capture image: Remote Experience Sharing for cosmetics(OPTiM)
株式会社オプティム代表取締役社長 菅谷俊二氏(後編)IoT革命は見えないからこそ生活にインパクトがある
日本のIoTを変える99人【File 010】
2016.01.29
Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on January 29, 2016, 08:00 am JST
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日本のIoTを変える99人【File 010】
2016.01.29
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IoTやドローンは「無農薬・減農薬は手間がかかるから価格が高い」という農業の常識を変えられるポテンシャルを持っている。ともすれば見えにくく「バズワード(流行言葉)」と言われてしまうIoTは産業を変えることができるのか。引き続き株式会社オプティム代表取締役社長 菅谷俊二氏に聞く。
IT農業に取り組むにあたって重視しているのは、現在の農業に汎用的なインパクトを与えることです。IT農業というとしばしば「植物工場」という事例が出てきますが、あれは初期投資がかかりすぎますから、ファンドや植物工場を作って儲かるハードメーカの世界になりますし、今農業に従事している人には「関係ない」話になってしまう。そうではなくて、現在行われている、露地物が中心の農業に従事している方の作業を、100から90、80いずれは30、20へと減らして効率化するのです。だからこそ農業が主要な産業である地域にある大学や県とやっている意味も出てきます。
実証実験の一部は農家の方々にもお手伝いいただいており、とてもいい反響をいただいており、また多くの事を教えていただいております。ただその方々は、佐賀大学大学院の農業技術経営管理者コースを受講されていた方で、もともと新しい技術を取り込むことに貪欲、あるいは敏感な方ですので、普及していくためには一般の農家の方々にどう受け入れていただけるかが課題です。
佐賀県はアスパラガスの単位面積あたり収穫量が世界一という実績があります。その技量を持つ人材を育てていくことが地域の課題なのに、現実には担い手が不足していて後継者が育たない。農業の課題はまさにそこにあって、農業は3K産業と呼ばれてイメージが悪く、若い人が就農してくれない。
「楽しく格好良く稼げる農業」というキャッチフレーズは、農学部の渡邉学部長が、「ドローンとビッグデータ活用で稼げる農業にできれば、若い人が働いてくれるようになる」と考えて発案されました。ドローンありき、ビッグデータありきのITから発想するのではなく、現実のフィールドで産業をささえている方の課題を解決する、そのためのIoTだと考えています。
農業のような、デジタル化がこれまで弱かった産業領域では、全てを自動で記録できるIoTが大きな役割を果たします。
例えば、畜産では、「動物の体温管理」というのが、病気の個体を発見するために重要です。とはいえ全ての動物に体温センサーを入れていくのは大変です。これを、サーモスタット型のカメラ画像で畜舎にいる動物全てを常時監視しておけば、体温が上がった個体、すなわち病気の疑いのある個体を発見できます。鳥インフルだって、最初の1羽を発見して迅速に隔離できれば全頭殺処分なんてことは不要になります。そうなれば、養鶏農家の収益は大きく改善します。(殺傷される鶏もかわいそうです)
記録したデータを活かすには、データを解析するプラットフォームが必要です。連携を通じて農業ビッグデータを解析できるプラットフォームを構築し、そして、佐賀県の皆様と協力して世界で最も多くの農業に関するビッグデータを、ドローン、センサーなどのあらゆるIoT機器で収集し、そして現在も取り組んでいるように世界でも有数の知識と経験とアイデアを蓄積されている佐賀大学農学部の先生方、佐賀県試験場の研究員の方々と繰り返し仮説を立て解析を行うことで、3年後には、佐賀県にITテクノロジーと農業に対する叡智が集まり、世界一の先進県になることを確信しています。
IoTとはバズワードだと言われますが、あらゆる革新的なIT技術は最初そう言われます。でも、パーツとなる技術が一定の臨界点を超えた瞬間に、一般消費者から見ても心地いいものとして一気に生活の中に拡散していきます。例えば、スマートフォンも出た当時は皆さん「どうせ日本はガラケーが進んでいるから普及しない」と言っていましたが、ある時から一気に広がりました。
