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顧客が本当に求めているもの

What customers really want

2016.03.24

Updated by Mayumi Tanimoto on 3月 24, 2016, 06:57 am JST

大原様

イースターの休暇時期なので、電話が混線して見ず知らずのインド人から電話が一日10回ぐらい来るのと、弁護士が間違った手紙を送ってくるので鬱です。今日もネットが落ちています。日本氏ねじゃなくてイギリスのネット氏にやがれと吠えたい今日このごろです。最近はトランプ氏のビフ面を眺めて現実逃避するのが唯一の生きがいです。

前回は、アメリカのインディペンデント書店が強いわけ でアメリカの書店の変遷をご紹介いただいたわけですが、アメリカの書店も試練をくぐり抜けて生き残ってきたわけですね。アメリカらしいなと思ったのが以下です。

繁盛している書店を経営している知り合いの人は「本が好き」「切れ者」「しぶとい」というのが共通項で、頼もしい姉御タイプが多いですね。

チェーン店や大型書店、ネット書店が台頭していても、個性的なオーナーが知恵と想像力を駆使して書店を経営しているのは、進歩と自立というアメリカの原点を体現している感じがします。日本も小規模な本屋さんが減っていますが、こういうアメリカの独立系書店の個性を売り出すやり方というのは大変参考になるでしょう。

大原さんご指摘の通り、ロンドンのチャリング・クロスの辺りもだいぶ独立系書店が減ってしまいました。しかし新たに開店する店や、そのあまりにも強い個性のために、しぶとく生き残っている書店もあります。

例えば温泉が湧いていることで有名なバースにあるMr B’s Reading Emporiumはその典型です。ロンドンの金融街で弁護士をやっていたNic Bottomleyさんと Juliette Bottomleyさん夫婦が 2006年に開いた書店です。

建物はジョージアン様式(多分相当高価。イギリスは古くて美しい建物は高価で億単位の値段だったりします)で、元々アンティークショップだったのを改装しています。外観も内装もインテリアもチェーンの大型書店の安っぽさとは正反対で、古き良き美しさに溢れています。

Nic さんと Julietteさんは金融専門の弁護士でしたが、何か自分でビジネスをやりたいと考えており、弁護士として8年働いた後に書店を開きます。イギリスの古いマーケットタウン(日本の宿場町のようなもの)をターゲットに 出店調査をしていましたが、当時バースには独立系の書店が一軒しかないことに気が付き開店することを決めます。

イギリスの古いマーケットタウンというのは、大抵の場合、緑に溢れ、歴史的な建物や公園、博物館などがあり、大昔に作られた街なので、 歩行者や自転車に優しい作りになっています。住環境が良いので不動産価格が高く、中流以上のインテリ層が住んでいることが少なくありません。バースは大学もあるため中流以上の階層が多く、中流以上の高齢者も少なくないので、 本や演劇などの「文化」を楽しむ習慣がある人々が多く住んでいます。そこで独立系書店の需要があると判断したわけです。

イギリスは日本以上に「文化」の階層による分断が激しく、所得が低い階層は本を読む習慣がないばかりか、読み書きすらできないこともあります。文学、詩、独立系映画、博物館、演劇、絵画などを楽しむのは中流以上の人々です。日本のように異なる階層の人達が同じ漫画を楽しんだり、非熟練労働者の人が市民講座で俳句を楽しみといったような光景はありません。日本は文化が大衆化しています。

 Mr B’s Reading Emporiumが面白いのは、単に書籍を売るだけではなく、読者と著者をつなぐイベント開催したり、お客さん向けに本を選ぶプロがコンサルティングを提供していることです。イベントは店内外で開催されており、著者のトークショー、ミニコンサート、ブッククラブ(本好きの人は本を持ち寄って一緒に読む部活)など様々。

店内は書店というより大学のラウンジのような雰囲気。イベントでは手つくりの食事が出てくることも。こういうイベントでペットボトルに入った飲み物などが出てこないところがイギリス風。

この日はスウェーデンナイトだった模様です。

Reading Spaというサービスは、1万円ほど払うと、同店のブックセラピールームで美味しいケーキとお茶を楽しみながら本選びの専門家と語らい、自分にピッタリの本を選んでもらえるというサービスで、おみやげもついてきます。バースには数年前にオープンした温泉もあるので、温泉で休暇ついでにここでブックセラピーを受けるというのはなかなか良さそうです。

Mr B's Reading Year Book Subscriptionというパッケージも面白いです。同店の専門家が本の好みを聞き取り調査し、一年間にわたって毎月本を届けてくれて、おみやげもついてくる、というサービスです。お客さんの要望や好みを、丹念な対話から 聞き出すことは人間にしかできませんので、AIは 競合になりえません。お客さんは本が大好きな専門家と、本について語り合いたいのです。

配送される本のパッケージも手つくり感覚満載で面白いです。(とってもイギリスっぽい感じの包装)

イギリス北部のNorthumberland(うちの家人実家近くの炭鉱地帯) にあるBarter Booksも面白い書店です。

オーナーのStuart Manleyさんは元々鉄道マニアで、廃駅になったAlnwick Stationの建物を使用して鉄道模型店をやっていましたが、商売にならないので奥さんの助言を受けて、1991年から本を売っています。

現在在庫は40万冊ほどあり、イギリスの中古書の図書館と呼ばれているほどです。売っているのは 希少本や中古本で、高いものは一冊600万円ぐらいします。ベストセラーや自己啓発本とは無縁です。第二次大戦中のグッズのレプリカ販売も有名です。持ち込まれた本と売り物の物々交換もやっています。中にはカフェもあって、その場で手作りのサンドイッチやケーキがいただけます。

ネットを経由すればどこからでもモノは買えるけど、イベント、雰囲気、店主との対話、人との繋がり物々交換はそこに行かなければ体験できません。ネットが普及したからこそ体験や対面での人との繋がりの希少価値が高まるのでしょうね。

これは書店に限らず、ITや通信の世界でも同じです。例えば高齢のお年寄りやネットの扱いが得意ではない人は、対面での店員さんや専門家との「交流」を望んでいます。アプリの向こうの人が求めるのは対面で誰かに出会うことやイベントで、アプリそのものではないこともあります。デバイスは対面でのコミュニケーションのきっかけの「道具」のこともあります。

大原様、ボーダーズはなぜダメになったのか?という記事で、オーナのボーダーズ兄弟が顧客である若い人が望む「場」を提供する「感度」を失ってしまったことがビジネスが失速した理由の一つだ、と指摘しておられました。(確かに私がアメリカの片田舎に住んでいた20年ほど前、友達に車を運転させてボーダーズに出向き、他のクラスのイケメンをチェックしていたものです)出版社や書店が本を売る仕掛け、として取り組んでいる「リアル空間でのイベント」の最近のトレンドはどんな感じでしょうか?そしてそのような取り組みはAmazonのリアル書店に対抗可能なのでしょうか?

 

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連載企画「往復書簡・クールジャパンを超えて」は、マガジン航[kɔː]とWirelessWire Newsの共同企画です。マガジン航側では大原ケイさんが、WirelessWire News側では谷本真由美さんが執筆し、月に数回のペースで往復書簡を交わします。[編集部より]

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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