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あうんの呼吸で対話する人工知能「Aung-AI」をどうデザインするか? -シンギュラリティ・サロン第11回公開講演会リポート-

2015.12.28

Updated by Yuko Nonoshita on 12月 28, 2015, 16:58 pm JST

国内で人工頭脳に関する研究に携わる有識者を招いた「シンギュラリティ・サロン」第11回公開講演会がグランフロント大阪のナレッジサロンで開催された。

主催する「シンギュラリティを語る会」は、世界が注目するシンギュラリティ(技術的特異点)を日本からいち早く生み出そうという意欲的な目的の元、神戸大学の松田卓也名誉教授が中心となって設立されている。2014年の立ち上げからほぼ毎月開催され、毎回教授が注目するキーパーソンが講師として招かれ、ユニーク且つ興味深い話題が取り上げらるのが特徴だ。

▼講演会の開催にあたり「シンギュラリティを語る会」について紹介する主宰者の松田卓也名誉教授。
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過去には、マツコロイドの開発で知られる大阪大学の石黒浩教授や、最先端のスーパーコンピュータ・チップを開発するPEZY Computingの齊藤元章氏らが講師として招かれている。今年最後となる今回は、電気通信大学やドワンゴ人工知能研究所客員研究員として人工頭脳の研究に携わる栗原聡教授が招かれ、「加速する人工知能研究の未来」というテーマで発表が行われた。

教授はこれまで、人工知能と脳型情報処理、複雑ネットワーク科学の研究開発において、次世代高度道路交通システムや情報拡散によるデマ・流言問題、さらに防災、農業など幅広い分野で関わり、膨大な情報をデータマイニングしながら暗黙知の抽出することなどを行ってきた。現在は、場の空気を読む人工知能の研究をシステムレベルから行い、人と心地よい対話ができる人工知能「Aung-AI」の開発を目指している。

対話できる人工知能というとSiriなどを想像するが、人の質問を予測、分析して的確な答えを返すというのではなく、会話やジェスチャー、仕草といったマルチモーダルなインタラクションを通して、会話に引き込まれるアトラクタと言える状態を生み出すことを目指している。アトラクタが生み出された状態は数値として視覚化することが可能であり、こうした発想自体はかなり以前から考えていたもので、ようやく実際に開発できるぐらいに時代が追いついてきたともしている。

▼”場の空気を読む”人工知能システム「Aung-AI」の開発に取り組む栗原聡教授は、心地よい会話を生み出す状態を数値化することで人工知能に取り入れることができるのではいかと説明する。
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人工知能をデザインするアイデアは大きく3つある

世界で巻き起こっている人工知能の研究開発競争は、いわゆるブームと言えるもので、GoogleやMicrosoft、トヨタ以外にもチェコのGoodAIや、パーソナル人工知能を開発する日本の株式会社オルツのようなスタートアップも数多く登場している。国内の研究所としては2014年10月のドワンゴ人工知能研究所をはじめ、15年4月に千葉工大とリクルート、8月には慶応大も設立を発表している。

▼今年に入って世界中で人工知能の研究開発が進み、いろいろな関連ビジネスも立ち上げられている。
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栗原教授が理事を務める人工知能学会は来年30周年を迎えるが、会員数がここ数年で倍増しているという。実は人工知能のブームがやってきたのはこれで3度目だが、前回と違っているのはブームになるための条件が揃っていることで「ディープラーニングもいきなり出てきたのではく、GPGPU(General Purpose computing on GPU)などのハードアクセラレーションの機能が向上し、ビッグデータを捌く基盤として活用するための研究開発がいろいろ進んでいると理解すればいい」と説明する。

人工知能のデザインとしては「インタラクションができる感情や意識を持つAI」「学習の追加と再利用が得意な汎用AI」「科学的発見に基づくスーパーAI」という大きく3つがあるのではないかと分析。こうした中から人工知能を越えるスーパー知能、すなわちシンギュラリティが生まれるのではないかと見ている。

▼AIのタイプは大きく3つあり、そこからシンギュラリティが生まれるのではないかと分析されている。
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脳をコピーするのではなく鍵になる動きをモデル化する

最近よく見られるのが、人の脳全体のアーキテクチャを元に人間のような汎用人工知能を創るという工学的な発想である。だが、栗原教授自身は「脳のコピーを作っても意味がない」と考えており、「そもそもコンピュータと人間の手の考え方は異なっているのだから、スピードも信頼性も遅いヒトの脳が、高速コンピュータと対等に渡り合えるのは何故か?と考えるのが鍵になるのではないか」と見ている。その鍵とはネットワークとスケールの2つであり、小さな発火だけで膨大な情報を処理し、伝えるために脳で何が起きているかを考えることが必要だというわけだ。

ヒントとなりそうな要素の1つが「スモールワールド」で、全く知らない相手に知り合いだけを通して郵便物を届けると平均で5.5ステップになるという、日本語では「六次の隔たり」として知られるものである。つまり、処理速度を大幅に短縮する複雑なネットワークが脳内にあり、そこへ人工知能で実現しようとしているスケールフリー性を取り入れ、なおかつ生命が持つ階層構造そのものがクリアになれば、新しいシステムが開発できるかもしれないとのことだ。ただし、現状の多くの研究開発はこうした発想が取り入れられていないので、実現するかどうかは判断しにくいともしている。

▼スモールワールド性とスケールフリー性の両方を取り入れるアイデアとして提案している。
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人工知能の作り方についても、脳のパーツを完成させて後から組み合わせるという現在主流のトップダウン型では、モジュールを結合する場合に問題が生じる可能性があるといい、それよりも成長しつつ自己組織化するという発想のボトムアップ型のデザインがいいのではないかとしているが、前者の方が研究開発として先行する確率は高い。いずれにしても、実際に作って、動かして、改良しなければ、競争には勝てず、手をこまねいていては全てアメリカに先を越されることになりかねない。

共進化やフレンドリーなAIこそがこれから求められる?

全体のまとめとして、今後の研究開発の課題には、感情の生成をどうするのか、学習の転移や改良、組合せをどうするのか、また開発の目的はどうするのかといったことをあげている。人工知能を開発するためのツールやデータが揃い、具体的なアプリやシステムも登場している中で、AI脅威論なども出ている。倫理規定やガイドラインづくりは必要でイーロン・マスクらがすでに始めているが、アメリカだけの考え方で進めることには疑問があるという。学会にも倫理委員会はあるそうだが、これから議論をどう行っていくかについてはまだ難しそうな状況だ。

今回の講演会の内容は、ディープラーニングの研究から人の意識をどう捉え、取り入れるかといった話まで拡がっていったが、最後に栗原教授が語った「人工知能を正しく成長させるには、自我の埋め込みといった生存本能を取り入れるという発想や、共進するフレンドリーなAIを登場させるなど、ナイーブな考え方をしたほうがいいかもしれない」というコメントが印象に残った。人工知能というと、どうしてもロボットやターミネーター的な機械工学的な発想で研究開発が進められているかのように考えられがちだが、実際には生命や感情、倫理についても深く考えられており、重要な要素になっているのがよくわかる講演であった。

▼これからの人工知能の研究開発で鍵になるのは「自我」なのかもしれない。
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▼栗原教授は学会誌の編集長も兼任しており、最新号とバックナンバーはAmazonからKindle版で購入できる。
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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。