臨界点を超えるためには、メディアによって認知度というパワーを与えてもらう必要がある。だから、IoTがバズワードだということを私は悲観していません。このタイミングを利用してIoT化を進めていくことで、もっとさまざまな産業を変えて、生活を豊かにしていければと思います。
そもそも当初、日本で多くの革新的IT技術がバズだと言われるのは、使い方を考えていないからだと思います。タブレットがまさにそうで、「流行したから買いました」で終わってしまう。このままではドローンやウェアラブル、IoTもそうなってしまいます。ドローン空撮で動画撮影が流行しているといっても、うちが作るまで動画解析プラットフォームが世界中のどこにもなくて、巨大なMPEG4ファイルをそのまま見るしかなかったのですから。
インターネット革命は消費者に分かりやすい形で進んできましたが、IoTはB2Bを先に変える革命だと思っています。見えないところで「気がつけば変わってしまっている」のでしょうし、分かりにくいからバズワードだと言われているのでしょう。でも、確実に変わってきているし、一気に変わりつつあります。どこかで臨界点が来て、あらゆるデバイスがネット接続機能を当たり前に持つようになるでしょう。
農家でも各作業の農作業機器の機械化は著しく進んでいますが、しかし作業を全自動化しても、ネットワーク化は進んでいません。これからあらゆる機器がネットワーク化されることで、ハードウェアが単体で機能するだけでなくソフトウェアが多くの領域を担うことになり、大きく変わってくるのではないでしょうか。それが楽しみです。
実現に至るまでは細かい法規制はありますが、そんなことは圧倒的な利便性が提供できれば必ず変わります。逆に、我々にそれが提供できなければ、スイッチングコストが大きいから普及しない。過去の歴史もそうでした。
B2Bを変えるということは、生活そのものを変えるということです。IoTで無農薬栽培が実現できたといっても、消費者にとってはIoTなんてどうでもよくて、「無農薬野菜が安く手に入るようになった」あるいは、「野菜は無農薬が当たり前」、「野菜って以前は農薬をまいて育てていたんだね」と思う人が大多数になることが重要です。コンピューターの世界から見て分かりにくいからこそ、生活にはすさまじいインパクトがあります。
現在の我々が産業革命という言葉を聞くと、えんとつから煙がもくもく出ていて、すすだらけになって働いている方々がいるような絵が浮かんできます。いつの日か未来の子供たちは、農薬を使用して農作物を育てている現代社会に同じようなイメージを抱くようになるかもしれません。
私達が目指しているのは産業にITを掛け合わせることによって生まれるイノベーションです。AppleやGoogle、マイクロソフトなどが今、データアナリティクスといって人材をたくさん採用していますが、今、アメリカで一番データアナリストを採用しているのは金融業界だと聞いたことがあります。彼らは自分たちの事を、「銀行業ではなく、銀行業免許を持っているIT屋」だと思っています。時代は既にそう変わっています。
IT屋には物事をロジカルに考える癖がついています。テスラモーターズがその典型で、彼らはITの考え方を持って車を作っています。オプティムは、ITの考え方を持って、新たな産業を既存の産業界の方々と融合して創り出すことに取り組んでいます。
佐賀の取り組みは「農業×IT」ですし、先に紹介したスマートコンストラクションは「建設×IT」です。またほかの分野でも○○×ITに取り組んでいます。「コスメ×IT」では、シミュレーション技術とリモートテクノロジーを活用して、メイクアップアーティストからリモートでメイクアップの指導が受けられるシステムを開発しフランス、パリで発表しました。
「医療×IT」では、医療情報プラットフォームを運営するMRTと組んで、ライブ映像を使った遠隔医療相談サービス「ポケットドクター」の展開を開始します。スマートフォンで相談したいことを登録すると、複数の医師が休憩中などの空き時間に回答してくれるサービスで、顔色や患部の様子をスマートフォンのカメラで医師と共有することによってより的確なアドバイスが得られます。日本初の本格的な、かかりつけ医による遠隔医療サービスを提供することができ、セカンドオピニオンや僻地医療などのソリューションへと展開できます。未来の子供たちは自宅でお医者さんに診察していただくのが当たり前という社会に生きていると思います。
オプティムはあらゆる産業と融合し、ITの考え方であらゆる産業を変革する「○○×IT」をスローガンに掲げ、既存のマーケティング概念では捉えることができないような新しいことを行う「わけのわからない会社」を目指していきます。今まではITの課題をITで解決してきましたが、今後は、IoTを使って、直接的に人々の人生を豊かにするイノベーションに取り組んでいきます。
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