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知的情報処理の最前線:「ブラックホール直接撮像」への挑戦

2016.03.01

Updated by Masayuki Ohzeki on 3月 1, 2016, 06:12 am JST

重力波検出に成功というニュースが世界中に轟いた.

サイエンスニュースに興味のある人はもちろん、昔からSFが好きだった人、広く一般に通用するニュースだっただけに反響も大きい.

重力波の名前にある、重力は身近な概念であろう.物体が何故落下するのか、ニュートンが落ちるリンゴから着想を得たという物語つきで広く知られた万有引力という概念から、質量を持つ物体が存在すると重力場といって、空間を歪ませてモノを引き寄せる作用が生じる.これが重力の起源である.

その重力場の歪みが、波状に空間を隔てたところへ伝播する現象、それが重力波である.

重力波が発生するためには、巨大な質量を持った物質同士が引き合い、
合体するといった非日常的なスケールの出来事が起こらない限り、生じない.

巨大な質量を持った物質の成れの果てが、ブラックホールである.

今回の重力波検出はふたつのブラックホールが連なり回転をしながら合体をするというイベントがおきたこと、
そしてそれを検出するための準備を世界規模で着々と進めて、遂に結実した科学的な大ニュースである.

さて、話題に含まれるブラックホール.

見たことのある人は居るだろうか?

「本で読んだときに、見たことがある!!」

本当かな?

ブラックホールは真っ黒.光すらも飲み込む.
光は逃れることはできないので、ブラックホールからは光は出てこない.
そのため真っ黒に「見える」.

そして宇宙空間.真っ暗だ.背景が真っ暗で、見たい対象も真っ黒であれば、
とても見ることができない.

実はブラックホールを見たことはないのだ.

理論的な研究や、他の天体の動きをみることで間接的に見ることはできる.

しかしそれで納得がいくだろうか??

やはりブラックホール、穴が見たいと思うのは、少年少女の頃からブラックホールの存在を知ってワクワクしていた人には多いことだろう.

このブラックホール、何でも吸い込む巨大な重力場の持ち主であるから、
周囲にある物質をまさに吸い込んでいる.

そのときにブラックホールの周りに様々な物質でできる降着円盤という領域が出来上がる.降着円盤を確認すれば中心に化けものが棲んでいて、まさに様々な物質を引き寄せているということが推察される.

しかしやっぱり穴が見たい.その降着円盤の中心に、ぽっかり穴が見えたらブラックホールだ!!と世界中の人間が叫ぶに違いない.

様々な検討の結果、降着円盤の中心部分には、ブラックホールの黒い穴が見えるかもしれないということが予想された.

我々が見るべきはこれだ.ブラックホールを直接見るために、降着円盤の中心部分に穴があいていることを見れば良い.

この穴のことをブラックホールシャドウと呼ぶ.

この野望に向けて、世界中の研究者を巻き込んだ.超巨大プロジェクトが走っている.
遠く遠くはなれたブラックホールのぽっかり空いた黒い穴「ブラックホールシャドウ」をしっかりと見極めるくらいの高分解能の高精度の望遠鏡が必要である.しかし地球上にうまくばらまいて、広範囲の情報を取ることにしても、広い広い宇宙空間に対してはちっぽけすぎる地球である.宇宙空間に測定する装置を設置するにせよ、メンテナンスや通信が可能なものでないといけない.その意味で限られた情報から高解像度のブラックホールの周辺にある降着円盤、そしてその中心部の小さい小さい穴を見るという途方に暮れるプロジェクトなのだ.

現状の解像度やデータの処理方法では、降着円盤の中心部分に明るい丸い点が見えるという結論に至った.この明るいものはブラックホールが様々な物質を飲み込み、その物質は非常に高速で動いている際に放出している光で見えているものだ.

穴がない.

ブラックホールが確かにそこにあるという小さな穴「ブラックホールシャドウ」が見えない.

解像度が足りない.つまり情報が足りないために、見たいものが見えないという状況なのだ.

ここで思い出すのは、少ない情報から見たいものを見る技術はなかっただろうか?

以前ここでも話題にした「圧縮センシング」である.

その圧縮センシング技術により、地球規模で得た情報の随までしゃぶり尽くして、そしてパズルを解くがごとく得られた情報を組み合わせて、限度ギリギリまでの解像度を得ることでポッカリと空いたブラックホールを見るという計画が今まさに走っている.

重力波のニュースにいろめきだっているのはもしかしたら彼らかもしれない.

間接的に見る技術だけでは満足いかない.直接見ることにロマンがある.

百聞は一見に如かず.

まだまだ科学は止まることを知らない.

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大関 真之(おおぜき・まさゆき)

1982年東京生まれ。2008年東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程早期修了。東京工業大学産学官連携研究員、ローマ大学物理学科研究員、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て2016年10月から東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授。非常に複雑な多数の要素間の関係や集団としての性質を明らかにする統計力学と呼ばれる学問体系を切り口として、機械学習を始めとする現代のキーテクノロジーを独自の表現で理解して、広く社会に普及させることを目指している。大量の情報から本質的な部分を抽出する、または少数の情報から満足のいく精度で背後にある構造を明らかにすることができる「スパースモデリング」や、次世代コンピュータとして期待される量子コンピュータ、とりわけ「量子アニーリング」形式に関する研究活動を展開している。平成28年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。近著に「機械学習入門-ボルツマン機械学習から深層学習まで-」、「量子コンピュータが人工知能を加速する」(共著)がある。

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