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メイカームーブメントの幼年期の終わりと失敗の語り方

Childhood's End of the Maker Movement and How Makers Talk About their Failures

2016.03.23

Updated by yomoyomo on March 23, 2016, 14:35 pm UTC

今年のはじめに偶然にも John Baichtal 編『物を作って生きるには ―23人のMaker Proが語る仕事と生活』と高須正和『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』という、いずれもメイカームーブメントを主題とする二冊の本を献本いただきました。今回はこの二冊について書きたいと思います。

このテーマについての本がなぜワタシに届くかというと、それはワタシが『Make: Technology on Your Time』日本版に創刊時から翻訳者として携わってきており、このテーマにずっと首を突っ込んできたからです。田舎に住むワタシは年に2回ほど東京に遊びに行くのですが、何年も Make のイベントにあわせたスケジュールに設定していたくらいです。

しかし、ワタシ自身は「メイカー」ではありません。

思えば一昨年の秋、江渡浩一郎さんにこのテーマで取材を受けたことがあり、そのときも自分自身をメイカーと呼べないこと、ワタシを取材してもお役には立てないだろうことを前置きさせてもらったのですが、2人でお酒を傾けながら、ワタシが思いついたことを喋るたびに江渡さんがメモをする図は、第三者的に見ればかなりシュールなのではないかとぼんやり思ったのを思い出します。

ワタシの与太話が江渡さんのお役に立ったとは今でも思えないのですが、それはともかく『Make』日本版の Volume 01 が出たのが2006年夏ですから、今年で10年になります。月日が経つのは早いものです。

『物を作って生きるには ―23人のMaker Proが語る仕事と生活』

『物を作って生きるには ―23人のMaker Proが語る仕事と生活』は、寄稿者のミッチ・アルトマン(そういえば、ワタシは『Make』日本版 Volume 11で彼の「ハッカースペースの作り方」という長い文章を訳しているのですが、これは今でもお勧めできます)がずばりタイトルに書くように「好きなことをして生計を立てる」ところまできたメイカーたちを取り上げるものであり、しかも彼らが作るものの多彩さから、メイカームーブメントの裾野の広がりを実感できます。

しかし、ワタシがこの本を読んで特に面白いと感じたのは、彼らのメイカーとしての成功についてではなく、その失敗についての語り口だったりします。これはワタシが性格が悪いからとも言えますが、実はその語り口の地に足が着いたところこそが、本家『Make』創刊から10年経ったメイカームーブメントの成熟を表しているように思うからです。

例えば、著名な Arduino ハッカーであるマイケル・クランプスは以下のように失敗について語ります。

 起業家精神についての議論が失敗の重要性について言及しないまま終わることはありません。意気揚々とした20代の起業家たちが、失敗はすばらしい、なぜなら僕たちは失敗から学ぶことができるからと語るのをしばしば目にします。「失敗してもオーケーです! 事実、失敗するのはすばらしい!」と彼は笑顔を浮かべて言います。
 僕はそういうやつは好きじゃないですね。
 彼がいいところをついていることは、まあ認めましょう。僕は失敗や間違いから多くを学んできましたし、それはそれ相応に痛みを伴うものでした。失敗は最悪、でも僕はそこから学びました。とはいえ僕は失敗がいやですし、自分の失敗について笑顔になることもないでしょう。電子機器の製造と会社経営は、驚きと予想外の展開でいっぱいで、しかもその多くはうれしくないものです。(72ページ)

思えば、この10年間ずっと楽しみながら追いかけてきたメイカームーブメントでさえ、「失敗してもオーケーです!」と笑顔で言えないような苦い問題が表面化してきました。一例を挙げれば、さきほど名前を出した Arduino などまさにそうで、グループが分裂して揉めている状態ですし、メイカームーブメントの代名詞的存在である3Dプリンタの代表選手である MakerBot Industries は、やはり3Dプリンタの大手企業の Stratasys に買収されましたが、その過程でオープンソースハードウェアというヴィジョンは後退し、そのヴィジョンを強く主張していた共同創業者のザック・スミスは放逐されてしまいました

『物を作って生きるには』に収録されたそのザック・スミスのインタビューでも、古巣について語る際はさすがに苦々しさがにじみます。

僕たちはMakerBotをはじめた時、もともとすごい高い目標を持っていた。僕たちはオープンソースにしたかったし、すばらしい3Dプリンターを作りたかったし、できる限り安くしたかった。僕がMakerBotで過ごした時間は、すごくいい時間だった。そこであらゆる種類のゴタゴタが起こった。君が詳しく聞きたいかどうか。この話はいろいろなところで何度もしているから、いまとなっては人生のかさぶたに触るようなものだよ。(136ページ)

