スケルトンボディーを採用した「センサネットワークモジュール」

アルプス電気 民生・新市場業務部担当課長 稲垣一哉氏(前編):IoT向けセンサーの量産実現に向け、センサーモジュールを提供しアイデアの熟成を促す

日本のIoTを変える99人【File.007】

2015.12.09

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 12月 9, 2015, 14:08 pm JST

電子部品メーカーとして名を知られるアルプス電気。スイッチや可変抵抗器はもとより、センサーや通信モジュール、アクチュエータなど多方面の部品を手がけている。IoT社会を実現する際に求められるセンサーや通信モジュールを製品ラインアップに連ねるアルプス電気は、IoTをどのように捉えているのだろうか。アルプス電気でIoTビジネスの第一人者として新規事業を牽引する営業本部 民生・新市場業務部1G 担当課長の稲垣一哉氏に、「部品メーカーにとってのIoTとは何か」を尋ねた。

アルプス電気 民生・新市場業務部担当課長 稲垣一哉氏

稲垣一哉氏(いながき・かずや)
1997年にアルプス電気に入社、PHSの位置情報システム、PLC(電力線通信)、5GHzの無線システムなど、主に通信関連の事業に関わり、2006年〜2008年ボストンに出向し、MITとの産学連携などを担当。帰国後はMEMSなどのセンサー事業の立ち上げに関わる。2012年からは無線電力伝送やセンサーネットワークなど、エネルギー関連のプロジェクトを歴任し、現在はIoTを中心に民生・新市場の事業開発と産学官連携を担当する。

「IoT」という言葉が広がっています。これは最近登場した言葉ではありますが、それほど新しい概念ではないというのが私の考え方です。様々なモノがネットワークにつながる社会についての考え方は20年も前から多く語られてきましたし、アルプス電気では2000年ごろからPHSの位置情報を使ったソリューションに取り組んできました。今、IoTと名づけられて注目されていることの本質は、「20年前に語られていたことが、ようやく現実のものになる」という部分ではないでしょうか。

当時も、様々なモノをネットワークにつなぐことで、新しい社会を作ろうという考え方はありましたが、それは大学の先生やテクノロジーに敏感な人たちが中心だったことも事実です。現実問題として、20年前には私たち部品メーカーにとって、現在IoTと呼ばれているソリューションは難しい課題でした。語られていた理想を現実化するためには、多くのハードルがあったのです。

例えば、コストや大きさが具体的な課題としてありました。コスト面を見ると、2000年ごろにPHSの位置情報ソリューションに取り組んでいたときには、ネットワークにつなぐための1つの電話番号を維持するのに月額2000円を切れませんでした。それが、無線ブロードバンドの普及した今ならば数百円で電話番号を維持できます。加速度センサーも2000円といったオーダーでしたが、今では1ドル以下で手に入ります。MEMS(微小電気機械システム)によりセンサーそのものの大きさも小さくなり、装置に組み込みやすくなったこともあります。そしてスマートフォンの登場が、通信からデバイスまでのコストや大きさといった制約要因を一気に払拭しました。20年前の思想に、量産化としてのテクノロジーが追いついてきたと言えるでしょう。

繰り返しますが、「IoTはあまり新しいことではない」のです。急に出てきた斬新なコンセプトではなく、ずっと実現しようとしてきたこと。以前からあった理想が現実のものになってきたとき、「IoT」というキーワードとしての名前が付いたと考えれば良いでしょう。コスト低減とデバイス小型化により、広い業界にとってのリアリティーが出てきたことが、20年前、10年前との大きな違いです。

具体的な商売に直結しにくい「センサーと通信」事業を変革する

アルプス電気は、電子部品や車載情報機器の事業を手がけており、様々なセンサーや通信モジュールを開発、製品化し提供してきました。そうした中で、センサーと通信モジュールがあるのだから、それらを組み合わせた「センサーネットワーク」を事業に取り込んでいこうと考えるのは自然なことです。新しい事業領域として、組み合わせ技術で価値を創造していくというわけです。私たちのビジネスにとっては、センサーネットワークは比較的ベタなテーマとも言えるのです。

ところが、これがなかなか商売につながらないのです。センサー技術としては、磁気センサー、抵抗センサー、静電容量センサー、ピエゾ抵抗センサーなど、様々な技術を持っていますし、内外で確固たる地位を占めていると自負しています。そこで、センサーと通信モジュールを組み合わせて様々なセンサーノードを作りました。例えば家庭のエネルギー管理を実現するHEMS(Home Energy Management System)向けに、電流センサーモジュールを作ったり、コンセントに挿すだけで使用電力がわかるスマートタップを提供したりしました。すると、ものすごく多くの引き合いがあります。しかし、引き合いは膨大な数に上るものの、その先に私たちのビジネスとミートする案件につながらないのです。いろいろなお話はあるものの、実際のビジネスにならないわけです。

