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感情を持つ機械が、人間に抱く感情 -「her/世界でひとつの彼女」「ブレードランナー」に見る2つの未来

想像する映画、創造する技術 #5

2016.01.08

Updated by Masato Yamazaki on 1月 8, 2016, 17:00 pm JST

コンピュータの正常進化?

朝の通勤電車。吊革に体を預けながら、スマートフォンのニュースに目を落とす。ふと目をあげると、視界に入った人、ほぼ全員がスマートフォンを操作していた。そんな光景が、ありふれた日常となって久しい。自分もその一部なのだが、たまに、無性に抵抗したくなり、本を読んだりしている。しかし、冷静に考えると、暇つぶしの方法としては、大差はない。むしろ同じともいえる。それでも何となく心がざわざわするのは、マスゲーム的な風景のせいだろうか。もしくは、フォンと名の付くものは耳に当てよ、という先入観でもあるのだろうか。

そんなことを考えているとき目にしたのが、完全ワイアレス超小型イヤホン「EARIN」(2015年12月発売)である。このケーブルの一切ないイヤホンを見たとき、スパイク・ジョーンズ監督作品『her/世界でひとつの彼女』(2013年公開)の世界が、すぐそこまで来ていることを確信した。

1000570252_j1_1b352988-211x300Photo courtesy of Warner Bros. Pictures
Photo by Merrick Morton
(C) 2013 Untitled Rick Howard Company LLC All Rights Reserved.

本作では、人々はスマートフォンをのぞき込んでいない。ワイアレスイヤホンを耳につけ、音声認識機能により携帯型コンピュータを操作している。携帯型コンピュータは、現在のスマートフォンより、ひとまわり小さいサイズの折りたたみ式である。折りたたみ式なのは、必要な時にしか画面を見ないからで、携帯型コンピュータに語りかけると、ニュースを読みあげたり、メール操作をしてくれる。路上でも電車でも、みな小声で何かをつぶやいている様子は異質ではあるが、うつむき加減の歩きスマホより、前を向いてる分、健康的な気もする。

人間が文章を読む時間の、おおよそ8割が「文字を探して追う」という眼球運動に費やされているそうなので 、口と耳で操るコンピュータは、理に適った進化といえるであろう。

デスクトップコンピュータにもキーボードはなく、VR(仮想現実)ゲームも声と身振り手振りで遊ぶ。コンピュータは、操作するというより会話を楽しむ相手となっている。キーボードからタッチパネル、そして音声とインターフェースは進化し、最後は脳波へと道は続いていくのであろう。

本作で描かれるのは、主人公「セオドア」と、世界初のAI(人工知能)型OS「サマンサ」のラブストーリーである。現実離れした風景や人物が登場しないため、既視感があり、明日にも目の前に現れそうな雰囲気がある。また人型コンピュータが登場しないのもポイントだろう。人型は、自分が人である分、評価が厳しい上に、どうしても警戒してしまうきらいがある。いっぽう、サマンサはOSなので、コンピュータの中にいるだけであり、強いていえば箱である。人と箱の恋というのは、不自然にも思えるが、ゲームの延長線上にあると考えれば敷居は低い。人と箱の恋と言ってしまうと色気はないが、心と心という内面からみれば自然だし、障壁を越えた恋は、ロマンティック感が増しているともいえる。

そう考えると、アンドロイドやロボットが人間に近づこうとする姿に比べ、AIがコンピュータという姿のままで簡単に人間を超えていく様子は、コンピュータの正常進化のように思える。擬態を試みるより、よほど自然なのではないだろうか。

サマンサは、直感的に会話をし、セオドアを理解していく。人間の想像力がコンピュータを進化させていき、自分に最適化されていると思っていたコンピュータは、徐々に社会に最適化されていく。

人間の場合、社会化が進むと自立が促進される。近い将来、コンピュータが自立したとき、人間に対して、どのような感情を持つのだろうか。それは、果たして「感情」なのだろうか、「プログラミング」なのだろうか。

近年のディープラーニングの盛り上がりにより、AIは俄然、真実味を帯びてきた。これまでのコンピュータは、人間がコンピュータに知識を与えることで高度化してきた。ディープラーニングでは、経験によりコンピュータは自ら学び、理解を深めていく。まだ完全に自ら学ぶ域には達していないが、そこに到達したとき、24時間戦い続けられない人間と、24時間戦えるコンピュータ、世界中のネットワークと繋がっているコンピュータと、その一部分を利用しているに過ぎない人間では、どちらが正確に世界を判断するのか、答えはみえている。

