され、実際にデバイスを体験できる貴重な機会となっていた。

▼会場では世界の応募から選出されたインタラクティブ技術やメディアアート作品などが紹介されていた。
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全体のプログラム数も過去最大となり、CGをはじめ、モデリングやレンダリング、コンピュータビジョン,ヒューマンコンピュータインタラクション,ロボティクス,VR、ARなど多岐にわたる技術や研究内容が発表された。専門テーマ毎の論文発表以外にも、IEEEによるSpecial Sessionや教育シンポジウム、日本語による公園や体験型のワークショップもあり、CG研究のパイオニアであるカーネギーメロン大学の金出武雄教授らによるパネルセッションや、MITメディアラボの石井裕教授と東京大学の暦本純一教授らトップ研究者4名によるトークセッションなど、業界全体を知る機会になるプログラムもいろいろ取り上げられていた。

▼SIGGRAPHが始まった頃から常にCG研究の最先端にいる教授らによるパネルセッションでは研究技術の歴史などが紹介された。
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注目のハプティクス(触感フィードバック)技術にはウェアラブル型デバイスも登場

様々な技術が発表された中で、今回最も興味深かったのが、バーチャルなCGシミュレーションが実際にあるかのように扱える「ハプティクス(Haptics)」と呼ばれる触感フィードバックに関する研究技術の発表だ。同技術は3DCGのモデリングや遠隔操作、VRコンテンツと連携し、応用範囲もアニメやゲーム制作から教育、医療まで幅広く、ディスプレイの向こうと現実をつなぐ役割を果たす。

開催地とあって日本の大学や研究所からの発表が多かったが、世界から見てもこの分野は日本の技術が突出しているようだ。スマートフォンやタブレットを使うものから、ペン、ボタンなどデバイスも様々で、今話題の指向性の高い超音波で触感を伝える技術なども紹介されていた。センサーやフィードバックの精度があがり、オブジェクトごとの形の違いが画面を触るだけでわかる技術も開発されている。中でもユニークだったのが、東京工業大学が発表していたから装着するウェアラブルタイプのハプティクスデバイス「SPIDAR-W」で、ワイヤーフレーム構造のデバイスで全身を囲み、VRHMDから見える仮想現実の中を歩き回ったり、そこにあるものを動かしたりできるという。

▼画面を触るだけでCGのテクスチャの違いがわかる技術は複数発表があり、かなり実用化が進んでいるようだ。
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▼ウェアラブル型のハプティクスデバイス「SPIDAR-W」は身体を動かしながら装着できるのが面白い。
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子供でも扱える手描きイラストがARになるルックアップマップ技術

VRやAR関連のセッションも人気が高く、実空間にVRやARを投影する技術の研究などが話題になっていた。面白かったのはディズニー研究所が開発している、タブレットで撮影した手描きイラストを自動でARキャラクター化する技術で、ルックアップマップと呼ばれる画像解析アルゴリズムを使ってフルカラーのキャラクターを3Dモデル化し、さらに不自然にならないようで関節パーツまで適切に生成されるというものだ。かなり高度な技術だが、アプリそのものは子どもでも簡単に扱えるという。このように技術の基礎となる装置やシステムの発表が多いのだが、これらが将来どのような形で実用、製品化されるのかが興味深い。

▼ディズニーの研究所が開発している手描きイラストを撮影するだけでAR化する技術はまるで魔法のよう。
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アニメーション作品を紹介もComputer Animation FestivalもSiGGRAPHの見どころの一つで、今回のシーグラフアジアでは世界中から集まった400近い応募作品の中から、デジタル表現による最も革新的で物語性の高い映像作品を厳選し、エレクトロニックシアターとアニメーションシアターで紹介された。実写のようにリアルで高精細度な映像から、キャラクターを3Dプリンターで1体ずつ出力したストップアニメーションなど、現在使われているありとあらゆるCGアニメ表現を見ることができ、優秀作品の監督が自らメイキングを紹介するプログラムも用意されていた。

▼3Dプリンターを使ったり高度なプログラミング技術を用いた演出など最新の3DCGアニメ制作技術を取り入れた作品が紹介された。
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▼アワード授賞作品を紹介するだけでなく、クリエイター自身が現場に参加しているのもシーグラフアジアの魅力になっている。
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基調講演には「インサイド・ヘッド」共同監督のRonnie del Carme氏が登壇

また、今回は全体的にピクサー関連のプログラムが多く、同社が開発したレンダリング用ソフトRenderManを紹介するデモが連日行なわれていた。基調講演には「インサイド・ヘッド(原題はInside Out)」の共同監督の一人であるロニー・デル・カルメン(Ronnie del Carmen)氏が登壇。1シーンを何年もかけて試行錯誤し、スタッフととことんアイデアを出し合いながら、数年の歳月をかけて1作品を作るピクサーの体勢があらためて紹介された。インサイド・ヘッドでは5つの感情をキャラクター化し、通常の映像表現でも難しい”作り笑い”のような複雑な心情をどう見せるかに挑戦しており、映像技術もさることながら物語性がいかに大切かが伝わる内容であった。

▼自身のプロフィールや日本の体験など交えながらアニメ作品にかける思いを紹介するロニー・デル・カルメン監督の基調講演はまるで作品のように引き込まれる内容であった。
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▼ピクサーではスタッフ全員が対等に対話を繰り返すことで作品のクオリティを高めるという。
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シーグラフアジアに参加してみて感じたのは、国際学会でありながら映像という身近なテーマを取り上げているせいか、一般や学生にもわかりやすいプログラムが用意されており、業界全体の情報収集や専門家との交流にはまたとない機会になっていたということである。交流に関しては地元有志で構成された神戸ローカルコミッティが毎日パーティプログラムを用意し、毎晩のように盛り上がりを見せていた。

▼神戸市や地元有志の主催によるパーティプログラムもイベントを盛り上げていた。
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引き続き後編では展示会場の内容を中心に紹介する。

【参照情報】
シーグラフアジア2015

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。

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