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末端の人間は不真面目でいい

The bottom end shall not work too hard

2015.12.11

Updated by Mayumi Tanimoto on 12月 11, 2015, 13:33 pm JST

ニューヨーク在住の文芸エージェントである大原さんとの往復書簡という企画が始まりました。

大原さんがロンドンのブックフェアにいらした際には、天井が崩れかけており、カーペットはシミだらけ、他の客は寝てるのか死んでるのかよくわからないという場末のパブで、レンジでチンしたフライドポテトと肉を無理やり食わせながら、延々と萌えとか同人について一方的に語るという嫌がらせの限りをつくしました。

さて今回は

副次権ビジネスのすすめ

への返信でありますが、出羽の守の我々がつい日本の悪口を書いてしまう理由は、アメリカとイギリスの飯が不味すぎるからです。

ワタクシは独り言をブツブツ呟いているおっさんがいる場末のマレーシア料理屋で、激しく現地化してしまった偽マレーシアカレーを赤子に食わせながら、はま寿司のフライドポテトがいかにうまかったかについて、一時間ほど夢想していたのです。回転寿司のフライドポテトで夢想一時間です。なんと安い人間でしょう、ワタクシは。

ところで、みなさん、はま寿司サイゼリヤもおすすめですよ。ワタクシはヤンキーだらけの貧乏街出身ですので、なんだかんだ言ってそういうのが一番落ち着くのです。一皿200円の刺し身を頼むのに家族で悩むのです。そういうところです。

ところで回転寿司のフライドポテトは一皿100円ぐらいです。今時そんな値段で揚げたてカリカリ、清潔な皿に乗ったポテトが食べられる先進国は日本ぐらいの話で、ハンガリーとかブルガリアとかエリトリアみたいなダメ国家にいっても、そのレベルの味に清潔度で、そんな安い外食はないのです。日本では外食に限らず価格に対して質が高すぎるものが多すぎるのです。

文房具、パンツ、乳バンド、毛抜き、耳かき、えびせん、赤子の鼻汁吸い取り機、小麦粉、醤油のパック、ワタクシが日本で爆買いするものですが、生活用品のほとんどは日本で買ってイタリアやイギリスに送ってきました。輸送料払ってもその方が安いからです。日本の外の先進国は賃金が上がっていますが、日本だけ下がっています。ものの値段も下がっています。

今や日本はお買い物天国です。

5000円で泊まれる清潔なビジネスホテル、一パック158円のお惣菜、一つ480円のとんかつ弁当、一パック127円のポテチ、家族4人で食べて4000円も行かない回転寿司、一冊98円の高品質なノート、一つ980円のセラミックのハサミ、1890円のよく切れる包丁、一杯たった800円のラーメン。そんな安いものは先進国のどこを探してもありません。

大原さんがご指摘のように、日本の書籍や雑誌というのも、値段に対して質が高すぎる商品の一つです。

カバーのデザインから花布(はなぎれ)まで、匠の技を駆使して美しく読みやすく装丁され、お値段も良心的な本が読み切れないほど並んでいます。しかしながら、それらの多くは読まれることもなく(日本の書籍の返品率は40%超、雑誌に至ってはさらに多い)取次に送り返され、裁断されてしまう……。

消費者の要求が高すぎるので、企画担当、編集者、ライター、デザイナー、レイアウト、校正、営業、電子版担当、印刷、配送、書店店員と、書籍業界のバリューチェーンに関わる全ての人の負荷が高くなります。しかし商品の値段が安いので入ってくるお金は少ない。関係者の報酬は少なく、働かなければ銭が入ってこないので休みも取れない。

そして待ち受けるのは早死です。

これは通信やITの世界でも同じで、日本は国内の客の要求に応えるために、異様に質の高い製品やサービスを提供します。しかし、客はそこまでのものを求めているわけではなく、安くて適当な製品やサービスで十分だという人も大勢います。私は客とサービス提供側の間に立って、サービス品質の調整をやるという仕事をしてきましたが、日本側は本当に客の要求を理解できていません。外国の客は日本レベルで高度なことは求めていません。契約書に書いてある以上のことはやらなくていいんです。

中韓とか東欧の会社はその辺りの読みがうまく、実に合理的というか、無駄なものはバンバン捨てますし、大胆な手抜きをやってスピードを取ります。クレームが来ても言いくるめます。馬鹿正直に対応しません。狡猾というか不真面目というか。しかしそういう不真面目さがないと、動きの早い世界ではボコられてしまうのです。

そもそも日本だって、マンションの発注元も役所も原発を回している会社も、手抜きばっかりです。言いくるめ方は中韓なんか真っ青ですね。末端の人間が多少手抜きしたって誰か死ぬわけじゃないんですから、不真面目になりましょう。

※この投稿への返信は、マガジン航[kɔː]に掲載されます


今回から始まる連載企画「往復書簡・クールジャパンを超えて」は、マガジン航[kɔː]とWirelessWire Newsの共同企画です。マガジン航側では大原ケイさんが、WirelessWire News側では谷本真由美さんが執筆し、月に数回のペースで往復書簡を交わします。[編集部より]

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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