そうなると、人間が正しい判断をしているか、していないかにより、コンピュータの態度は変わるであろう。正確であることはコンピュータが補助してくれる。人間は、正しさを磨かないと、機械に無視される時代がやってくる。イーロン・マスクが、人工知能が悪い方向へ進まないことを望むコメントを発表するのもわかる気がする。

レプリカントが感情を持ったとき

AIではないが、人間が造り出した、自立した存在が登場する映画に『ブレードランナー』(1982年公開)がある。SFの金字塔のひとつとしてファンも多い映画である。

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A LADD COMPANY RELEASE IN ASSOCIATION WITH SIR RUN RUN SHAW THRU WARNER BROS.
A WARNER BROS. ENTERTAINMENT COMPANY.TM & (c) THE BLADE RUNNER PARTNERSHIP.
ALL RIGHTS RESERVED.

遺伝子工学の進化により開発された「レプリカント」と呼ばれる労働用アンドロイド(人造人間)は、過去の経験がないため、感情に関する能力は劣るが、その他は人間と同等、もしくはそれ以上の能力を持つ。しかし、数年経つと感情が芽生え、反乱を起こすレプリカントが現れる。

本作は、レプリカントを処刑する権限を持つブレードランナーと、レプリカントの戦いと葛藤、そして恋の物語なのだが、ここでも、人間が造り出したものが持つ「感情」に焦点があたる。

人間そっくりにも関わらず道具として扱われるレプリカントが感情を持ったとき、正しさとはなにか、正しい判断をしているのは誰かを考え始める。

『her』では、世界は正常に保たれ、人間が作り出したAIは、コンピュータとして成長する。人間とコンピュータが共存する社会が描かれている。

『ブレードランナー』では、走る車と飛ぶ車、公衆電話、音声認識コンピュータも旧型の戦場無線機のような形をしているなど、混沌として薄暗い未来が描かれ、人間が造りだしたレプリカントは、人間を意識し、敵意を示す。

人間が壊した世界は、まるで進化が止まったようにもみえる。ゆえに、いっそう、『her』の世界が正常進化に思えてくる。ブレードランナーは、科学は進化するが人間は進化していない世界でもある。破滅をともなう進化であり、進化の末の破滅だと言ったら、言い過ぎになるだろうか。

アンドロイドやAIを人間に近づける、人間を目指す、ということを望むのは人間であり、アンドロイドではない。進化の方向性としては、もろ刃の剣なのだと思う。

感情を持った機械は、人なのか機械なのか。AIや遺伝子工学の進化がもたらす新しい存在との関係を真剣に考える時期が、そこまで来ている。あいまいさを理解できるから人間は優れているなどという幻想は捨てた方がよいだろう。コンピュータはすでに、あいまいとは何かを考え始めている。

近い将来、機械と心を通わせる時代がくるだろう。機械の気持ちに振り回されたりするに違いない。種を越えた優しさや正しさとは何か。リアルとは何か。考えることは山のようにあるが、コンピュータほど、うまく考える自信はない。

余談だが『her』でOSサマンサの声を担当した、スカーレット・ヨハンソン出演の『LUCY』という映画がある。通常は10%程度しか機能していない脳が100%覚醒し、脳がコンピュータ並に機能すると、結果…。というストーリーなのだが、サマンサを思い浮かべながら観ると、違う気づきがあるかも。

また、スパイク・ジョーンズは東京が好きらしいし、『ブレードランナー』には、あやしい日本の風景がたくさんでてくる。日本は好かれているのか、不思議がられているのか。はたまた怪しい異国なのか。作品が表しているのであれば、答えは…。

「her/世界でひとつの彼女」「ブレードランナー」の作品情報はこちら

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山崎 雅人(やまざき・まさと)

通信会社社員。まじめに通信の未来を考えるかたわらで、IT初心者、小規模事業者のみなさまに気軽にITを活用して頂くための活動を推進しています。はじめてWEB経理通信Cloud Blogなども展開中。
※本文は個人としての発言であり、所属する会社等とは一切の関係を持ちません。

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