『物を作って生きるには』は基本的に翻訳書ですが(訳者は野中モモさん!)、日本版は日本のメイカーの文章やインタビューが追加されています。やはりというべきか日本のメイカーのほうが失敗の恐れに対して慎重であり、その語り口は抑制的に思えました。その理由を国民性に求めてよいかは分かりませんが、それはともかくヒゲキタさんの欲を感じさせない淡々とした文章は、これが Maker Faire Tokyo で目の当たりにして子供のようにワクワクした手作りプラネタリウムの作者なのか! とあのときの感動が蘇り、泣きそうになってしまいました。

さて、同じく日本のメイカーにして3Dプリンターとドローンの両方を手がけてきた重要人物であり、ワタシもファブラボ大宰府で氏が飛ばすドローンを目の前にして大盛り上がりしたこともある Hotproceed の湯前裕介さんも語り口は一貫して地に足が着いた感じですが、前述の MakerBot の方針転換については、キッパリと以下のように語っています。

 Makerbotも、ストラタシスに買収されるまで大きくなるとは予想していませんでした。でも、あの会社はザックの考えが芯だったのかもしれないですね。ザックはオープンソースを絶対に貫く、と考えていた技術屋だったわけだし。オープンソースではなくなってザックが退任したいま、ザックは過去のことをまったく気にせず自分のやりたいことをやっているよね。で、ブレは迷走しているみたいで、私にはふたりの人生は明暗分かれたように見える。

『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』

「ふたりの人生は明暗分かれた」とは現時点では言いすぎではないかとも思うわけですが、そこで高須正和さんの『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』を読むと、そのあたりがなんとなく分かるような気がします。

『メイカーズのエコシステム』は、『物を作って生きるには』で語られる、主にアメリカにおいてもの作りで生計を立てる人たちを支えるメイカームーブメントのエコシステムを扱った本です。メイカームーブメント全体についても主要な文献を紹介しながら語りなおしが行われていますが、深圳とシンガポールという著者が一番面白いと感じる場所の話を本のメインに据えており、その視点は体系的なものではなく、何より著者の情熱と興奮が前面に出た本です。

個人的にはそれだけでも十分に面白かったですが、それに(著書『メイカーズ進化論―本当の勝者はIoTで決まる』も良かった)小笠原治氏や江渡浩一郎さんなどの寄稿、そして山形浩生の解説がうまく全体のバランスを整えている感じです。

『メイカーズのエコシステム』でも当然「失敗」は語られていて、一例を挙げるなら Kickstarter で過去2年間に30万円投資した結果の惨状の話があります。

メイカームーブメントを語る際に、かつてはもの作りに先立つ資金調達の手段として、Kickstarter に代表されるクラウドファンディングを語るのが定番になっていますが、現実はそんなうまく収まる話のほうが少ないのです。『物を作って生きるには』でもクラウドファンディングの現実の難しさについて語られていますが、同じことについて書いても、高須正和さんのそれを明るく笑い飛ばすような勢いにこそ氏らしさを感じますし、そのあたりに彼が日本を飛び出してイキイキ活躍している理由があるように思いました。

『メイカーズのエコシステム』を読むと、Makerbot を解雇された後も、このエコシステムの中心である深圳を拠点に定め、『メイカーズのエコシステム』でも取り上げられている世界最大のハードウェアアクセラレータ HAXLR8R(現在は HAX)などと仕事をしているザック・スミスのほうが、クローズドソースに方針転換した MakerBot 本家よりも面白いことをやってくれそうなのは分かるでしょう。

このようにワタシは『メイカーズのエコシステム』を楽しく読んだわけですが、性格の暗いワタシは、これからどうなるのだろうとも少し考えてしまいました。それは、ティム・ウーが『マスタースイッチ 「正しい独裁者」を模索するアメリカ』書いた、かつて電話もラジオもテレビも通った道である、オープンで自由だった分野が支配と独占へ向かうサイクル論が、メイカームーブメントにも当てはまらないかということです。

そしてこのサイクル論がインターネット自体にもあてはまるのではないかというのがティム・ウーの見立てですが、最近でもツイッターや Medium の創業者であるエヴァン・ウィリアムスが、市場の成熟とはスタートアップの新規参入がいちかばちかなくらいその余地が狭くなることと、テックスタートアップの終焉について書いているのを読み、『マスタースイッチ』のことを思い出したというのがあります。

メイカームーブメントの多様さを見れば、それは杞憂かもしれませんが、本文でも書いた MakerBot の挫折と買収などその一断面とも言えますし、このムーブメントとも近しい関係にある IoT(モノのインターネット)という言葉の広がりは、規格化と統合の欲求があるように思うのです。それは便利さをもたらす代わりに自由闊達さを失わせるかもしれないのです。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。