私たちは部品メーカーなので、数が少ないと対応できません。1つの仕様で多くの製品を作ることで、量産メーカーとしてのビジネスが成立しています。一方でIoTに取り組もうとしている方々は、センサーだけでなくてソフトやきょう体も含めてセットでの提供を求められることも増えてきています。さらに、多くの引き合いは案件ごとに仕様の差があり、それぞれ個別での対応では量産できるだけの数にいたりません。気持ちは強く感じるのですが、お客さまのIoTに関するニーズと電子部品メーカーである私たちの体制の間には、大きなギャップが見えてきたのです。

こうした状況に手をこまねいてはいられません。産業の構造がサービス化へと大きく変わってきていると感じますし、何もしないでいたらビジネスの変革に付いていけないリスクがあります。それではIoT向けの電子部品のニーズはどこにあるのだろうか。業界と実現時期を軸にしたマップで引き合い動向を分析すると、現時点では小規模なビジネスが広汎な業界に分布しており時期的にも連続性がないことが見えてきました。量産メーカーとしては、大きなプロットが連続しているとビジネスになりやすいのですが、小さくバラバラのプロットではビジネスへの落し込みが厳しいわけです。でも、広く引き合いがあるのは事実ですし、今後に向けて「何かある」ことも間違いないでしょう。鶏が先か卵が先かわかりませんが、具体的に何かを始めないと前に進みません。

そこで、たたき台とし一歩進めることにしたのが、「センサネットワークモジュール」の開発、提供でした。IoTに対する現状は、「案件ごとに仕様がバラバラ」「きょう体やソフトを含めた対応が求められる」「案件ごとの数量が少ない」「価格要求は厳しい」「新規顧客の引き合いが多い」「使い方のイメージは明瞭」--と分析しました。個別要件としての希望に完全に対応するのは不可能です。そこで、仕様をすべてカバーするのではなく、最大公約数的に「75%カバーを目標」にしたのが「センサネットワークモジュール」です。きょう体付きで電池で駆動し、Bluetooth Smart通信用のアンテナまで内蔵することでスマートフォンとの接続までが専用アプリで実現できる開発キットです。

コンテキストをミックスすると違うものが見えてくる

アルプス電気の製品は基本的にB to B向けなので、価格はお客様の仕様や数量ごとの個別見積もり対応になります。しかし、「センサネットワークモジュール」はとにかく試してもらえるように、標準開発キットとしてリストプライスを表示してWebで販売を始めました。必要な数量だけの購入が容易になるわけです。10月から9800円で販売したところ、大きな反響を得ています。

スケルトンボディーを採用した「センサネットワークモジュール」

スケルトンボディーを採用した「センサネットワークモジュール」。左手前がセンサー部分、右奥にコイン電池がある

個別の案件に100%は対応しきれませんが、標準的に使えるノードとして「センサネットワークモジュール」を提供することで世の中の状況を変えていけるのではないかと考えています。自由な発想で、新しいアプリケーションを作ってもらえたら、そこから新しいビジネスが広がっていく突破口が開けるのではないでしょうか。

「センサネットワークモジュール」には、6軸(加速度+地磁気)、気圧、温湿度、UV・照度の各センサーが内蔵されています。通信に使うBluetooth Smartモジュールはアンテナも内蔵し、コイン電池で長時間動きます。同種のセンサーモジュールでは、アンテナが別体になっていることも多いのですが、通信技術評価設備までは保有していないお客さまも多いことから、TELEC(一般財団法人テレコムエンジニアリングセンター)の技術基準適合証明を取得し、すぐに使える形で提供しています。

きょう体は、あえて透明のスケルトンボディーを採用しました。センサーの本体はごく小さくほとんどが電池の大きさであること、地磁気センサーなどに影響がある電池をセンサー部分から最も離していることなどが、ひと目でわかるようにしているのです。

スマートフォン用のアプリも用意しているので、「センサネットワークモジュール」と接続するとセンサーデータのログを記録、表示させたり、グラフに示したりすることもできます。また、開発用としてセンサーデータを取得するサンプルアプリケーションのソースコードも添付して提供することで、アプリケーション開発期間を短く出来るのではと期待しています。

アルプス電気 民生・新市場業務部担当課長 稲垣一哉氏

私たちアルプス電気からの提案は、「センサネットワークモジュール」を試すならば、ぜひモジュールが備える複数のセンサーのデータを組み合わせてみてほしいということです。例えば、湿度と気圧センサーのデータを組み合わせて見れば、「湿度が上がり、気圧が下がる」となると、「雨が降るのではないか」といった分析ができるわけです。このようにコンテキストをミックスすることで、センサーを通して今まで見ていたものとは、違う世界が見えてくるのではないでしょうか。そうすることで、センサーを活用したIoTの新しいアプリケーションが生まれます。そしてセンサーが広く多く使われるようになれば、部品メーカーとしても新しいビジネスが広がると考えています。

後編に続く)

構成:岩元直久

WirelessWire Weekly

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